第58話/身内が大事な場で下手こいた時ほど恥ずかしいものはない。
ひっさびさすぎる投稿です!
リアルの諸事情でちまちまとしか進まず申し訳ない!
「ひいいいっ! 舌がー! 舌が伸びてくるーっ!? うわ涎飛んできたばっちー!!」
「ぎゃー! なんなのあの剥き出し歯茎は!? 生理的にキモいっつーのよ!!」
ダンジョン喰らいに隠れていたのがバレて絶賛逃走中の現在、マルガリーゼとリリベルちゃんが担ぐオレ様の両肩の上で元気な悲鳴を上げていた。
まあそれも後ろから白いなめくじに手足が生えたような魔物の群れに追われていたりすれば、仕方のない事だと思うしオレ様もあれはヤだ。
しかも天井や壁を埋め尽くすような数で半端ない。
オレ様も後ろをチラリと見たけど、白い魔物の動きが地を這うように滑らか過ぎてまるで口が付いた大量のうどんが迫ってきてるみたいで背中に悪寒が走るほどだった。
あげく届かないものの、たまに鞭のようにしなる長い舌をこちらにむけて放ってくるので質が悪い。
「アビゲイルさんまずいです! 魔物との距離が段々縮まってきています!!」
メルナリーゼの叫びにオレ様はふと考える。
前を見れば距離はまだあるものの食い破られた扉が小さく見えてきており、このままでは白い魔物達と一緒に到達してしまう。
そうなれば広い場所に出た白い魔物の動きがどうなるかちょっと予測できない。
その前に足止めなり迎撃なりしたいところだけど…………あ、そういえば。
「そういや二人共、なんか爆発系の魔法とか撃てたりする?」
「火の魔法なら撃てるわ!」
「あたしは風の魔法ならいけるっつーの!」
オッケーオッケー。それならなんとかなりそうだ。
オレ様も爆発系の魔法はあるものの、仮想から異世界になって魔法の威力が洒落にならないくらい強化されてるっぽいので下手に撃つと危なそうだしな。
「じゃあ二人は魔法の準備出来次第すぐに撃つ! メルナリーゼはそのままダッシュでよろしく!!」
「は、はい! でもこんなところで、魔法を撃って、大丈夫なんですか!? 崩落とか!!」
「…………ダイジョウブ」
『なんで片言!?』
背中の二人から突っ込まれたけど、まぁ大丈夫だろう。見た目的に頑丈そうだったし。
決して考えていなかったわけじゃないデース。
「どっちにしろ追い付かれたらやばいんだし、やっちゃえやっちゃえ」
「あーもう! こうなったらやってやろーじゃねーのよ!マリー!!」
「う、うん! やろうリリーちゃん!」
決意の声と共に背中越しに二人が上体を起こして、魔力を集中させていくのを感じる。
二人の姿勢を保つために尻を支えるオレ様の手にも力が込もり、その柔らかい弾力を思わず二、三度揉んでしまったのにはありがたや柔らかや。
「集い纏いて、解き放て、<衝撃の風>!」
「燃え散り、焼き尽くせ、<爆ぜし火球>!」
二人の声がほぼ同時に重なり、少しして後方でくぐもった爆発音が響いた。
どうやら二人の魔法は上手くいったようで、オレ様の探索スキルから白い魔物の反応が段々遠ざかっていく。
しかしこのままだとすぐにでも白い魔物達に追いつかれる可能性があるので、オレ様の方でも足止め魔法を仕掛けておくか。
足元を意識して発動っと。
「〈吸血の薔薇〉」
「んう!? なんかいきなり地面に魔方陣が……!」
「しかもなんか茨みたいなのが生えて消えたじゃねーのよ!?」
なんか二人の反応が新鮮だなぁ。
ゲームだと感知系のスキルや魔法でさらっと看破されたりする死に魔法だったんだけども。
ちなみにこれ罠系の中級魔法で、任意に設置した場所にターゲットが足を踏み入れると即座に茨が絡みつき、<吸血>によりダメージを蓄積させると同時に数秒足止めするという効果がある。
しかも一定以上の吸血を終えると、紫色の薔薇の花が開花させて辺りに出血毒を撒き散らして更に追加ダメージというのだから質が悪い。
もっとも、魔法やスキルである程度ダメージを与えると破壊されてしまうという弱点もあるけども。
罠魔法をいくつか設置したところで、前を走るメルナリーゼが食い破られた扉を走り抜け、続いてオレ様も肩に担ぐ二人と一緒に扉の外へ。
ウィィー!? ウィウィ! ウイィハァー!!
岩肌の洞窟をそのまま走り続けていると、少しして後ろから悲鳴だかなんだかわからない叫び声がこだましてきた。
どうやらあれだけの数が災いしたらしく、探索スキルで確認してみると罠にやられて完全に詰まってる様子が見て取れる。
これでしばらくは足止めできるとは思うけど。できる筈。できたらいいなぁ。
しばらく四人とも無言のまま走り続けると、岩肌の洞窟の様子が木の根と土に変わっていき、人の腕くらいの太い蔦が垂れ下がる出口へとたどり着く。
メルナリーゼが蔦をよけてくれ、そこから外に出るともうすっかり暗くなっていた。
吸血鬼の暗視能力があるものの暗いのはわかるし、この暗さだと木々の葉から零れるわずかな月明りでお互いがうすぼんやりと見えるくらいだと思われる。
「さて、二人ともちょっと下ろすけど立てるか?」
「う、うん。大丈夫だと思う」
「あ、あたしも多分大丈夫そーなのよ」
返事がもらえたので二人をゆっくり下ろすと、多少のふらつきはあったもののしっかりと立てるようだった。
ああ、さらば二人の温もりと両手の柔ら感触よ……。
ともあれ、今はダンジョンの中からあの魔物がすぐに出てこないようにしておかなくては。
オレ様はGPカタログよりEランクの魔晶石を選択し、手元に現れたほのかに光を放つビー玉サイズの紫色の石を地面へと置き、そこから三歩程下がる。
「アビゲイルなにやってるの? って、それってもしかして魔晶石!?」
不意にオレ様のすぐ隣に来たマルガリーゼがなにやら驚いてるご様子。
隣からふわりと香るマルガリーゼの匂いを楽しみつつ、いまからやることをかいつまんで説明する。
「いや、中の魔物が簡単に出てこないように、ちょっと嫌がらせをしとこうかと」
「…………どういうこと?」
いかん。かいつまみすぎたのか、横目でマルガリーゼを見るとこてんと首を傾げて不思議そうにしている。
えーっと、
「つまりこいつで出口を塞いでしまおうというわけで。<創作錬成>!」
言うより見せた方が早いと思い、サブスキルである錬成法の一つを発動。
ちなみに胸の前で一度叩いた両手を地面につけて発動させたのは特に意味はないが、それは某錬金術師をマネしてやってみたかったから。
いや、知ってる人なら誰でも一度はやってみたいと思う筈。……思うよね?
まあそれはさておき、発動はうまくいったようで魔晶石を中心に魔方陣が浮かびあがり、それに集まるように土が盛り上がり人型を形成していく。
そして出来上がったのは五メートル程の角ばったブリキの玩具のような形をした土のゴーレム。
「うわっ! うわっ! うわーっ!?」
「ちょ、なんだっつーのよコレ!?」
「まさか、ゴーレムを作り出したんですか……!?」
なんだか三人娘が揃って酷く驚いてるご様子。
サブスキルの錬成じゃなくとも、魔法系の職業なら割と簡単に覚えられるやつなんだけどなぁ?
「ゴーレム! あそこの穴を塞いで誰も通さないように!!」
そんなに驚くほどのことじゃないのになぁ? と思いつつもゴーレムへと命令する。
命令されたゴーレムは無言のままに歩き出しダンジョンの入り口である大樹のうろの前に立つと、くるりと後ろを向いてそのまま座り込んだ。
「なにゆえまさかの体育座り……!?」
あれ!? 周りの土やら石やらで入り口を塞いで、そこの番人のように待機するイメージだったんだけども!? なんか腕の中に顔を伏せたりして酷くシュールな絵面になってるんだけども!?
「…………なんか寂しそう」
「どこか哀愁が漂ってるような気がしますね……」
「というか、拗ねてるように見えなくもねーわよ?」
やめて! 三人共そういうこと言わないで! なんかオレ様がゴーレムをいじめてるみたいになるから! あとゴーレムもちょっと顔浮かして切なそうな目でこっち見んな!! 芸が細かいんだよ!!
まったく誰だよあんなん作ったのは! …………オレ様か!!
「はい! はい! それでこれからどうする!? いっそ出てきたところを魔法で吹っ飛ばそうか!?」
なんだか非常にいたたまれなくなったので、場の雰囲気を変えるために出した提案にゴーレムが肩をビクーッとかさせてるけど知ったことじゃない。
「だ、だめだよ! いくらアビゲイルが強くてもあんな数は無理だよ! それより早く町に戻ってこのことを伝えないと!!」
ちぃっ、マルガリーゼのおかげで命拾いしたなゴーレムめ。
「で、でもどーすんのよ? こんな夜道じゃ碌に見えないし、歩くにしても魔物に襲われでもしたらひとたまりもねーわよ?」
うーむ。リリベルちゃんの言う事も至極もっともである。
オレ様はまぁ、強さ的に問題ないとしても、他の三人娘を危険にさらしたくはない。
「あ、じゃあ、歩かなければ問題ないか」
思い立ったが吉日ということで早速実行。
「従魔召喚、黒雷朱雀!」
歩けなければ飛べばいいじゃない、ということで。
従魔にした闇属性の魔物を呼び出す召喚陣から出てきたるは、黒と赤の模様を持つ黒き雷を操りし雄々しき闇の孔雀。
その身体ははっきり見える程に身体の紋様が紫に輝いていて――――。
「……ひいっ! なんかでっかい鳥が横倒しで白目向いて嘴から泡吹いてる!?」
ちょっと待たんかそこの従魔。
「こ、これは、もしや死んでいるのでしょうか? いや、でも、いびきのようなものは聞こえますし……寝てる?」
なにこれめっちゃ恥ずかしい……。
「いや、ちょ、普通にキモいっつーのよ」
やめて。召喚したオレ様の精神ダメージがカンストしちゃう。
そんなオレ様の思いをよそに黒雷孔雀はごろりと仰向けになり、ボリボリと器用に足で腹を掻く。
『うわぁ……』
「…………」
恥ずかしさと怒りとやるせなさで口元が引きつるのを感じつつ、黒雷孔雀を起こしてやるべく拳に力を込めてそこへ向かうのだった。
スマホのタッチパネルが暴走して、夜に仕事場にミスTELしてもーた……orz




