第46話/三者三様の音色。
あ、あれ? なんか知らないうちに一ヶ月経ってしまった……。
遅くなって大変申し訳ないorz
「あ、やっと降りてきた!アビゲイル!こっちよこっち!」
一階に下りてくるなり、オレ様を呼ぶ声が響く。
声のした方に顔を向ければ、ギルドと併設された酒場の四人掛けの一席で、リリベルちゃんがこっちに手を降ってくれていた。
その隣には飲み物を持ち、どこかほっとした表情のマルガリーゼとメルナリーゼの姉妹。
オレ様も手を振りかえしつつ、酒場のおばちゃんに飲み物を注文して残っていた席に座る。
ほとんど座ると同時に運ばれてきたアップルジュースを一口飲んで一息つき、オレ様は三人に向かい軽く頭を下げた。
「あー、なんか心配させたみたいでごめん。
それと待っててくれてありがとう」
と、謝罪と感謝の意を述べたわけだけど、なぜ三人共驚いた顔をしてますか。
「いやだって、アビゲイルって吸血鬼なんでしょ?
日の下を歩けるだけでも驚きなのに、素直に謝ってくるなんて驚き意外にねーわよ」
え、謝るくらい普通だろうに。
リリベルちゃんの言葉にそんなことを思っていると、
「そうですね。吸血鬼の方々は基本的に長命で貴族出身の方が多く、何と言いますか相応に気位が高いので自ら謝る方はほとんど見かけませんから」
「巷でも吸血鬼って言えば、”認めぬ・譲らぬ・謝らぬ”っていうのが代名詞みないなものだしねぇ」
マルメル姉妹からもこの言われよう。
まるでどこぞの聖帝さんを彷彿とせるんだけど、この世界の吸血鬼。
「……言っとくけど、オレ様そんな反抗期の子供みたいなのと違うからな?」
そんなのと一緒にされては困る。
「わかってるわよ。だから驚いたんじゃねーのよ」
「アビゲイルさんは至って普通ですから、安心して下さい」
「そうね、普通よね。ちょっとお人好しっぽいところはあるけど」
うん、よかった。
三人から妙な偏見を持たれてなくて。
それから四人でしばらく他愛ない話をして過ごしたが、可愛い女の子に囲まれて楽しいわ目の保養になるわで、ご馳走さまでした。
そんな幸せな一時を過ごしていると、ぽつりぽつりと冒険者達がギルドへ姿を見せはじめ、受付へと並んでいく。
笑顔の受付嬢さんといくらか話し、カウンターへ植物や肉、牙等の素材を卸していくのを見る限り、依頼の達成報告をしているのだろう。
きゅるる。
漂ってくる植物の青臭さや、肉の血生臭い香りもこれまたファンタジーと思っていると、不意に可愛らしく鳴る音が一つ。
音は小さかったものの、ちょうど話の区切で静かになったところに鳴ったので、よく聞こえたのだろう。
まあ考えたらお昼からそれなりに時間が経ってるし? お腹が鳴るのは仕方ないよな、と思いながらオレ様は全力で顔を背けている誰かさんの方を向きつつ、
「さて、誰かさんの腹時計も鳴ったことだし――――」
「ちょっと! 人が誤魔化そうとしてんのにダイレクトにばらしてんじゃねーわよ!!」
真っ赤な顔でリリベルちゃんが抗議してくる。
はっはっはっ、オレ様は誰とも名前を言ってないけど、本人から名乗りをあげられたら仕方ないので、
「という、本人からの申告もあったことだし、ここいらで夕飯にしようと思います」
「なーっ!? あ、あたしを嵌めたわねアビゲイル!?」
やだなぁ、女の子を嵌めるとか。
ちょっとゾクゾクしてまうわ。
「あとあんた達も隠れて笑ってんじゃねーわよ!」
リリベルちゃんが振り向く横でマルメル姉妹が下を向いて肩を震わせている。
なんとか笑いから復活したらしいメルナリーゼが顔をあげ、
「まあまあ、リリベルさん。そろそろ夕飯時ですし、お腹が鳴るくらい恥ずかしいことじゃありませんよ? ……ふふ」
「にやにやしながら言われても慰めになんねーのよ!」
がるるる、と噛みつかんばかりにリリベルちゃんが抗議した時だった。
きゅきゅーる。
また一つ鳴る可愛らしい誰かの腹時計。
「……ねえメリー」
「……はい、なんでしょう?」
リリベルちゃんがメルナリーゼをじっと見つめ、
「あんた、お腹が鳴るくらい恥ずかしいことじゃないって言ってたわよね?」
うん。それはオレ様も聞いてた。
「ええ、それがなにか?」
素知らぬ顔でこくりと頷くメルナリーゼだが、
「ならなんで無表情で顔赤くしてんのよ」
「……黙秘します」
「ずるくない!?」
メルナリーゼはそっぽを向いて黙秘を貫く姿勢のようだ。
「リリーもメリーも落ち着いてよ。あんまり騒ぐとお店に迷惑だし、はしたないわよ?」
すまし顔で二人を嗜めるマルガリーゼ。大人やね。
ぐぎゅるーごるるるる。
そして鳴り響くなんとも盛大な腹時計。
『…………』
え、まさか?みたいな表情でリリベルちゃんとメルナリーゼが見つめてくるけど、残念ながらオレ様じゃないのでパタパタと手を振って否定の意を表しておく。
そうすると必然的に一人残るわけで、全員の目がそちらに向いた先では、
「…………!!」
コップを両手でぎゅっとホールドしたままの姿勢で、耳や首筋をみるみるうちに真っ赤に染めていくマルガリーゼさんがおりました。
「なんだ今の音は?近くに獣でもいるのか?」
「ばかいえ。この近場にいたら騒ぎになってるだろうよ」
「それもそうか。しかし確かに聞こえたんだけどなぁ。
腹を空かせた狼みたいな唸り声が」
お腹の音だとを知らない、近くの席にいた冒険者の他意のない言葉が、マルガリーゼの背中へ突き刺さっていく。
まさかの追い打ちにマルガリーゼはテーブルに突っ伏し、
「……ごめん。私もお腹空いちゃった。ご飯食べたい」
素直に白旗を上げた可愛らしいマルガリーゼに、オレ様たちは微笑み通りがかったおばちゃんへ注文をするのであった。
お、おや? 確かお泊りイベントまで進行するはずが……。
毎度物語の進みがスローで申し訳ないorz




