第39話/不意打ちの衝撃は言葉が出ない程痛いよね。
いたいのいたいのとんでけ~、と一発変換したら、遺体の遺体の飛んでけ~になってちょっとどうなってんだ作者のパソコン……。
姉妹と一緒に訓練所に移動すると、そこは学校の体育館くらいの広さがある地面がむき出しの荒地だった。
周りは三メートルくらいのレンガっぽい材質の壁で囲まれているものの、地面はでこぼこで整備されてなく、なんだか訓練所というより空地感がすごい。
一応所々に打ち込みようらしき十字の木の人形が地面に刺さっているものの、他は特に設備らしきものもなく、利用している冒険者はいまのところ見当たらなかった。
まあ気兼ねなく使用できそうでよかったけど。
アイテムボックスから、葉が円を描く銀色の懐中時計を取り出して時間を確認すると、あと三十分ほどで約束の時間になるところだった。
時間もまだあることだし、今のうちに姉妹に安全対策として用意したものを渡しておくか。
「さて、もう少しで決闘の時間になるんだけど、その前に二人に――――」
「その決闘ちょっとまったあああああっ!!」
懐中時計をアイテムボックスにしまい、姉妹に話しかけていると、どこかで聞いたことのある女の子の声が扉の向こうから聞こえてきた。
何事かと姉妹と一緒に扉の方に顔を向いた瞬間、
がちゃごっ。
扉は開かれることなく、内側でなにかが勢いよく衝突する音が響いた。
あー、うん。訓練所の扉って入ってくるのに内開きなんだよね。
「な、なにかしら今の痛そうな音……」
「多分知ってる人の声でしたし、様子を見に行ってみましょうか?」
「そうするか」
メルナリーゼの提案に三人で向かい、そっと扉を開けて中の様子を見てみると。
「~~~~~!!」
そこには白いワンピースに黒いコートを着たリリベルちゃんだった。
声にならない声をあげながら、黒のブーツを履いた足を「入」の形にして床にへたり込んでいる。
綺麗な紫色の瞳からは涙がぽろぽろ零れ、みたところまさに顔面でぶつかったらしく、トレードマークのとんがり帽子が床に落ちてあらわになった額も真っ赤に腫れている。
超痛そう。
「ち、ちょっとリリー大丈夫!?」
「大丈夫ですかリリベルさん」
「おお、よしよし。痛かったな?」
すぐに心配した姉妹が側へと寄り添い、オレ様はとりあえず正面にかがんで優しく頭を撫でてみた。
「…………(ふるふる)」
しかし相当に痛いらしく、姉妹やオレ様の呼び掛けにもリリベルちゃんは無言のまま小さく横に首をふるだけ。
「アビゲイル、治してあげられない?」
「任せてくれ!」
マルガリーゼからそんなすがるような目でお願いされたら、治すしかないね!
もともと治してあげるつもりではあったけど、可愛い子からお願いされるとテンションがあがるというもの。
「痛いの痛いの、とんでけヒール!」
ちょっとしたわるふざけしつつ女神の指輪に込められた回復魔法を使うと、淡い光がリリベルちゃんを包みこみ溶けるように消えていく。
光がおさまった後、リリベルちゃんの額からは赤みがなくなり、どうやら鼻の痛みもなくなったようで涙がぴたりとやむ。
「どうだ?まだ痛むか?」
「大丈夫リリー?」
「リリーさん、いかがですか?」
オレ様や姉妹の心配の言葉をかけると、リリベルちゃんは慎重には自分の鼻や額をつついて確認していく。
「……痛みがねーわよ!? ありがとうアビゲイル!」
リリベルちゃんからお礼を言われたんだけど、潤んだ瞳の笑顔の破壊力がすさまじい。
もし妹とか親戚の子とかだったら遠慮なく抱きしめそうだ。
姉妹の手を借りて立ち上がり、帽子をひろって被ったリリベルちゃんがどこか恥ずかし気な表情でこちらを見ながら言う。
「た、助かったわ三人とも。変なところを見せちゃったわね」
まあ自爆からの泣いてる姿を見られるのは恥ずかしいのだろう。
しかし変なところなど何もないと思ったオレ様は、サムズアップして教えてあげる。
「大丈夫! 別に青と白の縞々パンツは変じゃないぞ! 似合ってる!!」
「そっちじゃねーわよ! 変なとこ見てんじゃねーわよ!!」
怒られてもーた。
あげく見られないようにするためか、白いワンピースの裾を隠すように抑えたリリベルちゃんに威嚇されてしまう。
ちょっぴり悲しい。
「お、落ち着いてリリー。それより一体どうしてここに?」
マルガリーゼの言葉に威嚇していたリリベルちゃんが、あっ、と思い出したような表情に変わる。
「そうよ! あんた達に加勢しに来たのよ!!」
どや顔でそのスレンダーな胸を張るリリベルちゃん。
話によると、明日の同行する依頼に先駆けて自作しているポーション等のアイテムをギルドへ納品に来たのだとか。
それでたまたま受付嬢が呟いた一言から決闘のことを知り、詳しく聞いたところ、決闘の相手がオレ様と姉妹ということを知って、急いで駆けつけてくれたようだ。
いい子だなぁと思う反面、決闘の意味がわかってるのか心配になる。
「気持ちは嬉しいが、大丈夫なのか?もし負ければ関係のないリリベルちゃんも、なにかしらされるかもしれないんだが」
あの好色そうなチャラ貴族なら、リリベルちゃんほど可愛い子をみたらほっとくはずがないだろう。
まあリリベルちゃんになにかされるくらいなら、手持ちの強力な従魔でも呼び出して阻止する所存である。
「だいっじょーぶよ! あたしに秘策があるんだから! さあ行くわよ! 先に行ってあいつらを待ち構えてやるんだから!!」
なんだかテンション高めのリリベルちゃんに促されるまま、オレ様と姉妹は訓練場へと戻ったのだった。
魔女っ子には縞々パンツが似合うと思うの_(:3」∠)_




