第36話/チャラ男はあきらめない。
決闘。
それは元の世界の史実にもある金や名誉を賭けたり、奪われた女を取り戻す為、果ては酔っぱらい同士の喧嘩の勢いなどで行われた手段である。
ラノベでも悪巧みする貴族が主人公から奪うために仕掛けたり、逆に主人公がヒロインや奴隷のために仕掛けたりと、よくみる代物だ。
実を言うとオレ様もそういうのは嫌いじゃない。むしろ好きと言っていいほどかもしれない。
ゲームのシステムにも決闘があり、よくそれを楽しんだものだ。
「くくく」
思い出した途端、懐かしさに笑みがこぼれる。
当時、ゲームに慣れてない初心者や低レベルのプレイヤーに贈られる救済アイテムを狙い、勝てたら百万ゴールを渡す等と言いながらカモにする一部の悪質なプレイヤー達いた。
決闘システムは、お互いにレベルやステータスがある程度同じになる為に、勝つには力押しではなくスキルや駆け引き等の技量が物を言う。
なので始めたばかりのプレイヤーは、上級プレイヤーに叶うはずもないのだ。
あれは友人の知り合いという女の子から助けを求められたのがきっかけだったか。
初心者を狙うならと、新規アカウントを作って逆にこちらから悪質プレイヤーを誘い出した結果、軽く一億ゴール以上稼がせてもらったことがある。
あいつらときたら、ギリギリの勝負を演じたり軽く煽ったりするだけで割りとむきになって何度も勝負を挑んでくるしな。
まあ、悪質プレイヤーの悔しがる顔や負け犬のごとく吠えてくる様を見て悪ノリしたことは否定しない。
さて、目の前のチャラ男もそんなことを口走ったわけだが。
「それにしても決闘なんていいのか?今なら聞かなかったことにしてやってもいいんだぞー?」
「ふ、ふざけるな! このボクが決闘と言ったら決闘だ!」
なにもそんなに顔を赤くして叫ばなくても。。
しかしせっかく聞かなかったことにするっていう逃げ道を用意したのに、もったいない。
くくく、まあ少しばかり挑発はしたものの、決闘はこちらも望むところである。
こういう粘着質な男はなあなあで済ませると、学習能力がないのかまた似たようなことを繰り返す。
それにしつこい場合には、心がへし折れるくらいの致死性の高いダメージを与えて、二度と寄り付かないようにするのがいいのよ!と、モテる大学生の従妹が言っていたしな。
「よしわかった。その決闘、受けてやる」
「アビゲイルなに言ってるのよ!?」
目を丸くして驚くマルガリーゼをまぁまぁと宥めつつ、オレ様は考えついた事をチャラ男へ。
「だが条件がある。まずオレ様達は明日から依頼で町を離れるので、決闘はこのあとすぐだ。
次にこちらが勝ったら二度と付きまとわないことと、迷惑料として五百万ゴールを支払ってもらおうか」
「なっ!?なんだその法外な値段は!!」
「その代わり!」
チャラ男が二の句を告げないうちに、オレ様は遮るように言葉を続ける。
「もしそちらが勝ったら、一晩と言わず三日間オレ様を好きにしてもいいぞ?」
「!?ほ、ほう、随分大きく出たな」
自慢ではあるが、端正込めて作り上げた我が子の可愛さには自信がある。
ゲーム内の友人から「お前、あざといくらい男受けするロリ可愛さだよな」とも言われたことがあるくらいだし。
それにしても"オレ様を好きにしてもいい"とは言ったものの、さきほどから思案顔しつつ、オレ様の身体を舐めるような視線で見てくるチャラ男が気持ち悪い。
できることなら今すぐぶっ飛ばしたいくらいに。
勝てる算段がついたのか、チャラ男が気味悪い笑みを浮かべる。
「……いいだろう。その条件飲んでやる。後悔するんじゃないぞ!」
「そっちこそ。それじゃあ時間は二度目の午後の鐘がなる頃、場所は――――」
そこまで言って言葉が続かなくなってしまう。
どうしよう、決闘できそうな適当な場所知らない。
えーっと、場所はぁ……と、誤魔化しながら悩んでいると、メルナリーゼがオレ様の腕をつんつんして、
「でしたらギルドの訓練所がよろしいかと。それにギルド職員の方に立ち会い人になってもらえば、向こうも小細工や言い訳は難しくなると思いますよ」
耳元で囁くような小さな声で教えてくれた。
ありがとうの意味を込めてウインクを返すと、メルナリーゼがにこりと頷く。
「場所はギルドの訓練所。立会人にギルドの職員にしてもらうからそのつもりで」
「ふっ、いいだろう。首を洗って待っているがいい!」
そう言い放つと、今まで背景のように後ろに立っていただけの二人の筋肉男を連れてどこかへと去っていった。
なんか妙な展開にはなったものの、食後の運動にはちょうどいいか。
あー、でも姉妹にはその間待ってもらわないといけないから、ちょっと悪いことしたかもしれない。
「えーっと、そういうことで二人には決闘の間、悪いんだけどどこかで待っててもらえたら――――」
「バ、バカアアアアアッ!」
ベンチから立ち上がって姉妹に振り返ろうとした直前、オレ様の言葉が遮られ打ち付けられるような叫びが背中に浴びせられる。
恐る恐る振り向けば、そこには目に涙をためたマルガリーゼさんがいた。
背景男A「なあ、おれたちの存在って……」
背景男B「言うな……」




