第114話/油断する方が悪いのでは?
グレイドの発言で、元の世界での上司からの嫌な事を思い出したエルモから応援(圧力)を受けたヴィンセクト達。
「見事にハイオーガを打ち破ったサリシア領主代行のダンジョンナイト!
そしてこれより! 皆様お待ちかね! ダンジョンナイト同士の熱い戦いを開始いたします!!」
司会者のアナウンスに沸き上がり会場に響く歓声がとってもうるさい。
そんな中、舞台の上では間合いを開けて対峙するデクーン子爵サイドのグレイドが率いるダンジョンナイトと、サリシアさんサイドのヴィンセクト率いるダンジョンナイト。
よほど自信があるのかグレイド達がにやついた表情をしている。
「ハイオーガごときに手間取っていたようですが、倒せたということは一応は私達と剣を交わす資格はあるようですね」
「能書きはいい。魔物とはいえ自陣の味方を粗末にするようなお前達のせいで、エルモギルド長の圧が怖いんだどうしてくれる」
なんだろう、言ってることは至極真っ当なんだけどその言葉の裏に含むものが感じられるのは。
ともあれ、ようやくダンジョンナイト同士の試合が始まるようだ。
「試合のルールは単純です! 魔法、スキル共に使用可能! 装着している防護の腕輪の魔石が正常色の青から警告色の黄、そして危険色の赤に変わった時点でその騎士は脱落とみなします!
全員が危険色になるか、降参した場合に決着となります! それでは騎士の名に恥じぬ試合をお見せください! では試合開始です!!」
開始の合図と共それぞれのダンジョンナイトが武器を抜いて構えていく。
グレイド組は長剣が三人、槍と戦斧が一人ずつの構成に対して、ヴィンセクト組は長剣・双剣・戦斧・弓矢・大盾が一人ずつという構成。
攻撃力に特化したグレイド組に対して、バランス重視のヴィンセクト組といったところか。
一気に押し切られれば負けるが、攻勢を崩せば十分に勝ちを拾えるだろう。
「会場の皆様! これよりこの私、グレイド率いるダンジョンナイトが華麗なる剣戟をご覧に―――ぬもっひぃ!?」
観客にアピールしていたグレイドが寸でのところで気づいて、妙な悲鳴を上げて飛来した矢を剣で払い落した。
ちぃ、惜しい! 開始早々潰せるかと思ったのに。
「貴様! 不意打ちとは一体どういう了見だ!!」
「何を言っている? 試合はとうに開始されただろう?」
オレ様もそう思う。試合始まってるのに油断してる奴が悪い。
まあ、ヴィンセクト達には訓練を課す中で『戦いは常に相手の隙をつけに徹しろ』と教え込んだのでその成果でもあるだろうけど。
「それが騎士のすること―――」
「だから試合中だと言っている」
「くっ…! いくぞ!!」
二の句を告げさせず動き出したヴィンセクト組につられるようにグレイド組も動き出した。
そこから始まったのはまさに映画さながらの剣戟。
戦斧と大盾がぶつかりあい、突き出された槍を双剣が捌き、長剣と戦斧が打ち合うその間隙を縫って狙い撃たれる弓矢。
不意を打ったこともありヴィンセクト組は善戦していたが、しかしそれは時間が経つにつれて次第になくなっていく。
あー、やっぱり今の状態だと苦しいか。
向こうも伊達でダンジョンナイトはしていないようで、落ち着きを取り戻したグレイド組がヴィンセクト組を徐々に押していく様子が見て取れる。
そして打ち合っていたヴィンセクトがグレイドから引くように一旦距離を取ると、他の仲間もそれに呼応したように距離を取って対峙する。
「くくく、威勢が良かったのは最初だけだったようですね。やはり成りあがりでは私達の相手にはならないようだ」
「アビゲイル殿! このまま負けたのでは我らに鍛錬をつんでくれた彼女たちに申し訳が立たない! 解放の許可を求む!!」
「ふっ、降参の許可でも取るつもりか?」
んなわけないだろうが。
ふざけたことを言うグレイドは無視するとして、ヴィンセクトが言う彼女たちとはダンジョンにいるデスナイト三姉妹のこと。
不思議なことにこのデスナイト三姉妹からなぜか気に入られており、厳しい訓練を課されるもののアフターで献身的に介抱されたり一緒にお茶をするなどして、とても可愛がられていたりする。
そんなよくしてもらっているデスナイト三姉妹に対して、このまま無様に負けたのなら面目が立たないという漢気だろう。
うむ、その意気やよし、である。
「制約の解除を認める。ただし解除したからには無様は許されないからな?」
「承知! お前達、今をもって制約を解除し、その成果をデスナイト三姉妹に捧げるのだ! 制約解除!」
『おう! 制約解除!』
解除言語を唱えたことで、今まで制約魔法によって制限されていた彼らの本当の実力が解放される。
実はダンジョンで訓練するうちにレベル自体はこの世界における高レベル帯に至ったのだが、デスナイト三姉妹の提案により技術や立ち回りがまだまだということで、それを強化するために制約の魔法により元のレベルを落として訓練している状態のままだったのだ。
まあ制約状態でもレベルはこの世界における平均より上だったので、このままいけるかな? とか思っていたのだが、グレイド組が意外と強かったので仕方ないか。
「ふ、ふふ、制約の魔法を課していたとは舐められたものだ。しかしそれを解除したところで元のレベルの三分の一程度が戻るのみ。
ハイオーガに苦戦していた貴様たちを見れば、我らの方がレベルが上なのは明かだ……!」
その割には顔が引きつってるけどな。まあヴィンセクト達が変わったのはグレイド達も気づいているだろうけど。
そして残念。確かに制約の魔法は通常ならその程度だが、魔法自体を強化すればそれ以上が可能なわけで、ダンジョンの力を介して強化された制限は三分の二という仕様。
通常の制約で考えているであろうグレイドには悪いが、今のヴィンセクト達のレベルは五十代半ばで、さくっと鑑定してみたところレベル三十代後半程のグレイド達にほとんど勝ち目はないと言っていいだろう。
……どうしよう。強がってるところに『君たち今レベル差すごいよ?』なんて教えたらどういう反応するのかすごく興味を惹かれるんだけど。
「……アビーさん、色々台無しにしようとするのやめましょうね?」
「や、やだなぁ。そんなことするわけないじゃん……?」
あるぇ? なんかエルモから釘を刺されてしまった。
「顔が思いっきり『わくわくしながら悪戯を楽しみにしてる子供』のようになってたので説得力ないですよ?」
「そんな、バカな……」
え? そんなに分かりやすい顔してたのオレ様?
いやまあ、しないつもりではいたけどね? 二割くらい。
「くっ、少しは強くなったようですね……!」
なんて会話をしていたらグレイドの苦々しい叫びと共に、舞台上では動きを見せていた。
先ほどと同じ猛攻を見せるグレイド組だが、本来の力を取り戻したヴィンセクト組にもはやどのような一撃をもってしても余裕で受け止められ、いなされ、弾かれたりと攻撃が通用していない。
それどころか反撃されてダメージを受けたようで判定の腕輪が全員警告色の黄色へと変わっている。
押し切れないと判断したのか、さっきとは逆の立場でグレイド組がヴィンセクト組から距離を取った。
「だがそれもここまでだ! 全員、『騎士の猛火』を使用しろ! 同時に剣と鎧の『限界強化』の魔法付与を解放しろ!!」
「隊長!? しかしそれでは今後の活動に支障が……!」
「黙れ……私の命令が聞けないのか?」
「い、いえ! そのようなことは!!」
グレイドの上司の命令に従うしかない哀れな仲間達が『騎士の猛火』と『限界強化』を発動させ、その効果が発揮した証にその身が青白い魔力に包まれていく。
どっちも強化系スキルなのだが、いかんせん致命的なリスクがある。
『騎士の猛火』は攻撃力が1・5倍になるが、効果が終わった後の長いクールタイムで同じ分のマイナス効果があり、魔法付与の『限界強化』は装備品の耐久力を犠牲に攻撃力を上げるもので、一度使用すると付与はなくなる上に装備品が確実に損耗するというもの。
ピンチの時の起死回生やチャンスの時にたたみかけることに使用するが、なにもこんな試合で使うこともないだろうに。
それにまあ、それを使用してもレベル差によるステータスは覆ることもないわけで。
「さあ! 今こそ我らが真の力を見せ―――」
あーあ、そんないちいち剣を掲げて号令なんか出していたら……。
「大盾の猛進!」
「え、ちょ―――はげぇ!?」
大盾の突進にまるでトラックに轢かれたのごとく戦斧の騎士が宙を舞い、
「爆撃の矢弾!」
「いや、おい―――!ひげぇ!?」
爆発する矢を受けた長剣の騎士が吹っ飛び、
「双牙連斬!」
「そんな―――ふげぇ!?」
双剣の四連撃に槍の騎士が派手に舞い上がり、
「大断撃!」
「まて―――へげぇ!?」
戦斧の上段からの重い一撃に長剣の騎士が地面に伏し、
「閃光斬!」
「くっ、閃光斬! 貴様等! こちらが技を仕掛ける前に不意打ちとは! 騎士道というものがないのか!?」
おお、さすがは隊長なだけあってかろうじてヴィンセクトと同じ速さ重視の技で迎撃したな。
ちなみに他の騎士たちは反撃もできずに全員一撃のもとに撃沈しているけど。
というかお前が騎士道とか言うなよ。試合前にハイオーガけしかけて来たくせに。
「ダンジョンナイトが相手にするのはなんだ? 無法者や魔物だろう?
お前はそれらに『こちらから攻撃を仕掛けるまで待ってくれ』とでも言うつもりか?」
「ぐっ…! やかましい! 貴様らのような田舎騎士なんぞにこの私が負けてたまるか!!」
鍔迫り合いから剣を弾いて距離を取ったグレイドが吠える。
別に騎士に都会も田舎もないだろうに。肩書きより実力で勝負しろよ。
「貴様はこの最高の技で沈めてやる! おおおおおっ! 『紅蓮――』なに!?」
いや「なに!?」じゃなくて、よりによって溜めが必要な技を選ぶから容易く接近されるんだってば。
「遅い! 閃光斬・乱斬!」
「ぬ、く、が―――ほげえええっ!?」
技をキャンセルしてヴィンセクトの連撃を防いでいたグレイドだったが、四撃目で剣を弾かれ防御を失った無防備な身体に更なる連撃を叩き込まれ、最後の一撃により大きく吹っ飛んでいく。
すごいなぁ、サイコロかってくらいコロコロ転がっていったよ。
「がはっ……なぜだ! なぜこの私が田舎騎士なんぞに……!!」
舞台の端っこで止まったグレイドが伏したまま悔し気な顔で床を叩く。
いや、そっちが舐めプしてたのと単に実力の差じゃないかな?
防護の腕輪の魔力障壁によって鎧などにダメージはないものの、さすがに衝撃は肉体に響いているようでピクピクとろくに動けないグレイドに対し、ヴィンセクトは剣を鞘に収め歩み寄る。
「お前の敗因は一つだ。たった一つのシンプルな答えだ。お前には筋肉に対する愛が足りない」
「わけのわからないことを言うな!」
うん、それはオレ様も思った。なんだ、筋肉に対する愛って。どこぞの世界最自由な筋肉受刑者かお前は。
しかしまあ決着はついたな。グレイドを含めたあっち側の騎士の判定の魔道具が全て危険色の赤色に染まっているし。
「ここで試合終了です! デクーン子爵側のダンジョンナイトの判定の腕輪が、全て危険色を示したことが確認されました!
これにより勝利はサリシア領主代行側のダンジョンナイトになりま―――」
「納得できるかあああああっ!」
あー終わった終わったと撤収準備を始めようとした時、グレイドの吠える声が響き渡る。
往生際が悪いなぁと思いつつ舞台へ目を向けると、瞳を紫色に発光させ身体から可視化できる程の異常な魔力を揺らめかせるグレイドがいた。
あー……これ嫌な予感しかしないわ。
FPSで逃げ出したと思わせて、追ってきた敵を仕掛けておいたC4なんかで吹っ飛ばして倒すのが好きな作者です⊂⌒~⊃。Д。)⊃




