第113話/ハイオーガ VS ダンジョンナイト。
試合の前の試合でハイオーガと対戦!
「まずは真っ向勝負が望みだ。その筋肉、試させてもらおう」
「グガアアアッ!」
ヴィンセクトの言葉に応えるがごとくハイオーガが両腕を振り上げて咆哮を上げている。
おいおいおい、なに太古の原人を前にしたどっかの中国拳法家みたいなこと言ってんの?
魔力により身体と剣を強化したヴィンセクトがオーガの間合いまで進み、その目の前で剣を構えるとそれに呼応するようにハイオーガがボディブローのような一撃が放つ。
ガインッ!
およそ拳とは思えない鉄が鉄を殴るような打音が響き、オーガの振り抜かれた一撃を剣身で受けたヴィンセクトだがその身体ごと軽々と後方へ弾き飛ばされる。
そのまま行けば場外に落ちそうな勢いに、剣を反転させて床に突き刺すことで急制動をかけ場外を免れる。
それでも鎧をまとった重い人間を数メートル弾き飛ばしたハイオーガの膂力と威力は、推して知るべしである。
ま、実際に驚異が分からない観客は「ハイオーガって強っ!」「騎士様すごい!」なんぞと呑気に盛り上がってるけど。
「ふむ。力での勝負は無理だな。悪いがここからは小細工を弄させてもらう。行くぞ、お前達」
『おう!』
冷静に力の差を受け止めたヴィンセクトの呼びかけに、他のダンジョンナイト達が動いていき菱形陣形を作り出す。
「ルガアアアアッ!」
陣形を組んだダンジョンナイトを脅威と見たか、ハイオーガが吠えながら走り出しその豪腕を振り上げる。
「貫通弾!」
「グガッ!?」
弓騎士がスキルの力をのせて放った矢がハイオーガの太ももに命中し、その動きが止まった隙に大盾の騎士が走り出して目前に迫っていく。
「ガ、ガアアアッ!」
「衝撃盾!」
慌てたハイオーガがなりふり構わず拳を繰り出すが、盾と拳がぶつかり合うタイミングで大盾の騎士が発動させたスキルにより、その拳を上方に弾かれたハイオーガが大きくのけ反り体勢を崩した。
「今だ! 連撃を叩きこめ!」
「双斬撃!」
「重旋撃!」
「グッ! ガフッ!?」
ヴィンセクトの声に双剣の騎士がハイオーガのさらけ出された身体にスキル攻撃による二連続の斬撃を浴びせ、その直後に同じ個所に戦斧の騎士による重い一撃が威力を増してハイオーガに通常以上のダメージを負わせる。
おお! ゲームでも出来た連撃システムが可能なんだな!!
連撃システムとは防御の堅い相手や破壊部位に対して、同じ個所に魔力を宿した武器の連続スキル攻撃を加えることにより相乗効果で威力判定があがり、防御を突破してダメージを与える事ができる技術だ。
ゲームではドラゴンやゴーレムなどの部位破壊においてよくやったもんである。
「その鍛え上げられた筋肉に敬意を表して全力の一撃を送ろう。十字光斬!」
「グルガアアアアアッ!」
妙な敬意を払うヴィンセクトの剣閃が、十字の軌跡と魔力の閃光というエフェクトをもってハイオーガの身体を斬り裂く。
その一撃がとどめとなったようでハイオーガの強靭な体躯をガラスが割れるようなひび割れが走り、音もなく砕け散るとその姿は魔封水晶へと変わり、澄んだ音を立てて床に転がった。
ただ消えゆく際にハイオーガが無駄にダンディな顔で謎のサムズアップをしていたけど。
「決着がつきましたー! サリシア領主代行のダンジョンナイトが鮮やかな連携でハイオーガを撃破だああああっ!!」
『オオオオオオオオッ!!』
熱のこもった実況により、さきほどの戦いを見た観客の興奮と声援による熱気が舞台を包みこんでいく。
「は、初めてハイオーガなんて見ました……。怖すぎますぅ……」
「……すごいですわ。彼等が並の騎士では歯が立たないハイオーガを恐れるどころか、勝利を納めてしまうなんて」
慄くハンナちゃんや驚くサリシアさんの言う通り、この世界の一般人のレベルだとハイオーガと遭遇した日には即人生終了コースだからなぁ。
元の世界で言うなら、道端でティラノサウルスにばったり遭遇する感じ?
「けどまあ、オレ様が直に鍛えてたのもあるし『美少女版デスナイト三姉妹』にも可愛がられていたから当然の結果だろうけどな!」
「その三姉妹が訓練でズタボロになった彼等の怪我の手当てをしたり介抱の為に膝枕したり等、真っ当な意味で可愛がっていたのには驚きましたが……」
オレもエルモもあれを見た時は普通に驚いたもんだよ。
ダンジョンで生み出した魔物というカテゴリーなのに、なぜかそれぞれ固有人格が出来上がってるみたいで訓練でばてたヴィンセクト達を嬉々として介抱する『美少女版デスナイト三姉妹』。
その甲斐甲斐しい姿は、まるで生徒や弟を愛でる先生や姉のように慈愛に満ちた姿だった。
美少女にちやほやされるのがちょっと羨ましいと思ったのは秘密。
ガキイィィィン!
「貴様、なにをする……」
四人で姦しく話している中、突如舞台の方で金属が打ち合う音と静かな怒りを含んだヴィンセクトの声が響いてきた。
なんぞや? と思って舞台に目を向けると、相手方の騎士であるグレイドが振り下ろした剣をヴィンセクトが膝を突いたまま剣で受け止めている、という構図が。
その受け止めた剣の真下にあの倒されたハイオーガが変化したひび割れた魔封水晶があるところを見ると、グレイドが剣で叩き割ろうとした、というところか?
「敗れたとはいえ、これが自身の陣営のために戦った者への騎士の仕打ちとは思えないが?」
「何を言っているのだ? 役に立たない道具なんぞただのゴミだろう?」
「……あいつ、ちょっとムカつきますね」
「……うわ!? エ、エルモ、気持ちは分かるからちょっと落ち着こう? 落ち着いて? 落ち着いてみよう?」
グレイドの無碍な言葉になにかのスイッチが入ったようで、無表情で静かに怒りを湛えたエルモを見た瞬間に咄嗟に出た謎の三段活用(?)にて宥める。宥めていく。宥めないとヤバそうだったから。
だってその怒りの感情によって漏れ出た魔力がテーブルの食器をカタカタ振動させてるし、怒りを内包したエルモを目にしたハンナちゃんとサリシアさんが恐怖でお互いに抱き合ったりしているほど。
女の子が抱き合ってる姿は尊いものがあるけど、とりあえずは怒りゲージがたまったエルモをなんとかしないとなにかやらかしかねない。
「エルモ、深呼吸、深呼吸。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
「誰が産気づいてる妊婦ですか!? ……ふぅ、すいません落ち着きました。
過去にクズ上司から『役に立たない資料なんて意味ないでしょ。ゴミだよゴミ』と言われた事を思い出が蘇ってしまって……」
あー、あったねそんなこと。会社でオレ様の後輩であったエルモが上司の指示で三日くらいかけて作らされた資料を却下されたあげく、結果的にその指示自体が間違っていたという事案。
当の本人は悪びれる様子もないまま『あー、ごめんね。でもほら、資料作るいい勉強になったでしょ』なんぞとのたまわり、静かにキレたエルモがオレ様を飲みに誘って暴飲暴食した挙句、カラオケでAb〇の『バックライト』を何度も熱唱してたっけ。
どこにでもクズはいるもんだなぁと思っていると、睨みあっていたヴィンセクトがグレイドの剣を勢いよく跳ね上げ、懐から出したハンカチで魔封水晶をそっと包み持って立ち上がる。
「同じ騎士として貴殿の所業は見過ごせん。これは預からせてもらう」
「はっ、そんな壊れかけのゴミならどうぞご自由に。こちらとしても処分の手間がはぶけるというものだ」
おいやめろバカ! またエルモの怒りが再燃したらどうするんだよ!? ほら、『風の悪戯ということでぶっ飛ばすのもありですか……?』とか暗い瞳で呟いちゃってるよ!
オレ様とハンナちゃんとサリシアさんの総出でエルモを宥めていると、ヴィンセクトが舞台を降りてこちらにやってくるのが見えた。
オレ様の前まで来ると膝を突き、ハンカチで包まれた魔封水晶を差し出し、
「アビゲイル殿、この魔封水晶を直すことは可能だろうか?」
「ん-、どれどれ、ちょっと貸してみ」
エルモを宥めるのをハンナちゃんとサリシアさんに任せ、魔封水晶を受け取り鑑定してみれば『破損(中)』の状態と出たが、これくらいならまあオレ様の錬金スキルでどうにでも塩梅だ。
なのでその場でアイテムボックスより適当な魔石を取り出し、錬金スキルの『合成』によりちゃちゃっと修復してみせる。
まあその際に魔封水晶の登録者が消えちゃったけど問題ないだろう……あ、そうだ。
「ほれ、これで直ったぞ。ついでにこれの登録者が消えたからヴィンセクト、お前が登録者になっておけ」
「いいのか? ハイオーガの魔封水晶ともなれば高価なものだが」
いやあんなマッチョな強面なんぞいらん。どうせなら可愛い女性型がいい。
軽く投げ渡した魔封水晶を受け取ったヴィンセクトが「それならば」と懐へしまい込む。
それに、とオレ様は付け加え、
「オレ様には不要だし、事を構えたお前が責任を持つのが妥当だろ? まあどうしてもというなら、その対価としてあのグレイドに痛い目をみせてやれ。
さっきの発言に憤りを覚えているエルモギルド長も、それを御所望だ」
「ええ、彼のプライドを粉々にへし折って頂ければ、個人的に報奨を授けますよ?」
にこやかに頷くエルモだが、言葉の裏に過去のヤな事案を思い出させたグレイドへの怒りが感じ取れる。
「……アビゲイル殿、エルモギルド長から言葉とは違うプレッシャーを感じるのだが?」
「……まあ、がんばってこい?」
凄味のあるほほえみを浮かべるエルモを隣に、オレ様はただ応援してやることしかできなかった。
『静かなる怒り』byエルモ
過去、作者は仕事で運転中にわき道から飛び出してきた車に、自車の後方ドアに軽くぶつけられるという事故があったのですが。
事故後に上司から今回の事故に対して話があると言われた時の会話で、
上司「なんでブレーキ踏まなかったの?」
作者「ミラーもないわき道から急に出てこられたので無理です」
上司「なんでスピード落とさなかったの?」
作者「その時の速度が20km以下でしたけど」
※事故った脇道が信号のある交差点を曲がってすぐだったために低速でした。
上司「なんで一時停止しなかったの?」
作者「優先道路でしたし、そんなとこで急に一時停止なんかしたら後方の車両に迷惑だと思いますが」
上司「なんで自分の非を認めないの?」
作者「相手方も『反対側の道路だけ目視したまま一時停止せずにわき道から飛び出してしまった』と言っている上に、警察も相手方に過失があると言っていたのですが」
上司「なんで――(エンドレス)」
という、なにがなんでも作者に非を認めさせたいという不毛な会話が続いたという。
話しているうちに「非を認めないと話は終わらない」というニュアンスの会話があったので「納得はしませんが理解はしました。申し訳ありません」と真顔の謝罪で会話を打ち切った記憶があります。
この会話に賛否はあると思いますが、職場の同僚にこの内容を話したところ『お前悪くないじゃん。クソ上司だな』と慰めてもらったのが救いでした。
皆様も事故には気を付け……てもどうしようもない時があるので、事故ったときにはしっかりと写真や言質などの証拠保全をすることをお勧めします(´・ω・`)ドラレコモネ




