第112話/召喚されたダンジョンナイト。
転移召喚したら、なぜか半裸でポージングしてる騎士たちが出て来た。
「いや、なんだと言われても。アビゲイル殿に転移召喚からここにいるわけなんだが?」
オレ様の誰何を受けた転移召喚されたきた騎士、というか半裸男達の全員が困惑の表情を浮かべている。
いやそんな顔したいのこっちだからな!?
「で? ヴィンセクト。半裸はどういうことか説明を求めたいんだけど?」
「わかった。事の始まりは召喚前のことなんだが―――」
そう、オレ様が呼び出したのはかつて冒険者ギルドにやってきた家事手伝いをする健気な少女アリシャちゃんにちょっかいをかけ、結果的にオレ様に成敗された騎士団の元団長である。
この元団長のヴィンセクトが自身の性癖(ドM)を満たそうと、団員達と悪事を働こうとしたわけだがオレ様相手では無駄に終わり、一方的にフルボッコにされて領兵に引き渡された。
しかしあろうことか途中で魔剣獣とかいう訳の分からない魔剣?に操られたあげく暴走し、またもやオレ様にしばき倒されたわけだがどういうわけか、状態が『賢者モード』となり妙に真面目な騎士になってしまったという過去を持つ。
処罰として騎士という称号は剥奪されなかったものの、騎士団は解散して元居た城砦でほぼ下働きのような仕事をしている状況である。
そして魔人幼女のクイーンちゃんがうっかり発現させてしまったダンジョンをギルド本部や王都に報告したところ、利権大好きなギルド幹部や貴族から横槍が入ってきそうだったので、それを阻止する一環としてダンジョンナイトが必要となり、オレ様が彼らをスカウトしたという次第なわけだ。
で、試合のために一応連絡用の魔石で「もうすぐ召喚するから準備しろ」と連絡したのにも関わらず、出て来たのは半裸パーティーしてるバカ野郎共だったわけだ。
……うん、自分で語っておいてなんだけど、長いな!
その元団長のヴィンセクトが語りだす。
「いいだろうか? まずはここの肩、僧帽筋だがただ盛り上がっているだけじゃなく、なだらかな流線形をしているのが大事で―――」
「ちょっとまてい!」
「どうしたのだ?」
急に肩の筋肉を指してよくわからない話をしてきたので、待ったをかける。
待ったをかけられた本人はなぜかちょっと不服そうな顔。
イヤだからそんな顔するのはこっちだっつーの!
「なにゆえ筋肉の話に!?」
「アビゲイル殿に説明を求められたからだが?」
「誰が筋肉の話を求めたか! なんで半裸で出てきたのかその経緯を話せって言ったんだよ!!」
「そうなのか。それは失礼をした」
真面目に謝られると若干腹立つのはなんでだろうか。
いっそふざけてくれた方がマシなよう気がするけど……いや、やっぱ腹立つのは変わらない気がする。
「いや、我々も準備はしていたのだがな? 着替える時にお互いの肉体を認め合っているうち、ついこう、魅せ合うようになってしまってだな」
「申し訳ありませんアビゲイル殿! 団長、いや隊長がおっしゃるように、ダンジョンナイトになって日々鍛えた上げられていく自身の肉体に我々も感銘を受けてしまい……!」
半裸騎士Aの言葉に他の騎士も揃って頷く。
というかポージング決めながら頷くのやめろ。むかつく。
「アビーお姉様? とりあえずお説教は後でいいかと。相手もその、怒り心頭でお待ちのようですし……」
セシリアさんに言われて向こうを見れば、なんだかデクーン子爵が真っ赤な顔で地団駄を踏んで、なにかを叫んでいる。
いやごめんて。オレ様もさすがにこの状況は予想外だったんだよ。
「それにあの……どうやら会場のご婦人方には好評のようですわよ?」
「え、なぜに?」
ちょっと気になったので吸血鬼イヤーを強化して、会場のご婦人方を観察しつつその会話に耳を傾けてみると。
「わ、わぁ、あの騎士様……すごい腹筋です……」
「は、はしたないけど……でも、みちゃうよね?」
「きゃー! すっごい背筋! 触ってみたくなっちゃうー!」
「あーもう、あの逞しい二の腕で抱きしめられてみたい!」
「奥様見ました? あの芸術品のような肉体……素敵ですわ。うちの旦那も少しは見習ってほしいものですわ……」
「きっと夜の方もすごいのでしょうねぇ。うちの旦那といえば、夜は色んな意味で早いのよねぇ……はぁ、羨ましいものだわぁ……」
十代前半から二十代前後、三十代半ばくらいの淑女の皆様が一様に頬を染めて半裸の騎士共を見てらっしゃいました。
顔を手で隠してるものの隙間から覗いてたり、友達とキャーキャー言いながらはしゃいでたりするのはいいだんだけど、お歳を召していくにつれて生々しい内容になっていくのはなんでだろうか。
「アビーさん、とりあえずこの茶番を終わらせて早く帰りません?」
「わたくしも王都はちょっと苦手なので、出来れば早めに自領に戻りたいですわ」
「私も、この空気は苦手です……」
エルモとサリシアさん、ハンナちゃんがため息交じりにちょっと疲れた表情をする。
むぅ、三人娘にお願いされては仕方ない。
「よしお前達、皆の慈悲に感謝してとっとと着替えろ。ていうか、渡してある装着の指輪ですぐに装備できた筈だろう?」
『そういえばそうだった』
忘れてたんかい! 指輪渡した意味ないじゃん!!
”装着の指輪”は言葉通り、指輪の中に登録している装備を召喚して瞬時に身に着けることのできる魔法具だ。
ダンジョンナイトは緊急性もあるため、便利だろうとサクっと作成して渡しておいたのだが。
『装着!』
半男達が手を掲げてそれぞれ無駄にポージングを決めながら叫んだ瞬間、一瞬にして彼等の姿が白い鎧をまとった騎士へと変わる。
まさに戦隊ものの変身シーン的な様子に、ご婦人方を中心に会場内が沸き上がった。
確かに変身シーンって胸熱なものがあるけども、もとがあいつらなのでオレ様としては微妙なんだが、まあ盛り上がるならいいか。
「はんっ! 装備だけは一人前なようですが、実力が伴っていないようで話になりませんよ!!」
「どっかの子爵みたく、奸計が失敗して威勢だけがよくても実力が伴っていないと話にならんけど?」
「ぐ、ぐぬぬぬっ……!」
はっはっはっ、カウンターパンチ決めてやったわ。いやー、悪党の悔しがる顔って見てて気持ちいいわー。
「それでは両者、ダンジョンナイトが揃ったようなので改めて舞台へ上がってください!!」
「いけ! 容赦はしなくていい!!」
「お前達、とっとと終わらせてくるように」
アナウンスに促されデクーン子爵とオレ様のまったく温度差の違う見送りにより、それぞれのダンジョンナイトが舞台へと上がっていく。
鎧をまとった十人もの騎士が舞台へ揃うとさすがに精悍で、それをみた会場の観客も大いに盛り上がりを見せる。
オレ様も改めて席についてハンナちゃんが淹れ直してくれた紅茶を堪能しつつ、試合を観戦することに。
「それでは決闘の試合方式にのっとり…………おや? デクーン子爵方のダンジョンナイトより申し出があるようです?
スタッフ―! スタッフの方は拡声魔導具をお渡しください!」
舞台の外からやってきた小柄なスタッフがデクーン子爵側のダンジョンナイトの一人が拡声魔導具、というかまんまマイクを渡して去っていく。
マイクを渡されたそいつは、まさに意気揚々と言った様子で声を上げる。
「私はデクーン子爵領にある"魔鉱の棺"のダンジョンナイトを賜っているグレイドと言う者です。
この私から提案があります! 聞けば先方のダンジョンナイトはなんと成りたてというではありませんか!
その実力は良くも悪くも未知数! そこで皆様に彼らの実力をご覧いただきたいのです!
そしてそこで実力を証明できれば、このベテランの私達と剣を交わすに相応しい相手となりましょう!!」
何を言ってんだこいつは? と思ったのはオレ様だけじゃないらしく、エルモやサリシアさんも怪訝な表情で小首を傾げている。
これからダンジョンナイト同士の試合だというのに、その前に実力を知りたいから別に戦えとか意味がわからん。
まあ、明らかに試合前に体力を消耗させようと言う魂胆は見え見えなのだけど、これはまかり通ることなのか?
「え、えーっと、運営側から許可が下りたみたいです。ではサリシア領主代行側のダンジョンナイトには、この場でその実力を証明してもらいましょう!
……あのエリクシリア様? なにゆえさきほどからこちらに無言で笑顔の圧をお向けになってるのでしょう? あの、私はあくまで運営側の意向を伝えているのであって、これは私のせいではなくてですね? …………誰か助けてーっ!!」
あ、姫様に迫力ある笑顔を向けられた司会者の子が半泣きで訴えてる。
姫様も知らなかったぽいところをみると、これは運営側がデクーン子爵とつながってる感じかな? 賄賂かなんかを受け取とりでもしてんのかな? ま、どうでもいいけど。
「さあどうしますか? 受けなければ戦う意思なしとして、こちらの不戦勝になりますが?」
ドヤ顔の騎士グレイドとその仲間たち。
断ったら不戦勝、戦っても体力を消耗した状態の試合で有利になる。どちらに転んでもこっちには不利になると踏んでの余裕の顔なんだろう。
「あの……アビーお姉様、どうしましょう? このままでは……」
「大丈夫大丈夫。ドラゴンが相手でもない限りは負けたりしないって。
なあ、お前達?」
サリシアさんの不安を払拭すべく、ヴィンセクト達に声をかけると彼らは精悍な顔を向けて頷く。
「無論だ。この筋肉が伊達ではないことをご覧に入れよう。いくぞ、お前達」
『おう!』
いやだから筋肉はもういいって。まあ、やる気になってくれたのはいいけど。
「くくく、愚かな。せっかく無傷でいられる選択肢をやったというのに。いいだろう、我等と戦う前に精々力尽きないことだな」
グレイドと仲間の騎士たちが舞台を降りていく。
さてどうやってその実力とやらを測るのかと思いきや、舞台を降りたグレイドがどこから取り出したのかその手には缶ジュースの細缶サイズのクリスタルが握られていた。
「お前たちは今からこの魔封水晶の魔物と戦ってもらう。無事に倒せたなら、私達と戦える権利を与えてやろう。さあ、貴様たちの実力を示して見せろ!」
偉そうな物言いと共に魔封水晶が舞台へと放り投げられる。
もしあれを途中で魔法なんかで撃ち抜いて砕いたらどんな顔するかなー? なんてちょっと心くすぐる思いを我慢しつつ見ていると、舞台へ転がった魔封水晶が光を放ち、それが収まった後には一匹の魔物が佇んでいた。
「おーっと、この魔物は……なんとハイオーガです! レベルは30前後ですが、同じレベル帯の冒険者や騎士がパーティーを組まないと討伐が難しい魔物だーっ!!」
「ルガアアアアアッ!」
司会のアナウンスと共に青い体躯のハイオーガが天に向かって吠える。
オレ様的にゲームなら序盤に出てくるモブ魔物では強敵、程度の認識なんだけど会場の観衆の反応を見る限り違うっぽい。
ちらっと見た感じ、戦々恐々としている表情の方々が多く見受けられる。
「……アビゲイル殿、今の状態だと少々難しいと思うのだが」
「でもやってやれないことはないだろう? それに騎士は強きに立ち向かい守るのが本懐だろう?」
「ふっ、そう言われては返す言葉もないな。では騎士の本懐を果たすとしよう」
戦う者の顔つきになったヴィンセクト達がそれぞれの武器を抜き構えると、それをみたハイオーガも雄叫びを上げて戦意をみせる。
「一応貴様たちが死ぬ前に止めてやるが、腕の一本や二本は覚悟しておくといい」
「ご忠告痛み入る。しかし魔封水晶は高価なものだ……我らも魔物にとどめをさして破壊しないように善処しよう」
「くっ、減らず口を……!」
おお、ヴィンセクトが意外にも相手を煽っている。
魔封水晶は封じ込めた魔物が傷ついても魔力を補充すれば再利用できるが、倒されてしまうと破砕して使い物にならなくなるからな。
「さあ、果たして実力が証明されるのか否か! それでは戦っていただきましょう!!」
「ルガアアアアアッ!!」
「臆するな。敵が強いのはいつものことだ。我らの力を示せ」
こうして、試合の前に試合をするというよくわからない試合がいま始まったのだった。
作者も昔『刃牙』を読んでて痩せる目的もあって、一か月ほど毎日ランニングや筋トレをしたところ…………なぜか体重が増えました_(:3 」∠)_
うん、あれだよね。運動した後のご飯っておいしいよね……。
一応、ウエストは減って筋肉はついたものの、食費がかさむのでやめました。
何事もほどほどが一番と気づいた出来事でした(´・ω・`)




