第111話/なんだちみは!
テロリスト、死すべし!(死んでないけど)
その後、馬車でなぜかエルモの黒歴史が公開される。
人権保護団体というただの妨害活動集団を魔法で黙らせて後を衛兵さんに任せて決闘の場である闘技場に着くと、OL風の服装の女性の案内人から馬車のまま専用の入り口へと通された。
馬車専用の駅舎みたいなところで馬車があり、そこから馬車を下りて闘技場内へ入場するらしい。
レンガ造りでアーチ状の駅舎に到着し、オレ様、エルモ、ハンナちゃんにサリシアさんと降りた後、自前のゴーレム馬車をアイテムボックスへとしまったら案内人さんが口を開けて驚いていたのがちょっと面白かったけど。
ちなみに幻影霊魔はちょっと野暮用でこの場から離れてもらっている。
「アビーお姉さま、信用していないわけじゃありませんが、ほんとに大丈夫ですの?」
「もちもちもっちのすけ。こっちのダンジョンナイトも伊達じゃないってところを見せてやるさ」
「実際Aランク以上の魔物が相手でもない限り大丈夫でしょう。装備もレベルもある意味破格ですからね」
エルモお姉さまが言うなら、と素直に引き下がるサリシアさん。
あれあれ? オレ様とエルモのこの信用度の違いはいったい……?
ちょっと納得いかない気持ちになりつつ、先を行く案内人さんのタイトスカートに浮かぶ形のいいお尻を眺めながらアーチ状の石造りの回廊を歩いていると、ほどなくして出口が見えてきた。
出口手前で案内人さんに促されて会場入りすると、そこはまさにコロシアムともいえる闘技場の舞台を囲むようにすり鉢状に儲けれた観客席は満員御礼ともいうべき状態。
そして舞台の向こうを見ればモルグ伯爵とデクーン子爵が佇んでいた。
「おやおや、ようやく来ましたか。なにやらとある慈善団体の抗議にあったようですが、貴族ともあろう者が時間に余裕をもって来れないなど恥ずべきことですぞ?」
厭味ったらしくにやけ面で苦言を呈してくるデクーン子爵。
「ふふふ、どこぞの軽率な子爵に唆されたらしい慈善団体だが、対して役にも立たず衛兵に連行されていったぞ? 活動資金を援助した浅はかな子爵も金の払い損になっただけで可愛そうになぁ?」
「ぐ、くっ……!!」
それを会話の中に小バカにした表現を入れて返してやるオレ様に、デクーン子爵が顔を歪ませる。
ふはははは、その子爵は自分だと怒れずに悔しかろう? 言えば自分が仕掛けたことを暴露することになるわけで、下手に言い返せないのだからな!
あーもう、なんでこう悪党が悔しがる姿ってメシウマなんだろうか!
「……アビーさん、今とっても悪い笑顔になってますよ」
「おっとっと」
エルモの指摘を受け両手で頬をむにむにして優雅な表情に戻す。まだ試合が終わってもないんだし、ここは優雅な笑顔で行かなければ。
「さーて! どうやら両者が揃ったようです! このダンジョンの利権を賭けた試合、公平を期すために立会人として我がマグノリア王国の第三王女であるエリクシリア=パトリオス=マグノリア様!
そして公爵であらせられるブロンド=シスタリアス様がご来場されております!!」
「あ、いたいた。おーい」
観客たちの歓声が沸きあがる中、会場を見渡せば観客席の一画が屋根がついた箱型になっており、エリクシリア姫とブロンド公爵が見えたので大きく手を振ると、二人とも控えめに手を振り返してくれた。
「……アビゲイルさんがこの国の偉い人に対して、すごく気軽なのが信じられないです」
「ハンナ、アビーお姉さまなのです。気にしたら負けですわ」
それはいったいどういう意味なのか。あとでサリシアさんに問いただしたいもんである。
まあそれよりも、まずは準備をしておかねば。
「さて、ここでこのデクーン子爵が最後の慈悲を与えてあげましょう。この試合、棄権するならば―――って、なにをしているのかね!?」
「え? なにって、観戦の準備だけど? よいしょっと」
やかましいデクーン子爵をよそに、オレ様はこの日のために錬金術スキルで自作しておいた真っ白なテーブルと椅子をアイテムボックスから出して並べていく。
うむ、我ながらテーブルと椅子に施した花を模した細工がよく映えている。
「……アビーさん、さすがにこんなとこで自由すぎません?」
「わたくし、もうなんて言っていいかわかりませんわ……」
「まあまあ、別に試合中立ってなきゃいけないってわけじゃないし? ここはお茶でも飲みながら見てようよ。
あ、ハンナちゃんティーセット用意するからお茶の準備よろしくね?」
「は、はい、それはお任せください!」
オレ様が準備を終えて席に座るとどこか諦めた表情でエルモとサリシアさんも席に着き、テーブルの上に出した紅茶ポットやカップ、お菓子等のティーセットをハンナちゃんが配膳してくれる。
これで観戦の準備は良し。さあ、いつでも来るがいい!
「き、貴様というやつは私を舐めているのか!? 神聖な決闘の場でそのような物を持ち込むとは!!」
「ふふふ、そう癇癪を起こすな。肝っ玉が小さいと下の方も小さいのねとか女の子に言われるぞ?」
「なぜそれを!?」
「なぜそれをって言った!?」
あるのか。言われたことが。
わあ、デクーン子爵の顔がものっそい苦い顔と悲し気な表情になっていく。
……いや、ごめんね? ほんの冗談で言ったつもりが過去の黒歴史を掘り返したみたいで。
しかもそれが観客にもばっちり聞こえていたようで、悲し気な表情をする男性の観客がいたり、『まぁ…』といった憐憫の表情を浮かべる女性の観客がいたりで会場はどこか同情的な雰囲気に包まれた。
「やめろ! その憐れむような視線は私に刺さる!!」
「えーっと……強く生きろ?」
「やかましいわあああああっ!!」
「そ、それでは! 両者共互いのダンジョンナイトは舞台へ上がってください!!」
この気まずい雰囲気を察したらしいアナウンスが、気持ちを切り替えるような元気な声で促してくれた。
「出番だぞお前達! 遠慮はいらん! ぶちのめしてやれ!!」
「お任せください」
激オコなデクーン子爵が吠えると向こうの入場口から声と共に白銀の鎧を着た五人の騎士が現れ、いかにも騎士ですというその姿に会場内の観客から歓声が上がる。
元の世界でもそうだけど自衛隊の火力演習なんかを間近で見れる機会って早々ないのと同じで、実践的な試合などは盛り上がるんだろう。
相手方の騎士たちが舞台に上がる中、オレ様側の入場口から誰も出てこないことで今度は観客から静かにざわめきが生まれるはじめる。
それを見て、はっと何かに気づいたように嬉々とした表情を浮かべるデクーン子爵ってわかりやすいなぁ。
いやぁ、なんというかほんとこちらの期待通りの反応をしてくれる人だ。
「おやおやぁ? そちらのダンジョンナイトはどうしたのですかな? まさかここにきて棄権とでも―――」
「ところでデクーン子爵。騎士の登場シーンにはエンターテイメント性が必要だと思わないか?」
「……は? 君は一体何を言い出すのかね?」
デクーン子爵の発言に被せるように声を上げたオレ様は、アイテムボックスからソフトボールサイズの紫色の水晶を取り出して高々と掲げる。
「さあ君に決めた! オレ様のダンジョンナイトよ!!」
座ったままどこぞのトレーナーよろしく紫色の水晶を投げると、それは回転しながら舞台へと転がって割れるように砕けると、地面に大きな魔法陣が輝いて浮き上がる。
「これは、もしや転移石による転移魔法でしょうか!」
うん、アナウンスの人解説をありがとう。
あとエルモは『正しくはローラント領のダンジョンナイトなんですが』とか夢のないつっこみはしなくていいんだよ?
そしていよいよ魔法陣の光の中から数人の人影がゆっくりとせりあがってきて、その演出に観客が大歓声を上げている。
うむうむ。やはりエンターテイメントはこうでないと!
オレ様は足を組み優雅に紅茶を口に含みつつその様子を見守る。
「おーっと! 魔法陣から出て来たのは、屈強な男達だー! 男達が! なぜか! 半裸でポージングを決めているうううううっ!!」
「ぶふううううっ!」
「ぎゃあああっ! ばっちーっ!!」
なんでだああああっ!
完全に予想外な登場にオレ様は心で叫びざま、思わず口に含んでいた紅茶を勢いよく吹き出してしまった。
だって魔法陣から現れしは輝く鎧をまとった騎士達、などではなく、なぜか上半身裸でボディービルのようにそれぞれがポージングを決めている男達だったら、そうなるのも仕方ないと思うんだ。
あ、ごめんねエルモ? もろに噴き出した紅茶が顔面直撃しちゃって。
そんなエルモをハンナちゃんがお世話している中、そんな場違いな雰囲気をまとう男たちにオレ様は思わず、こう言ってしまった。
「なんだ、ちみは!!」
タイトル『観戦は優雅に~アビゲイル~』※画風を変えました。
嫌味な事を言う人って、上司、同僚、部下、仲間内など関わらず一定数いるもんですよね。
作者もとある仲間内でカラオケに行った時、『88点』取って女の子たちの前でドヤ顔してそれ以下の点数の人を下手くそ呼ばわりする野郎がいました。
非常にうざかったので『89点』を出して再びドヤる野郎の次に、『もののけ姫』の米良さんの歌を裏声で歌ってやって『93点』をマークして、すんとした顔でカウンターパンチをお見舞いしたことがあります。
女の子たちからは『似てるー! 作者さんすごっ! オカマなの!?』という感想を貰いました。
うん、最後の一言はいらないと思うんだ( ˘ω˘ )




