第109話/一難去ってまた一難?
話し合いの結果『ダンマスの指輪』を賭けて、ダンジョンナイト同士の決闘が行われることになる。
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一月またいで大変おまたせしました。
あ、ブクマやいいね、めっさお待ちしてます(∩´∀`)∩ワッショイ
ダンジョン発見の報告の筈が、”なぜか”ダンジョンの利権をかけての試合にまで発展してしまった会議により、試合は五日後に決まった。
サリシアさんが涙目になりながら公爵、お姫様、伯爵&子爵と交渉をした結果である。
尚、屋敷から帰る道すがら『アビーお姉様って丁寧な物言いもできるんですのね。素を知っているので違和感しかありませんけど』なんてサリシアさんから言われたりしたけど、オレ様だって場を弁えた言動はできるんだぞぉ?
そして特に何事もなく寝泊まりしている高級ホテルへと到着し部屋に戻ると、広いリビングの中央にあるテーブルを挟んで対になっているソファに座る、二人の姿が見えた。
「ああ、皆さん戻りましたか。首尾はどうでした?」
「もちろん上々。ちょーっとやることが増えたけど」
「……そのちょっとがちょっとじゃない予感がするのは気のせいですか?」
「気のせい!」
一人は誰あろう我らがギルド長であり、そのスイカのようにたわわに実った胸を組んだ腕に乗せ、長い緑髪をポニーテール揺らすエルモからオレ様に胡乱なジト目が向けられる。
でもこういうのは言いきったもん勝ちだから気にしない。
そしてもう一人、オレ様とよく似た……というよりもウェーブのかかった髪以外はほとんど同じ姿の女の子が立ち上がり、頭を下げて優雅な一礼をし、
「お疲れさまでした、我が主様。此度の命、滞りなく果たしてございます」
「うん、ご苦労様。そっちも問題ないみたいだな」
「ええ、主様の威光をもってすれば当然の事にございます」
そう言ってゆっくりとあげた顔はオレ様とまったく同じものだった。
「……わかってましたけど、ほんとにそっくりなんですのね」
「わぁ、声もおんなじです」
「お褒めに預かり光栄にございます」
サリシアさんとハンナちゃんがまじまじと魅入ってしまうのも仕方のないこと。
なにせこのオレ様と同じ姿をしているのは『眷属召喚』により呼び寄せた、元が黒いスライムのような姿で対象を真似る能力がある『幻影霊魔』という魔物。
サリシアさんにはオレ様がついていくが、ギルド側にもダンジョン発見者である本人がいた方がいいだろうということで、幻影霊魔に代役をしてもらっていたのだ。
ちなみにゲームではプレイヤーが設定した言動をするだけだったが、異世界で呼び出した幻影霊魔は自我を持って行動できるようになっていた。
ただ妙なこだわりがあるようで『主様を模倣するとはいえ、全ては恐れおおくございます』と髪型だけは変えていたけども。
それからオレ様はエルモと情報交換をするべく、サリシアさんと一緒にソファに座ろうとしたのだが、
「あ、あの、よろしければ主様の隣を頂いてもよろしゅうございますか?」
という幻影霊魔のおねだりにより、エルモの隣にサリシアさんが座り、オレ様の隣にオレ様が座るという妙な絵面が出来上がった。
しかも何が嬉しいのかにっこにこな笑顔で、恋人のように腕を絡めてオレ様の肩に頭をこてんとのっけていたりする。
ついでに言うなら、サリシアさんも幻影霊魔と同じくにっこにこの笑顔でエルモの腕に手を回していた。
「……まるで双子の妹を溺愛する姉って感じですね」
「そっちは姉を慕う妹っぽいけどな?」
あと腕に当たってるのが自分自身の胸であるわけだが、我ながら素晴らしい張りと柔らかさだと言っておこう。
それとさりげなくお茶の準備をしてくれたハンナちゃんは、さすがメイドさんである。
そしてはじまる情報交換会。
「結果的に言うなら、ギルドとしては全面的にこちらにダンジョンの運営を任せる、ということになりました」
エルモの話によると実は当初この件を担当していたのはあの小悪党カバーナ副部長だったのだが、不正行為で更迭されたことにより急遽他の人に変更されたらしい。
担当を変わったのはギルドの部長さんで話の分かる人だったらしく、『問題なく運営できるならそちらでどうぞ』とあっさりと認めてくれたようだ。
あまりにあっさりしすぎて懐疑的に思ったエルモが『手紙にあった、利権を半分以上獲得しろというのはギルド本部の意向では?』と質問したところ、
「悪く思わないで欲しいのだが、有用なダンジョンとはいえ辺境にまで人手を割く余裕がなくてね。むしろなぜカバーナ副部長があそこまで利権にこだわったのかが不思議なくらいだ」
という回答を得たようで、ギルド側は特に問題なしだった。
次にこちらのことをかいつまんで話すと、眉間に指を当てて深いため息をつくエルモからまたもジト目で見られてしまう。
「煽ってどうするんですか、煽って。しかし公爵様に王女様が出てきたのは予想外でしたが、結果的にこちらの手の内に収まったのは不幸中の幸いというべきですか……」
まあ、最終的に意見が合わなかったらになりそうだったら『殴って分からせろ』というのがオレ様達の既定路線だったからな。そのための準備もしてあったし。
「エルモお姉さま。わたくし、がんばりましたのよ?」
「えーっと……はい、よくがんばりました」
上目遣いのサリシアさんに多少迷ったものの、そっと頭をなでるエルモ。そしてご満悦に目を細めるサリシアさん。
うん、子犬のような瞳で『褒め待ち!』みたいにされたらなでるしかないよな。オレ様も撫でたい……なんて思っていたら横から視線を感じ、ちらりと目をやると、
「主様……その、私にもよろしゅうございますか?」
「構わないぞー。おー、よしよしよし!」
「いや、犬猫じゃないんですから、その褒め方はどうなんですか……」
自分そっくりな幻影霊魔を撫で繰り回すオレ様にエルモから苦言が入ったけど、ことのほか幻影霊魔は喜んでるよ?
「じゃあ、こういう風にしてみる?」
「え、主様なにを……」
撫で繰り回すのをやめてオレ様は幻影霊魔の顎を片手でくいっと上に傾け、そっと顔を近づけて、
「幻影霊魔、此度の働き見事であった。オレ様から褒美をやろう」
「え、え、あ、主様? そんな御戯れを、おたわむ、おたわ………………きゃふぅ」
あ、キスの真似事しようとしたら幻影霊魔が顔を真っ赤にして目を回しちゃったよ。どうしよう?
「エルモお姉さま?」
「……さすがにアレはしませんよ?」
「ぶぅ」
どうやらむこうのおねだりは失敗したらしく、サリシアさんがぷぅっと頬を膨らませていた。
こっちの幻影霊魔は軽くゆすっても、かっくんかっくんと頭が揺れて幸せそうな顔のまま起きなかったので、とりあえず送還しておく。
それからオレ様達は雑談を挟みながら五日後の試合について話すのだった。
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そして買い物や食事等と過ごしつつ迎えた試合当日。
試合の開催場所は前日にモルグ伯爵の使者により伝えられていたおり、それは王都マグノリアにいくつかある闘技場の一つだった。
なんでもこの国では個人の武を示したり娯楽等の意味も含めて人間対人間、人間対魔物等の試合がよく行われているらしい。
まあ元の世界のようにゲームや漫画本なんてない世界だから、こういう『戦いを見世物にする』というのもありなんだろう。
元の世界の古代ローマでもあったことだしな。
そして現在オレ様達は闘技場へ赴くために、外装を豪華にした自前のゴーレム馬車に乗って移動の最中である。
ちなみに御者はメイド服を着たオレ様に扮した幻影霊魔に任せている。
「こ、こんなに人がいっぱい…………アビーお姉さま、ほんとに大丈夫なんですの?」
この日の主賓であるため、いつもの服ではなく過分におめかしした赤いドレスを着たサリシアさんが窓から見える人々の波を見て不安げな声をあげる。
誰も彼もが一様に同じ方向を向いて歩いているのは、本日の試合が『入場料無料』というのが大きいかもしれない。
なんでもあのデクーン子爵が大々的に宣伝していたらしい。しかも『ダンジョンの利権を独占すべく、諫める伯爵へダンジョンナイトによる決闘を申し込んだ身の程知らずの男爵令嬢』というフレーズつきで。
事情を知らない一般市民からすると、すっかり悪役になってしまったサリシアさんなのであった。
「だいじょうだいじょうぶ。負ける要素なんて皆無だし、サリシアさんは安心して潜水艦に乗ってると思えばいいよ!」
「アビーさん、それって暗に沈むって言ってません?」
「止まれええええいっ! そこな馬車はローレント領主が代行殿の物とお見受けする! 速やかに停車し、我々の言葉を聞かれませい!!」
エルモのナイスなツッコミが炸裂したときだった。
外から大きな声が響き、少し遅れて御者の幻影霊魔の声が馬車の中へ届く。
「ご歓談中に失礼いたします。主様、前方に鎧姿の謎の集団が陣取っていますがいかがいたしましょう?」
「え? え? なんでしょう? わたくし達を名指ししているようですが……」
困惑するサリシアさんを余所に、前方の小窓から見てみれば確かに数人の鎧集団が両手を広げて通せんぼしている。
でも残念。この馬車は”ローレント領主代行の物”じゃなくて、オレ様が作り出した”オレ様の物”だから人違いならぬ馬車違いだ。
「というわけで、気にせずそのまま直進してよし!」
「…………」
『えええええっ!?』
「承知いたしました」
無言で遠い目をするエルモと驚くサリシアさんとハンナちゃんをよそに、幻影霊魔はオレ様の指示を忠実に実行し馬車は速度を落とすことなく走り続ける。
「聞こえておらぬのか!? 止まれ! 止まれい! 止ま――え、なんでお前等ワシを置いて離れていくの!? ここは身体を張って止めるとこ、みゅぺるぎゃあああああっ!!」
がっちゃん、どごしゃあああっ。
馬車がナニかを弾き飛ばし地面をこする音と一緒に妙な悲鳴が上がった。
しかしさすがにそのままというわけにはいかないので、幻影霊魔に馬車を止めるように指示を出す。
馬車が止まりとりあえずオレ様だけ降りて、エルモは護衛としてサリシアさんとハンナちゃんと一緒に馬車に残ってもらう。
そして馬車の後方を見れば一人の鎧を着たおっさんが土煙を上げながら、身体を丸めてピクピクとしていた。ヤ〇チャしやがって。
そのおっさん周りで同じような鎧姿の数人が介抱しており、更にその周りを群集が遠巻きに眺めている状況。
まあゴーレム馬車の馬は外が固い割に中はがらんどうだし、おっさんは鎧を着ているしでそこまで深刻なダメージはないだろうけど。
その証拠に鎧のおっさんがぷるぷるしながらも身体を起こす。
「お、お前等ワシだけ置き去りにして逃げやがって…………それよりも! よくも人の静止を無視して轢いてくれたな! 自分が何をしたかわかっておるのか!?」
「いったい誰がそんなことをー」
「なにゆえ他人事!? お主が馬車から降りてきたのを見ておるんだぞ!? 当事者だろうが!!」
ちぃ、あわよくばスルーしてやろうと思ったのに。
しかしまあ試合まで時間が限られてることだし、とっとと終わらせようか。
「やかましい。勝手に飛び出してきた奴等が偉そうにするな。こっちは忙しいんだから、用があるならとっとと済ませるがいい。というか、お前等は一体なんなんだよ?」
「な、なんたる不遜な態度! しかし用を済ませろというのなら好都合! いいか! その耳をかっぽじってよく聞くがいい!!」
おっさんが声を張り上げた瞬間、その他の鎧の奴等が集合してなぜかそれぞれポージングを決めていく。
「我々は! 不条理な世を解くための使者! 人権保護団体である!!」
『である!!』
「…………じんけんほごだんたい?」
なんだか妙な集団に目をつけられたもんである。
〇〇保護団体っていう名の組織って、過激だったりするのがいますよね。
作者も昔『難民保護団体』と名乗るお姉さんが家にやってきて、推定20代後半の佐々木希似でちょっと可愛いなぁと思いつつ5分くらいお話を聞いていると、
『あなたが寄付することで難民が助かり幸せになるのです。一万円からいかがですか?』
と言われたので、ただ断っても粘られたらヤだなぁと思ったので、
『じゃあ、あなたが私にお金を貸してくれませんか? そしてそれを寄付しますので。そうしたら私もあなたも難民も幸せになれますよね? あ、できればお名前と住所と電話番号教えてくれませんか? 後日ちゃんとお返しに参りますので』
なんて提案してみたら、すごい困った顔して半泣きになりそうだった希似お姉さんが、
「え、えっと、すいません、上司と相談してみますので、えっと、その、了解が取れ次第改めてお伺いしますので、すいません、私これで失礼します……!」
と頭を下げてそそくさと帰ってしまいました。
…………別に希似お姉さんと知り合えるチャンスだったのに! とか思ってませんよ?|ω・)オシイ




