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ネカマの吸血鬼が異世界転生しました。  作者: 隣の斎藤さん。
第二章 灰被りの魔女。

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第106話/いざ会議へ!


暴れん坊将〇的な解決方法で不正を働いたギルド副部長を撃退!


 

 ギルド副部長による不正事件を解決したことでフィナちゃんは晴れて自由の身となり、そのギルド副部長はエルモが応接室に呼んだ警務隊という強面の方々に連行されていった。


 ただ両脇をがっちり固められてドナドナされていくギルド副部長の背を見送るエルモの表情は、どこか憂いを帯びているようで、


「さようなら、私の初恋の人……。エルモは心の中でそう呟くのだった」

「ええ!? エルモお姉様そうだったんですの!?」

「エルモ様は趣味がわる――もとい独特の方だったんですね……」

「き、気を落とさないで下さい、エルモギルド長」

「ちょっと! 他の人が信じてるじゃないですか! アビーさんは変なモノローグを勝手に入れるのやめてくれますか!?」

「ほへんははい……」


 うんうん、冗談だからそんな伸びるほど乙女の頬をひっぱらなくてもいいと思うんだ。いたひ……。


 あと『昔は真面目だけが取り柄だったのに、権力もった途端にバカなことする典型だなって思っただけですよ!』とか大声で言わない方がいいと思うな。


 ほら、強面の警務隊の人にギルド副部長が肩を叩かれて慰められてるから。


 それからエルモがギルドでの手続きを終えて、皆でギルドの外へ出た頃には日が傾きつつある時間だった。


 すると唐突にフィナちゃんがオレ達に向かって頭を深く下げた。


「あの、ありがとうございました! みなさんのおかげで、私、冒険者を続けられそうです」

「はっはっはっ、困ったことがあったらオレ様を頼るといい。エルモがきっとなんとかしてくれるから」

「いきなり私に丸投げなのはどうかと思いますが?」


 むろんオレ様も手を貸すけど、なんかあったらよろしくねって事で。


「責任を取るのは偉い人の仕事だからな!」

「やらかした人にきっちり責任を取らせるのも偉い人の仕事ですけどね?」

「サリシアさん、エルモがいじめるてくるんだけど?」

「わたくしもどちらかと言えばエルモお姉様サイドなので、なんとも……」


 くっ、サリシアさんに目を反らされた。まあ、半分冗談なんだけども。


 尚、不正のきっかけになった依頼主である貴族の三男坊にも警務隊による厳しい調査が入る模様。きっちり裁きを受けるがいい。


「アビゲイルさんの言う事はともかく、今回のことでフィナさんが王都で仕事が難しくなったのはギルドとして申し訳ないと思いますが……」

「いえ、もともと私のレベルだと王都で活動することに限界を感じていたので、かえってよかったと思います。それにお見舞い金もあんなに貰えちゃって、ちょっと怖いくらいの金額でしたけど……」


 不正が解決したとはいえ借金奴隷だったことはすぐには払拭できず、しばらく王都での依頼は受けづらくなるだろうとのことで、エルモから『ハイドランジアのダンジョンで活動してはいかがですか?』という提案があり、それを受けての異動である。


 なおフィナちゃんには今回の不正の補償という名のお見舞金として、借金であった百万ゴールがまるまる譲渡された。


「まあまあ、貰っといても損はないもんだし。なんならオレ様がもっと追加してやろうか?」

「ここで、ハイ、って答えたら本気で追加してきますよね?」

「もちろん!」

「……短い付き合いですが、なんかアビゲイルさんの性格がわかってきた気がします。気持ちは嬉しいですが、さすがにそれは遠慮しておきます」


 そう言いつつ苦笑するフィナちゃんだったので、今回のことで精神的に暗い影を落としていないようでなによりである。


 それから皆でハイドランジアのことなどで雑談をしつつ、フィナちゃんとはそこでお別れすることとなった。


 ちなみにお別れ会と称して皆で高級レストランで食事でもしようと誘ったのだけど『……舌が肥えて今までの食事が悲しくなりそうなので、遠慮しておきます』と俯き加減に断られてしまったが。


 それを聞いたサリシアさんとハンナちゃんが『わかります』と遠い目をしていたけど。


 しかしまあハイドランジアで会うこともあるのだから、食事するのは今後の楽しみにとっておこう。


 見送ったフィナちゃんの姿が見えなくなると、なぜかエルモがこそっと近づいてきて耳打ちをしてきた。


「……アビちゃん先輩、フィナちゃんの影に影狼(シャドウウルフ)を滑り込ませてましたよね?」

「まあお守りみたいなもんだな」


 エルモにはどうやらバレていたらしい。


 まあ冒険者といえどフィナちゃんも女の子。ハイドランジアへの道中に万が一にでもバカ共に襲われたりしたら目も当てられないしな。


 ただエルモも人のことは言えないと思うのだが?


「そっちだってさりげなく『妖精の守り』をフィナちゃんに付与したのわかってるんだぞ?」

「……私としてはその、防犯ブザー的な意味なだけです」


 襲撃されるとカウンターで大精霊が出てくる防犯ブザーとか、防犯というより撲滅なような気がするけどな。


 ともあれオレ様とエルモの庇護があればフィナちゃんは無事にハイドランジアまで辿り着けるだろう。


 あとはとっととギルドと領主の会議(こっちの問題)を解決するだけだな。


「それじゃあフィナちゃんの件も解決したことだし、数日後の会議のために英気を養う意味も込めて今夜も上等な夕飯にしようか!」

「今夜”も”というところが、これからの食事事情を物語ってますわね……」

「はわわわ、お嬢様、私普通の食事に戻れる自信がないです……」

「サリシア様もハンナさんも割り切った方がいいですよ? アビーさんはこういう時遠慮というものは皆無ですから」


 当然だ。『お前んとこは貧乏だから恵んでやる』みたいな上から目線で舐め腐ってる態度の奴に遠慮する義理はない。


 文言通りに恵んでもらおうじゃないか。破産する勢いでな!


 それにサリシアさんから聞いた所によると、貴族社会じゃ『ご馳走します』と文面にまでして約束したことを『お金かかるからやっぱりなし』等と翻すのは大恥なのだとか。


 それがバレた日には『見栄も張れぬ貴族』と周りから冷ややかな目で見られるらしい。


 なので遠慮する義理はなし! ということで、オレ様は皆を連れておいしい夕食やお土産などを探すために王都を散策するのであった。


 それから数日経ち、毎日の美味で豪勢な食事に『……あれ? ウエストが、きつくなって……ますわ……!?』というサリシアさんの珍事があったりしたものの、会議の当日を迎える。


 ギルド会議のエルモとは別行動でオレ様とサリシアさん、侍女であるハンナちゃんで馬車に乗り、目指すは件の会議を発案者で手紙を寄越した主であるモルグ伯爵とやらの屋敷。


「自身の管理不足によるダイエットとはいえ、まさか滅多に現れないキングボアに追いかけられる日が来るとは思いませんでしたわ……」


 ダイエットの成果もあり、赤いドレスに身を包み以前よりもすっきりした腰回りになったサリシアさんが馬車の窓から遠い目を空に向けている。


 いや、ちゃんとオレ様監視下のもとに安全に配慮したダイエットだったんだけどな。


 真剣さと必死さを増すために草原をランニングするのに魔誘香という、魔物を引き寄せる香水を秘密裏にかけたら意外と大物が釣れただけで。


 もちろんバス並のでかさだったドでか猪のキングボアはオレ様がサクっと仕留め、冒険者ギルドへ売却することでちょっとした臨時ボーナスと化したけど。


「ところでお嬢様? 途中から私も巻き込まれたのはなぜでしょう?」

「侍女はどこまでも主人についていくものですわ。……あなただけウエストが変わってないのはずるいと思います」

「それはあくまでついていくものであって、見学してるこっちに向かってきて強制的に巻き込むのは違うと思いますよ!? というか最後のが本音(理由)ですね……!?」

「わはははははっ!」

『原因を作った本人が笑わないで下さい!』


 雑談に花を咲かせていると、馬車は王都の町の中心地へと向かい貴族しか住まないという貴族街を通り、辿り着いたのは件のモルグ伯爵貴族の屋敷前。


 豪華な装飾がされた門に屋敷を囲む高い塀。門扉には門番だろう鎧を着た槍を持つ屈強そうな兵士が二人に、絵に描いたような老執事さんがが佇んでいた。


「ようこそおいでくださいました、領主代行であらせられるサリシア=ローレント様ですね? 我が主が中でお待ちしておりますので、ご案内いたします」

「はい。よろしくお願いいたしますわ」


 馬車を下りたところで老執事が深く頭を下げ、サリシアさんが挨拶を返すと踵を返して『こちらです』と門の中へと入っていく。


 その後ろを三人並んでついていき、門を通り中へ入ったところでサリシアさんとハンナちゃんから『うっ……』と息を詰めるような声が漏れた。


 原因はまさに目の前に広がる光景で、屋敷まで続く石畳の両側に並ぶ鎧を着た十数人の騎士が武装した状態でこちらに軽い威圧を向けているせい。


「当家が今回の護衛にと国よりお借りした騎士団にございます。本日は大事なお客様をお迎えすると伝えており、少々気を張っているようで驚かせてしまいましたら申し訳ございません」

「い、いえ、皆様、職務に精を出しておりますれば、こちらはなにも申し上げることはございませんわ……」


 なんて返答するサリシアさんも少し後ろを歩くハンナちゃんも顔色がよろしくない。


 まあ女子高生がヤクザに絡まれるようなもんだから、よほど肝が据わった人でもない限り怖いし委縮してしまう状況だろう。


 ラノベでもたまに出てくる、交渉を有利にすべくこちらにはこんな権威権力があるぞと見せつけてくる示威好意のようなもんだと思われる。


 が、よりにもよってこのオレ様が側にいる時に二人を怖がらせるようなことをするとなんて…………いい度胸してるな?


「こんなにお強そうな騎士団の方々が守ってくださるなら、とても心が軽くなり(・・・・・・)安心ですわね(・・・・・・)サリシア様」

「あ……はい。そうですわねアビゲイルさん」

「そ、そうですそうです」


 オレ様が声をかけ笑顔を向けると二人とも途中からほっとした顔になり、相槌を返してくれる。


 ま、それとは正反対になぜか(・・・)騎士団の奴等が顔を青くしているけど、一体どうしたんだろうな?


 もしかして悪い白昼夢でも見ているのかもしれないけど、どうでもいいか。


 そんな騎士団の連中の様子を知らず前を歩く老執事に案内されて、オレ様達は屋敷の中へと入っていくのだった。



 ======



 伯爵の客人だという貴族令嬢とそのお付きの少女達が屋敷の中へと入ってしばらくして、今まで直立不動だった騎士達が我慢の限界を超えたかのように一斉に姿勢を崩した。


 肩で荒い息をつく者、片膝をついてしまう者、震える手で顔を覆う者など多種多様な姿を見せれど、誰一人として無事な者はいなかった。


「な、なんだったんだ今のアレ(・・)は……はっきりと自分がなにもできないまま首を斬り飛ばされる光景が目に浮かんだぞ……」

「俺も……気づいたらばっさり身体を両断されてた……」

「私なんか凶悪な魔物に食らいつかれてましたよ……」


 誰も彼もが己の身に起こった不吉な光景を吐露する中、唯一姿勢を崩さずに立っていた男の元へ汗が止まらぬ一人の騎士が話しかける。


「団長、よく無事でいられましたね……。しかし今のは一体なんだったのでしょう。

 長年恐るべき魔物や凶悪な犯罪者を相手にしてきましたが、かつてあれほどの恐怖を受けたことがありません……」

「……バカ野郎。俺だって成りはこんなだが冷や汗で全身びっしょりだぜ。ただこの感覚には覚えがある。昔、遠征の時に遠目にだが火山の主である焔獄竜と遭遇してな。

 向こうは軽く威嚇して去っていったつもりだったんだろうが、俺には自分が炎のブレスで焼き尽くされる光景が目に浮かんだもんだ」

「で、では、それに匹敵するほどの力が、あの黒いドレスの少女にはあると……」


 だろうな、と団長は呟き、未だ回復できない騎士たちに目を向けその惨状に思い知らされる。


 金払いがいいからとちょっとした小遣い稼ぎのつもりで伯爵様の見栄に付き合った結果が、これだ。


 並んで歩いていた三人のうち令嬢と侍女は真っ先に自分たちの軽い威圧に対して委縮していた様子だったが黒いドレスの少女だけは違い、まるで何も感じないように笑顔を浮かべていた。


 その黒いドレスの少女の笑みが濃くなったと思った瞬間、自分たちの威圧などそよ風に感じられるような暴風にも似た気配に包まれ、終いには抵抗する間もなく自身が斬られる光景に襲われた。


 騎士の意地ともいうべきもので全員がその場で崩れるようなことはなかったものの、まったくもって割に合わない仕事である。


「おーい、お前等。さっきの黒いドレスの嬢ちゃんの顔は絶対に覚えておけ」

「……団長、まさかリベンジするとか言いませんよね? だったら今すぐ退団届けを受理して欲しいんですが?」

「バカ野郎、誰がそんな自殺行為するか。むしろオレが真っ先に辞めるわ。

 そうじゃねえよ。これからなにがあってもあの黒いドレスの嬢ちゃんと敵対するようなことはするなよ。

 それとさっきの令嬢と侍女の顔も覚えておけよ。どういう関係か知らねえが、あの二人と親しいようだし、なにかあったら味方しとけ。

 じゃねえとさっき見た光景が現実になると思え」


 団長の言葉にごくりと喉を鳴らし、全員の騎士が頷く。


 数ある騎士団の中でも上から数えた方が早いと言われる程の実力を持つ自分たちの団長の言葉を胸に刻み、騎士たちはなんとか態勢を立て直すも早く終わってほしいと願いながらも警備を続けるのだった。



タイトル『いい度胸してるじゃん?』

挿絵(By みてみん)




ちなみに老執事にはあえて威圧してなかったアビゲイルさん。


可愛い系の女子生徒同級生と共に上級生の階へ一緒に授業で使う荷物運びをした時、廊下でたむろしていたなんちゃってヤンキー入った先輩たちがニヤニヤしながら睨んでいたんだけど。


女子生徒が前からやってきた当時オリバみたいな体格で『超怖い』と有名な先生に『お父さん、お弁当忘れてるってお母さんが言ってた』という言葉を聞いたときのなんちゃってヤンキーの先輩たちの驚きの顔と『オレ達なにもしてません!』みたいに全力で目を反らしていたのはおもしろかった。


ちなみに作者は先生と女子生徒が仲睦まじく歩く後ろをステルス全開でついていきました。



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― 新着の感想 ―
ドンマイ騎士さんw 毎度毎度後書きのエピソードが面白いwww
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