第104話/小悪党。
盗賊を張り倒したら可愛い魔法使いをゲットした。
大都市ウォールナットを出発して盗賊イベントがあったものの、その後は特に何事もなく王都マグノリアへと辿り着いた。
ただその道中で盗賊イベントで知り合った魔法使いの、見た目が小動物系のフィナという名の少女だけは、自ら望んだことではなく自身の奴隷契約により随行しただけだった事が発覚。
他の襲ってきた盗賊や冒険者達とは違う為、保護して道すがら事情を聞いてみたところ。
なんでもとある護衛依頼で魔物と遭遇してしまった際に、護衛対象である貴族の三男坊に誤って怪我をさせてしまったことが発端。
その三男坊に多額の賠償金を請求されてしまい、困っていたところにギルドが仲介に入ってきて賠償金の肩代わりをする代わりに専属の借金奴隷になったのだという。
「おかしいですね。あからさまな故意や悪質なものでない限り、大貴族ならまだしも三男程度が軽傷を負ったところで賠償金やギルドが仲介に入ることなどまずない筈ですが」
故意じゃないよね? と聞くとフィナちゃんがぶんぶんと勢いよく頭を縦っていたので間違いないだろう。
あとエルモの追加情報で護衛の依頼主は魔物などに襲われた際は『命があるだけで儲けもん』というのが普通で、多少の怪我をしたところでいちいち賠償金なぞ請求しないらしい。
まあ怪我をする度に賠償金請求されてたら、護衛を受ける冒険者もいなくなるだろうよ。
「この件は私がギルド長としての権限を持って調査しましょう。フィナさんの賠償金と借金奴隷というのは、どうにも不当な気がしてなりません」
うーん、確かにエルモが調査するのならなんらかの形で解決するとは思うんだけど、今回のタイミングが良すぎる盗賊の襲撃といい、それだけじゃ収まらない気がしなくもない。
そう考えたオレ様はエルモに待ったをかけて、思いついた悪だくみもとい別の解決方法を皆に披露したりしながら王都へと辿り着いた後、お昼すぎということもあり例のごとく召喚状の発行人(今度はギルド側)のご厚意に甘え、高級レストランで相手の経費によるタダ飯を堪能することに。
やはり人のお金で食べるご飯は旨い。
その後に高級ホテルで人数分×一週間の先払いを済ませ、現在フィナちゃんの問題を解決すべくサリシアさんとフィナちゃんを先頭に、ハンナちゃんとエルモにオレ様が後ろに控える形でギルドへ来ていた。
ギルドは酒場と併設された内装で、今も昼間だというのに幾人かの冒険者が酒を傾けている様子がまさにラノベ仕様といった感じでオレ様感動なのだが、女性冒険者の姿が見えないのはちょっと残念。
「おいおいあの恰好、どこかの貴族のお嬢様か?」
「へへへ、オレっちが声かけられたりしてな」
「ばっか、ありえねえよ。かけられるとしたらオレだな! ぎゃはははっ!」
滅多に来ることはないだろう貴族然としたサリシアさんに、おバカな発想をする冒険者の視線が集まること集まること。
「……おい、見ろよあの二人の剣。かなりヤバイぞ」
「ああ、おそらく魔剣だろうが、二人ともかなりの使い手だな……」
しかしその中でも何人かは見る目がありそうな冒険者が、オレとエルモが腰に差している剣をみて声を潜めて話しているのも聞こえてくる。
あーいう感性が上に行けるものと下にとどまるものを分けるのかもしれない。
ちなみにオレ様とエルモは護衛に見えるようにそれぞれ自慢の剣を携えているものの、訳あって道すがら購入したフード付きのマントで顔を隠していたりする。
「わたくし、ハイドランジア領の領主であるローレント子爵の孫娘でサリシアと申しますが、ギルド副部長であるカバーナさんをお願いします。
冒険者のフィナの件でお話がある、と伝えて頂ければわかると思いますので」
と、サリシアさんが貴族スマイルで話し貴族の証である指輪を見せると、受付嬢さんがちょっと青い顔になって『少々お待ちください』と言い残しその場をダッシュで離れていく。
(サリシアさんの凄味のある笑顔が受付嬢さんを恐怖させたのだった)
(違いますわよ!? アビーお姉様は変なモノローグを入れないでくださいます!?)
(そうですよ! お嬢様が領主様にマジ切れしてる時とかあんなもんじゃないんですから!)
(そ、そうなんですか!? 祖父とはいえ領主様に……すごいですサリシア様)
(フィナさんは真に受けないで下さいます!? それとハンナはあとでちょっとお話がありますわ)
(…………はい)
あ、サリシアさんが無言で凄味のある笑顔になってる。なんか藪蛇だったみたいでごめんねハンナちゃん。
それにしてもギルドとの話し合いの際に相手に悟られないように身内同士で相談できると便利だろうと思い、手持ちの魔鉄を素材に『錬成』のサブスキルで即席で作って皆に渡した念話ができる指輪だけど上手く機能しているようだ。
素材と即席のせいもあってその効果は一日くらいで、あとはただの鉄の指輪に戻っちゃうけど。
「あ、あの、応接室にご案内しますので、こちらでお待ちください」
戻ってきた受付嬢さんに促され、案内されたのは簡素ながらもテーブルやソファ等の調度品がそれなりに立派そうな部屋。
少々お待ちくださいとそそくさと受付嬢さんが去っていった後、サリシアさんとハンナちゃんがソファに座り、オレ様とエルモはフィナちゃんと共に護衛よろしく後ろに控えておく。
「失礼するよ」
ほどなくして部屋に入ってきたのは小太りのいかにも小悪党面をしている男で、何の断りもなくどっかりと対面のソファに座り込む。
そしてフィナちゃんを見るや否や顔を歪めて小さく舌打ちまでする。
(うわぁ礼儀知らずー。エルモはあーならないようにな? お腹とか)
(あんなのと一緒にしないでくれませんか!? それに私はお腹なんて出てませんよ!)
(え? だってこの前ファンナさんから差し入れ控えるように言われたけど? 最近、エルモが部屋でウエストやお尻がきつくなったとか騒ぐからって)
(ファンナアアアアアッ!?)
「私がカバーナだ。それで私に話があるようだが? ギルド副部長という立場は暇ではないのでね、手短に頼むよ」
念話にてエルモと楽しい雑談していると、不遜な態度で話してくるカバーナだけどその表情はどこか余裕がないように見える。
まあフィナちゃんの件で自分の不正がバレたかも、って思えば気が気じゃないんだろうけど。
「それでは単刀直入に話させていただきますわ。今日王都に向かう道中で不埒者に襲われまして。
その不埒者はここにいるわたくしの付添人が撃退しくれましたが、その中には冒険者が混じっておりまして、その抗議の意味でもここにまかりこしましたの」
「そ、そんな愚か者が冒険者にいたとは……。きっと底辺の冒険者共でしょうが、預かり知らぬこととはいえ、こちらの不手際であることはお詫び申し上げる」
おお、目が思いっきり泳いで動揺してる動揺してる。
それでも一応は『私は無関係です』的なことを口走って頭を下げて見せる程度には自制心があるようだ。
「その時に後ろのフィナさんにも助けて頂きましたの。しかし身の上を聞いたところ不慮の事故で借金奴隷になったというではありませんか。
それはあまりに不憫でしたのでお礼の代わりと言っては何ですが、わたくしが代わりにギルドで保証人になっているというあなたに、こちらをお支払いしようと思いまして用意しましたの」
実際に助けられたわけじゃないけど、それはそれ、嘘も方便というやつで。
しかしサリシアさんも演技派である。道中での打ち合わせ通りに話を進めてくれている。
サリシアさんが軽く頷くと、それを見たハンナちゃんが用意されていた手の平サイズの袋をテーブルの上に置き、これみよがしに袋の口を少し開けた中から見えるのは白金色の金貨。
一枚十万ゴールのお値段がする白金貨がぱっと見で十枚程その姿をのぞかせている。
(私のお給料一年分が手元にあるとか、変な気持ちになってきてとっても気持ち悪かったです……)
(あら、持ち逃げしてもいいですわよ? ただしそれをするとあなたの姉が全力で捕獲しに来る上に、捕まったら数年タダ働きになると思いますけど。まあ経費が浮く、という意味ではわたくしとしても構いませんが)
(お嬢様! 笑えない冗談はやめてくださいませんか!? 姉が青筋浮かべて笑いながらタコ殴りにしてくる様子が夢に見そうですから!!)
サリシアさんとハンナちゃんもしっかり念話の指輪を使いこなしているようで、念話してるにも関わらず姿勢を正したままでいる。
ちなみにこの白金貨はオレ様のポケットマネーで、返済金の一部としてサリシアさんに渡して使ってもらった。
「た、確かに借金の額はあるようですが、本気なのですか? たかが低ランク冒険者である小娘のために、見ず知らずのあなたが?」
「別に知り合いかどうかは関係ありませんわ。助けてもらったお礼、わたくしとしてはそれだけですもの」
凛として堂々と言い切るサリシアさんがちょっとかっこいい。
それに引き換え、カバーナの口の悪さにちょっとむかついてくる。
「それにあなたがフィナさんにした善意と同じようなものですのよ?」
「……!?」
後ろからでもわかる、小首を傾げながらも『こっちはお前のやったことがわかってるぞ』という含みを持たせたいい笑顔でにっこり微笑むサリシアさんが。
その証拠にカバーナの顔色が変わりその目に焦りの色が浮かぶんだけど、この程度の揺さぶりで本心見せてたら悪党として大成(?)できないぞ?
さて、このままこいつがすんなり返済金を受け取ってくれればそこで色々と平和的に話は終わるんだけど。
「…………信じられませんな。お礼と称して借金の肩代わりをすることも、あなたが貴族であるということも」
ほほーう、何か策があるのかカバーナが顔色悪いままでニヤリと不気味な笑みを見せる。
完全に旗色が悪いのにまだやる気なのだろうか?
しかしまあ、やっぱり悪党の悪あがきはこうでなくっちゃ!
バッドエンドのルートを選んだ小悪党の行く末に、ちょっぴりわくわくしてまうオレ様なのだった。
『サリシアさん』
作者、自信たっぷりな悪党が外堀を埋められていき、だんだんと心が折れていく姿が見ていてメシウマな気持になります。
昔『オレはモテるんだぜ』が自慢だったちょっとうざいイケメン先輩が、美人で有名だった女子先輩を『オレの彼女だ』と公言していたところ、当の本人から、
『ご飯ご馳走してくれるから皆と一緒に遊びに行くだけで、わたし彼氏がいるからそういうのやめてくんない?』
と冷たく言い放たれて、見るからにうろたえていたしょぼくれていた姿がきっかけだったかもしれません。




