第103話/サラニ、アヤシイイチダンが、アラワレタ。
怪しさ爆発の仮面の一団が合われて勧誘してきたけど、衛兵さんにドナドナされていく。
高級という名を冠するだけあって泊った宿は素晴らしいものだった。
高級感はあるも嫌みのない調度品にふっかふかのベッド。
なにより大きな姿見の鏡があるのがよかった。思わず姿見の前で我が子に魅入ってしまい、何度も色々なポージングを試してしまった。
ははは、我が子だから仕方ない! 可愛いは罪だな!!
朝になるとモーニングコール代わりに宿のメイドさんがドア越しに起こしてくれ、いつものオフショルダーの黒に赤いアクセントのドレスに着替えて宿のレストランにて皆で朝食。
「メイドである私がこんな待遇を受けていいのでしょうか……」
いいんだってば。メイドだろうがなんだろうがお客様である以上、貴族のお嬢様であるがごとく宿の従業員に振舞われても気にしない。
まあ、恐縮しまくったハンナちゃんが『わ、私もなにかお手伝いを……!』と言いだした時は思わず皆で笑ってしまったけど。
朝食後は軽く雑談をし、高級宿を出て王都へ向けて大都市ウォールナットを出発した。
ちなみに昨日の怪しい仮面の一団は現れなかったので、まだ衛兵さんのお世話になっているのかもしれない。
そして移動は例によりオレ様謹製のゴーレム馬車に乗り、オレ様とエルモ、サリシアさんとハンナちゃんが対面になって座り談笑することしばらく。
山あいを抜けるそれほど広くない街道を快走していると、安全確保のためにオレ様が展開していた感知レーダーに、遠く離れた前方で不自然にとどまっている集団の反応が引っかかった。
「ん-? なんか前方に妙な集団がいるな」
「……ほんとですね。しかも街道を塞ぐようにいて、左右の少し離れたところには数人が展開していますね」
同じく感知したらしいエルモもオレ様と同意見なようだ。
「お、お二人ともそんなことが分かるんですか?」
「さすがですわ! しかし街道にいるだけならなんらかの立往生と考えられますが、離れたところにもいるというのが怪しいですわね」
「こんな場所で検問なんか聞いたことないですし、順当に考えるなら盗賊の類でしょうね」
「え……と、盗賊ですか!?」
サリシアさんとエルモの話を聞いてハンナちゃんがおろおろしだすのも仕方ない。
元の世界でもこの先に強盗が待ち伏せている、とか聞かされたらオレ様だって普通にビビる。
が、相手にとって残念ながら今のオレ様は普通じゃない。くくく。
「ふふふ、異世界にきてついにテンプレの盗賊イベントがきたか……!」
「いやなに嬉しそうにしてるんですか。普通に考えたら大事なんですからね?」
「はっはっはっ、吸血鬼のオレ様と巨人殺しのエルモがいる時点で普通じゃないから問題ないだろ?」
「それはそうですけど、二つ名はやめてくださいよ……」
「……お二人の会話が頼もしすぎて危機感が薄れそうですわ」
「お嬢様、私、よく考えたら盗賊がちょっと可哀そうに思えてきました……」
ハンナちゃん、悪人に慈悲は無用なのだよ。
話しているうちに段々と盗賊と思われる集団との距離も近づいてきたので、馬車の前方に設置してあるガラス窓から外の様子を見てみると、
「おー、いるいる。あれが盗賊ってやつか」
「武器を手にしてますし、少なくとも一般人や商人等ではないのは確定ですね」
まだ距離はあるものの十人くらいのガラの悪そうな集団がおり、倒木によって道が塞がれているのが見える。
「どうしますの? このままではあそこで足止めされてしまいますわ」
「お、お嬢様は私が命に代えてもお守りいたします!」
「大丈夫大丈夫。オレ様に考えがあるから」
だからそんな悲壮な顔で決意を固めなくてもいいんだよハンナちゃん。
そしていよいよ近づていく盗賊らしき集団との距離。
向こうも完全にこちらを視野に入れたようで武器を振り回してなにか叫んでいるご様子。
「止まりやがれー!!」
「ここは通行禁止だー!!」
なんてことを言っているんだろうけど、残念ながらオレ様謹製の馬車は防音がしっかりしていて聞こえないうえに、あいにくこちら素直に止まるつもりはない。
「ちょっと行ってくる。<蠢く幻影>」
自身の姿を黒い幻影へと変えて馬車の屋根を素通りしてその上に仁王立つ。
うわ、速度が出てるから髪や服がばったばた暴れてちょっと鬱陶しい。
「な、なんだ!? 馬車の上にいきなり現れやがったぞ!」
「かまわねえ! とりあえず馬車を止めちまえばこっちのもんだ!!」
「貴族の女がいるってことは、ちょっとはオレ達で楽しんでもいいよな!」
小粒から粒ぐらいの大きさに見える距離でまだまだ遠いが、オレ様の高性能な吸血鬼イヤーが盗賊共の声をしっかり拾う。
うむうむ。元気があってよろしい。そんな盗賊共にはこれをプレゼントしてやろう。
というわけで、やっちゃえゴーレム馬!
「起動! ゴーレムビーム!!」
オレ様が命令を出すと、ゴーレム馬の口がパカっと開いてそこへ魔力の光が収束していく。
その様子は盗賊たちにも見えているようで、ヤバイと感じたのか散り散りに逃げ始めた。
しかし逃げきるのを待ってやるほど優しくはないのだよ。
「発射ーッ!」
オレ様が前方へ手を振り上げて無慈悲な号令を発動すると、ゴーレム馬の口に収束した魔力が線状になって迸り、直撃した倒木を爆散させて周りにいた盗賊共も一緒に巻き込まれて吹っ飛される。
そんなわけで無事に開通された道を悠々と過ぎ去り、少し離れた場所でゴーレム馬車を止める。
後始末はちゃんとしないとね。
<蠢く幻影>で馬車の中へと戻り、サリシアさんとハンナちゃんに安全のために中にいてもらって、オレ様とエルモだけ様子を見に馬車の外へと出ていく。
「……馬車になに危険物仕込んでるんですかアビーさん」
「いやほら、男のロマン?」
外へ出るなり呆れた顔のエルモからお小言が。
でも口からビームとかちょっとかっこいいじゃん?
それはともかく盗賊共の様子を見てみれば、見事に死屍累々な感じでピクピクしながらへち倒れているばかり。
いやまあ、ビームは加減してたから軽く鑑定した感じ全員半死半生なだけで死んではいないけど。
よーし、そんなお前たちにここは一つオレ様が気の利いた言葉をかけてやろうじゃないか。
「一体誰がこんな酷いことを……!」
『あんただよ!!』
顔を上げながらツッコむ元気はあるのか。結構結構。
オレ様は馬車の守りはエルモに任せて一人盗賊共の元へと歩み寄り、
「大丈夫?」
『だからあんたが言うなよ!』
よしよし、これくらい元気ならきっといいお話が聞けるだろう。
「<操影糸>」
オレ様の影から闇魔法の一種で相手を操る影の糸が四方八方へと伸びていき、盗賊共の影へと接触してその自由を制限していく。
「な、なんだ!? 急に体が動かなくなって……!」
「は、話が違う! こんな強い護衛がいるなんて聞いてねえぞ!?」
「やめろ! 何をする気だ!?」
「人と話をするときは寝転がってたらダメだろ?」
ゲームじゃあせいぜい同格には一時的な足止め程度しかなく、格下でやっとまともな効果が出る代物だったけど、それ以下の盗賊共なら覿面だろう。
オレ様がくいっと右手の人差し指を上にあげると、身体の痛み悶えながらも盗賊共がのろのろとその体を起こしていく。
「おや? 盗賊だけかと思ったら毛色の違うのもいたのか」
もちろん街道の両脇の木々に潜んでいた奴等も<操影糸>で引っ張り出したのだけど、盗賊とは違うまともな装備をしている男女合わせて五人が青い顔しながら姿を現した。
「ま、まて! オレ達は盗賊なんかじゃねえ!!」
「そ、そうだ! オレ達は冒険者で……こ、こいつらを討伐しようと思ってたんだ!」
「はあ!? なに寝言言ってやがる! てめえらクズ冒険者は護衛がいた時に横から襲う手筈だったろうが!!」
はい面が割れた。うんまあ、そんなこったろうとは思ってたけど。
とりあえずぎゃあぎゃあ罵りあうバカ共が面倒なので、<操影糸>で一列に並ばせ<支配の魔眼>により服従させて自身の生業と目的を白状させていく。
「な、生業は盗賊だ……目的は貴族の馬車を襲って令嬢を売り渡すことだ……」
盗賊の身なりをしてるやつらは全員が同じような供述で、
「生業は冒険者だ……目的は……盗賊と一緒に貴族の馬車を襲って、護衛がいたら殺すことだ……」
冒険者の恰好をした男四人はそんな供述だったのだけど、最後の薄汚れた魔法使い風の十代後半くらいの女の子は震えながら答えたのは、
「生業は冒険者です……目的は……知らなかったんです。借金奴隷で、ただ魔法で援護しろと言われていただけで……」
ふむ。見たところ魔眼に抵抗できるほどのレベルでもないし、<支配の魔眼>の支配下にある上での言葉なら間違いないだろう。
「おーい、ギルド長で巨人殺しのエルモさんやーい」
「なんていう呼び方してるんですか……」
呆れながらもエルモがこちらの側に来てくれると、それを見た盗賊&冒険者達がざわめきはじめた。
「う、嘘だろ……エルフで巨人殺しって言ったら、伝説の英雄じゃねえか……」
「な、なんでそんなのが貴族の馬車に一緒に乗ってるんだよ……」
「エルフのギルド長って言ったら、本物……」
「ギルド長にばれるなんて……終わった……」
エルモが来ただけで盗賊も冒険者もお通夜モードになるとは。
「エルモ、大人気だね?」
「この状況作ったのアビーさんなのに、なんで私が絶望の象徴みたいな扱いされてるんですか……」
まあ素行の悪い木っ端社員が悪さをしたら会社の社長にばれた、みたいな状況に近いんじゃないかな?
ある意味こいつらの気持ちは分かるけども、そこに同情の余地はない。
「で、異世界生活の先輩であるエルモに聞くけど、盗賊を捕まえた後ってどうすればいいんだ? その場で魔物の餌的な?」
『ひいーっ!』
あっはっはっ、冗談だって。半分はな。
「そうですね。まず盗賊達は町の兵士に引き渡すのが無難でしょう。冒険者達はギルドで独自に処罰が下りますので、そちらに引き渡すのがいいかと」
「まあそんなもんだよな。じゃあ盗賊共と冒険者共はウォールナットにダッシュして、それぞれ兵士とギルドに直行して今回とこれまでの己の悪事を自白するように。
あ、魔法使いの女の子は残っていいから」
それまで俯いてハラハラと涙を流していた魔法使いの女の子が、はっとした表情で顔を上げる。
目が合ったオレ様は安心してもらうために頷き、笑みを返す。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! なんでもするのでお願いします! 生きたまま魔物の餌にするのだけは許してください!! うああああんっ!!」
「ちがうちがうちがうちがうちがうっ!?」
いやまって!? さっきの魔物の餌は冗談なのであって! しかもなにげに餌のやり方がエグくなってる!?
あああああっ! そんな泣きじゃくらないで!? 心が痛いから! あと犯罪者は『あの子、可哀そうに。オレ達はまだマシだな』みたいな目をして走り去っていくんじゃない!!
「ぷっ、ぶふっ……さすがにあの場面で言われたら、勘違いもするかもしれません、よね……うくく……」
さっきからエルモも顔背けて肩震わせてんじゃなくて号泣中の女の子をなんとかしてくれよ!
オレ様が声かけても『ごめんなさい』『許してください』『いっそ殺してください』とか呪文のように唱えてるだけなんだよ!!
結局、大泣きする魔法使いの女の子にあわあわするオレ様という状況を見かね、馬車を降りてきたサリシアさんとハンナちゃんがどうにか宥めて落ち着かせてくれたのだった。
うん、泣く子と地頭には勝てないってよく言ったもんだよ……。
あと、最後まで笑っていたエルモにイラっときたので盛大にスカート捲りをしてやったら、顔を真っ赤にして追いかけてきましたまる。
ホテルとか旅館とかに泊まるの苦手な作者。
なんかこう、綺麗なシーツとか調度品とか普通に扱えないんですよね。
『丁重に扱わねば! 少しでも汚したらアカン!!』みたいな小心者心理が働いて。
ちなみに作者、過去にビジネスホテルで朝シャン終えて全裸待機してるところを、掃除の部屋を間違えてドアを開けて入ってきたお姉さん(30代前半位)と目が合い、数秒間DIO様の『ザ・ワールド』が発動したことがあります。




