第102話/アヤシイイチダンが、アラワレタ。
召喚状をよこした貴族のお金でタダ飯!
※今回ちょっと短いです。
名物料理のフルコースのような豪華な昼食も終わり、小休憩したところで気分よく皆で店の外へ出たところでそれは起こった。
フードを被り白い仮面をつけた怪しい三人組がオレ様達の前に立ちはだかり、待ったの手を向けてきたのである。
「そこ行く方々、お待ちになるのである! 王都から召喚を受けたサリシア様ご一行とお見受けするが、いかがかであるか!!」
「違います。じゃ、皆行こうか」
『…………』
まさか速攻で断られるとは思ってなかったのか、無言のまま固まる怪しい三人組を置き去りにオレ様は皆を先導して通り過ぎていく。
「あ、あの、いいんですか? あの方たち思いっきりサリシア様のことを名指しされてましたけど……」
「いいのいいの。オレ様はエルモ様ご一行として答えただけだから。ほらサリシア様ご一行じゃないだろ?」
「え、えーっとぉ……」
ふっ、これぞ必殺『曲解による返答』である。だから気にしなくてもいいんだよハンナちゃん。
「しかしもうここまで網を張っているとは、この先が少し思いやられますね」
「確かに。あのようにいちいち足止めをされるのは困りますわね」
まあ相手側は利権のために裏工作? みたいなものをしてくるだろうけど、なんならオレ様の『支配の魔眼』で回れ右させてもいいし、もし実力行使で来るならそれこそ望むところだし?
オレ様とエルモがいる限り物理方面は無敵と言っていいから問題ないしな。
「ち、ちょっと待ってほしいのであーる!」
じゃあ腹ごなしに皆でそこらのお店でも冷やかしていこうかな? なんて思っていると後方から甲高い声で待ったがかかった。
どうやら我に返った先ほどの怪しい仮面の三人組が、オレ様達の前に再び回り込んで前を塞いでくる。
うん、ちょっと鬱陶しくなってきたかもしれない。
「う、嘘はいけないのである! ちゃんと聞いていた人物と一緒であるし、なによりその指に付けている指輪の紋章が動かぬ証拠なのであーる!!」
ずびし! と指さされたサリシアさんを見れば、その指には確かになんかの紋章が彫刻してある指輪が。
「ほんとそれ?」
「ええ、まあ。確かにわかる人が見ればわかるものですわ」
ううむ。それじゃ言い逃れはできそうにないか……面倒な。
オレ様達が言い返さないでいると、怪しい仮面の一人がさらに口上を続けていく。
「我らはとある高貴な方よりサリシア様と交渉を任された者である! 高貴なる方の望みしことは順当な利権の譲渡であり、そのための話し合いである!!
対価についてもそちらの望みに沿う形にすると仰せであり、そのために我々に同行していただきたく――――」
思っていた通り召喚による会議前だというのに利権をよこせという裏工作。
そして長い口上と大き目な声のせいで集まってくる周囲の視線。
最初から付き合う気のないオレ様としては、これ以上長くなるのは勘弁してほしいところなんだけど?
「どうする? 要は利権について話があるからついてこいっていうことだけど」
「さすがにあの怪しさしかない方々についていくのは抵抗がありますわ」
「ついていったところで素直な話し合いがされるとは思えませんしね」
オーケー、サリシアさんとエルモの考えは確認した。そしてその横でおろおろしているハンナちゃんに癒される。
とにかくオレ様達の意向は決まったので、この怪しい仮面ご一行様にはご退場いただこう。
というわけで、
「そこいく衛兵さーん!」
「はいぃぃぃ!? いきなり何をしてるのであるか!?」
「どうしたのかね?」
声をかけられてこちらに来る三十代くらいの衛兵さんに焦りまくる怪しい仮面達だが、そんなのはお構いなしにオレ様は話を続ける。
「この人達、変なんです!」
「変とは失礼であるな!?」
「いや鏡見ろよ。ともかく、この人たちが『お金あげるからお金持ちの人がいる場所までついてこい』って強引に誘ってくるんです!」
「なんだと!?」
「そんなこと言ってないのであるが!?」
ははは、対価をくれる高貴な人がいる場所に来い、というのを言い換えただけだから問題なし!
「衛兵さんの前だからってあんな嘘までついて! 私たち困ってるんです! 助けてくださいませんか?」
ここで発動させる、衛兵さんの手を両手で握り目を潤ませた上目遣いによる美少女からの懇願! これで落ちない男がいるだろうか? いやいない!
案の定、頬を赤くさせた衛兵さんは力強く頷き、
「あ、ああ、任せてくれたまえ! お前たち! ちょっと詰所まで来て話を聞かせてもらおうか?」
「えええええっ!? なぜであるか!? 我々はなにも怪しいことをしているわけでは……!!」
いやだから鏡見ろってば。
「怪しい仮面にフードを被ったその風体で婦女子に『金を渡すからついてこい』なんて言う輩は怪しい以外の何者でもないわ!」
ほらやっぱり。
それからなんやかんやと言い訳をしていた怪しい仮面一同であったが、最終的に応援を呼んだ衛兵さんにより周りを囲まれて詰所へと連れられて行った。
また連れられて行く間際、オレ様が『また出ると怖いので、念入りに取り調べてくださいねー』と衛兵さん達に美少女ウインクをしたところ『はーい!』といい返事をしてくれたので、怪しい一団はすぐに出てくることはないだろう。
「あざとい、アビちゃん先輩あざとい……」
ジト目になったエルモに言われたけど、それは誉め言葉と受け取っておこう。
「これぐらいで衛兵さんたちのやる気が上がるなら安いもんだって。それよかほら、せっかく時間もあるんだし、皆でどっかいこうよ?」
「扱いが軽い……なんだかあの人たちがかわいそうな気が……」
「気にしても仕方ありませんわハンナ。これから先、あのような方々にいちいち構っていられませんもの」
そうそう、サリシアさんの言う通り。そんなことよりも今を楽しもうじゃないか。
無事に事なきを得たオレ様達は、その後観光やショッピング、豪華な夕飯を楽しみ高級宿へお泊りしたのだった。
もちろん、経費は呼び出した貴族宛にして♪
とある日、インターホンが鳴ったのでモニター越しに出てみると、そこには三十代くらいのそこそこ美人さんな二人組の女性がいて、
「すみません。いまお話を聞いてくれる方を探してまして。あ、全然怪しい者じゃなくてですね、アフリカの貧しい人々のために活動していまして」
「原産地のコーヒーを買っていただいて、そのお金を支援金として送っているんです。よろしければお話を聞いていただけないでしょうか?」
という文句だったんですが、そこで作者ちょっと気づいたことがありまして。
原産地(アフリカだよね?)というわりに、持っているコーヒー缶の文字が韓国語だったことに。
「すいません。カフェインアレルギーなもので、ご期待に沿えません。失礼します」
と穏便に帰っていただいたけど、後から考えなくても十分怪しい人たちだったなぁと思いました。




