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ニセ賢者の弟子になりました  作者: 五十鈴 りく
Ⅱ☆☆

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26/41

☆☆5

「君ほどの才能はこの先百年経とうと望めない。それを――」


 ツラツラと並べ立てるルーベンス団長を、師匠はうるさいのひと言で黙らせた。


「うるさいんですよ。俺たちはもう上司でも部下でもありませんから」


 ピシャリと言い放ったはずなのに、ルーベンス団長は何故か照れたように顔をふやけさせた。

 ――どうした?

 よくわかんないけど、不気味だな。


 師匠、上司との折り合いが悪かったって言ってたけど、この上司、師匠のこと惜しみまくってるよね? 大好きだよね? 師匠の方だけが一方的に毛嫌いしてるんじゃないかなぁ。

 なんかさ、相手してもらえてるだけで嬉しそう。


()()()、か」


 ほら、なんかつぶやいてる。

 この時、師匠の首筋が粟立ったのを僕は見た。怪鳥や敵兵にも怯むことがない師匠がだ。


「とにかく、帰ってください。メシ時に居座るのやめてください」

「では、後でまたく――」

「二度と来なくていいです」


 バタン。

 師匠は僕の首根っこを捕まえて奥に押し込むと扉を閉めたのだった。そして、閉めた途端に身震いしている。こんな師匠は初めてだ。


「し、師匠?」


 僕が呼びかけると、師匠は深々と嘆息し、そしてぼやいた。


「……引っ越し、しようかな」

「そんなに嫌なんですね?」

 

 ルーベンス団長は今回は大人しく去ったみたいだ。

 でも、おかげで焼いていたパンが焦げた。仕方なくそこを削る。


「僕が悪いんじゃないですよ。あの団長さんのせいです」


 師匠は不機嫌極まりない様子で椅子に腰かけていて、焦げたホットサンドに視線を落として切ない目をした。


「迷惑すぎる」


 本気でうんざりしてる。

 僕はそんな師匠の正面に座り、訊ねた。


「ところで師匠、あの団長さんって男ですか? 女ですか?」


 リニって名前まで中性的だ。ほんと、どっちなんだろ?

 師匠は不機嫌なままで焦げたホットサンドにかぶりつく。


「知らん」

「知らんって……。じゃあ、おいくつなんですか?」

「考えたこともない」

「…………」


 仮にも上司だったんだから、もうちょっと興味持ってあげてくださいよ。

 さすがに可哀想になった。もちろん、ほんの少しだけど。



 そんなことがあった翌日。

 僕が早朝から眠たい目を擦って山羊の長老の乳しぼりに精を出していた時。


 白っぽい影がふよん、と家の前に現れた。朝っぱらからオバケかと思って、僕は盛大にギャ――ッと叫んだ。

 びっくりした長老が僕を蹴り飛ばそうとした、その後ろ足を辛うじて避けたけど、おかげでミルクを零してしまって土が吸った。ああ……最悪だ。今日はろくでもない日だ。泣きそう。


 呆然としていた僕のもとに、寝間着姿の師匠がフッと現れた。こんな早朝なのに。

 あ、寝癖。


「朝っぱらからなんだ?」


 そう言ってから、師匠は家の前の白い影を見て目が覚めたようだ。

 僕は子供だからツゲグチしてやった。


「急に出てきてびっくりしたから、ミルク零しちゃいました!」


 師匠は毎日ミルクを飲むのが日課なんだ。大事なミルクを台無しにして、長老だって怒ってる。

 怒りよりも先にうんざりとした顔で師匠は白い影――かつての上司を見た。


「今、何時だか知ってますか?」


 すると、団長さんはこっくりとうなずいた。


「私は早起きは苦にならない。出仕前に顔を出しに来たのだ」


 あなたが早いの平気でも、こっちは迷惑ですよ?

 特にうちの師匠なんて夜型だから。ほら、怒ってる。


「朝からあなたの相手はしていられません」


 師匠はピシャリと言ったけど、まったく堪えてない。


「そうか。それなら夜に出直そう」


 イラッと師匠の顔に書いてある。魔術師団は非常識だって師匠が言うだけあるなぁ。

 僕もどうせならこの団長さんが引退してから入りたいかも。


 そこで団長さんは黙って師匠をじっと見た。その途端、師匠は、


「二度と来なくて結構です」


 とだけ言い残すと、フッと消えた。

 昨日もそれ言ったけど、効力なかったじゃないですか。


 二度寝するんだろうけど、嫌な夢を見そうだな。

 師匠が行ってしまうと、団長さんは僕に対して一切愛想を振り撒かなかった。


「お前が彼の弟子だと言うなら、魔術師団へ戻るように説得しろ。あれだけの逸材がこのまま埋もれていくなんて、あってはならないことだ」

「いやー、師匠にはそんなつもりないですから、僕が何を言っても同じですよ」


 お偉い魔術師団長さんにとったら、僕なんて小間使いと変わらないんだろうけど、名前すら訊かれず偉そうにされたって丁寧に返す気なんかないや。

 団長さんは師匠に見せていたご機嫌な様子とは別人のごとく、犬歯を見せてささやいた。


「彼を説得できたら、お前にもしかるべき教育を施し、不相応なほどの地位を約束してやろう」

「…………」


 そんなの、鵜呑みにするわけないじゃないか。

 いくら僕が子供でも、胡散臭いってことくらいはわかるよ。


「え~、ほんとですかぁ! わかりました、ありがとうございますぅ! 僕、頑張りますね!」


 なんてね。

 そっちがミエミエのことを言うから、僕もふざけた。

 でもさ、団長さん、満足そうにうなずいてるよ。真に受けたみたい。


「よし、くれぐれもしっかりな」


 なんて言いながら去った。


「…………」


 ちょーっと、世間知らずだね。

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