RANK-34 『変わるもの……』
ケイトとマナミは冒険者として、ホームにしている町に戻ってきた。
「ほえぇ~、本当だったんだ。二人がお姫様ねぇ。ってマナミは元々お姫様か」
酒場に顔を出すと、珍しく暇そうにしているエミーリンが奢りのお茶を出してくれた。
「ポアラが大喜びで、大儲けさせてもらったって、二人に感謝してた」
王宮での宴があったり、関係各位への顔合わせやらで、決闘祭の後はずっと忙しく数日を過ごした。
ようやく解放されて最後に挨拶をと思っていたが、ポアラには会う事のできなかった。
城を跡にする日の朝、お礼にとエステロイカの名産お菓子が警護所に送られてきた。
今三人の前に広げられている。
「まさかマナミまで結婚を決めるなんてね。しかもあの曰く付きの王子様とだなんて」
「もしかしてエミーちゃんはレジ君のこと知ってたりする?」
秘匿情報が多く、いくらアドスの職員とはいえ、たかが窓口係が情報を持っているとは思えないが、相手はエミーリンだ。
「ゴウちゃん達がこの町に来た時にね。リンカにお願いしたんだよ」
「あぁ、それで! 通りでリンちゃんが詳しい訳だ」
その報告書を見たエミーリンは、仲良くはなるだろうけど、まさか結婚という展開はありえないと思ったそうな。
「だってマナミの理想ってケイトみたいな王子様でしょ?」
「ぶぶーっ、エミーちゃん変なお話を読み過ぎ。私の理想のタイプは確かにケイちゃんだけど、それはケイちゃんと過ごした日々がそう思わせただけ、ケイちゃんみたいな王子様が目の前に現れたって、ケイちゃんとの日々の前じゃあ、霞んじゃって却って靡かないよ」
レジデンスはマナミの真意を知りながら、温かく見守ってくれる。
なによりこの旅でマナミは、彼により強い興味を抱き、その真実を知って尚も陰りはしなかった。
自分の理想に近い、これ以上の条件はない。
彼女の魂胆を知りながらレジデンスが受け入れてくれたのは、幸運としか言いようがない。
「それはそうとリンカはどうしたの?」
婚約した二人はそのまま王宮にとはならず、婚礼の日まで弛まぬ精進を続け、冒険者レベルを引き延ばすように仰せつかってここに居る。
婚姻後のビジョンにリンカは含まれておらず、しかし冒険者を続ける以上は、可能な限り一緒に行動を共にすると約束をしてくれた。
「リンちゃんは一度里帰りをしてから、今まで通り私達とパーティーを組むことになってるよ」
経験値は十分に稼いだからと、忍者の上位職である上忍になる試験を受けるのが帰郷の目的。
「そうか、けど新婚早々別居って寂しい話ね」
「まだ結婚した訳じゃあないって」
「ケイト、黙って爆食いしてるのって、やけ食いでしょ?」
結構ケイトにとっても恥ずかしい話をしていたのに、静かに黙っていると思ったら、用意したお茶菓子はもう空っぽ。
「さ、寂しがっている暇なんてないよ。ゴウが王位を継承するまでに私達ももっとランクを上げないといけないんだから」
エステロイカの魔谷渓の経験を加算して、更には決闘祭。
二人はアドスから大量のポイントを受けとり、第三位クラスの“トウカ’まで登る事ができた。
しかし後ワンランクは上げたいところ。
ゴウ達二人も修行の旅で、最高ランクを目指している。
「だったらこの町より、もっと大陸の北を目指せばいいんじゃあないの?」
それこそゴウ達に同行すれば、二人は短期間で目標を達成できるはず。
「決闘祭で私達と引き分けたのが悔しいんだって」
冒険者ランクは確かに低いが、戦闘力で言えば名前を残せるくらいの二人は、同じく最強クラスのゴウ達と肩を並べている。
リンカに式神を借りてダガーを操った技も、自らが特異とする補助魔法で使えるようにもなった。
「婚礼の日取りが決まったら、その前にもう一度決闘をするって息巻いていたわ」
ここは酒場なので、定食が用意されているわけではないが、エミーリンはメニューにない料理を振る舞ってくれて、ケイトはパスタをフォークでくるくるかき混ぜ続ける。
「別にこの町にいても冒険者ランクは上げられるでしょ? もうマナミの妨害も入らないだろうから」
「あらら、話しちゃったの?」
頬を赤らめて俯くマナミ、父王から受けていた妨害、それを自分も利用していた事が、うっかりリンカの口から零れてしまい、全部包み隠さず暴露した。
「私がここで力を付けたら、マナミを置いて放浪の旅に出ちゃうって、勝手に決めつけてポイントが出にくいように工作してたんだもの、内輪にそんな子がいたら、そりゃあランクアップなんてできないわよね」
「うう、だからゴメンってば」
「はは、私もゴメン、最初からそんなの気にしてないって言ったのにね。ちょっとマナミを困らせたかっただけだよ」
「もう、ケイちゃんのくせにぃ……」
ポイントは棒に振って、報酬だけは受けられるようにする裏工作はさぞかし大変だっただろう。
そこまで想ってくれる相棒を置いて旅立つなんて、ケイトには想像も付かない。
「けどケイちゃんのお祖母様みたいに、冒険者として名を馳せたかったんでしょ?」
「確かに最初はそうだったけど、今の私は自分に合った冒険者って職業に就いて、楽しく過ごせたらそれだけでいいし、ゴウ達に出会ったお陰でいろんな想像以上の冒険もできた。なんもかんもをひっくるめてマナミには感謝しかないよ」
マナミもエステロイカでまた、新しい魔法を数多く契約する事ができた。
「今のケイトとマナミ、それにスキルアップしたリンカが加われば、私も私が用意できる最上位の依頼を斡旋してあげられるし、北方にも負けないくらいのポイントを稼がせてあげるよ。ゴウちゃん達が帰ってくる頃には、最高位の“ウォーノ”になってたりね」
ポアラのようにお金儲けもいいが、やっぱりエミーリンは自分が関わった冒険者が成長する姿を見るのが、何より楽しい。
「ああ、それは無理な話だから私達はマイペースにいくわ」
「へっ、それってどういう……?」
ケイトが窓の外に手を振っている。
「ただいまぁ、ケイト! 宿にいなかったからちょっと焦ったぞ。まだここにいたんだな」
エミーリンが長い耳を思わず押さえてしまう大音量で扉を開け、大声を出すゴウが駆け込んできた。
「えぇ!? なんでゴウちゃんがいるの?」
「確かに強力なモンスターを退治する修行を始めたけど、お泊まりじゃないよ」
エミーリンの驚きを苦笑で受け止めてマナミが答える。
「遠征しろとは言わないけど、日帰りなんて効率悪すぎるでしょ!」
ケイトも頭を抱えてゴウに的確な指摘をする。
「ちゃんと成果を上げてるんだからいいだろ? 今日は地竜を三匹しとめてきたぞ」
「地竜って!? この大陸だと極地に近い北摂まで行かないと出てこないでしょ?」
目を白黒させてエミーリンが食いついてくる。
「おかえりレジ君、魔力は残ってる?」
「ありがとうマナミ、流石に疲れましたよ。覚え立ての転移魔術で日帰りで北摂地帯まで飛ぶのは」
ゴウに続いて入ってきたレジデンスは、マナミからドリンクをもらって一気に飲み干す。
修行は予定通りにする。
けど離れて生活なんて考えられないゴウに振り回されるレジデンスだが、想いは同じだから頑張るしかない。
同じくマナミが長距離移動魔法を覚えたから、こちらも拠点をこの町に置いたまま、ランク上げをしていく予定。
エミーリンはまだまだこの顔ぶれで、面白可笑しい冒険の調べを綴っていけそうな事に胸を躍らせる。
「ただいま戻りました」
数日してリンカが戻ってきた。
無事に上忍の位に上がり、クサハの里の縛りからも解放され、アドスの支援を受ける一冒険者として、忍術を使う事の許可も下りた。
「それじゃあ私達が王宮入りするまでは、一緒に居られるんだね」
「王宮入りするまで? いいえ私はお二人に付いてエステロイカにも行きますよ」
「本当にいいの?」
「はい、マナミさんもどうぞ、末永くよろしくお願いしますね」
なんとも心強い言葉だが。
「そうなるとリンカの相手も探さないといけないよね。エステロイカなら屈強な冒険者もゴロゴロいるだろうけど」
ケイトは何気に上から目線でリンカの今後を心配してやるが、言われた事が今ひとつ理解できずに、くノ一はキョトンとしてしまう。
「ところでリンちゃん、後ろの人は?」
部屋の入り口で話を始めた三人、廊下に佇む人影に気づき、マナミが問いかける。
「ああ、紹介しますね。ライタさん入ってください」
長身のゴウやレジデンスより頭一つ分高い、ガタイのいい男性が入ってくる。
「初めまして」
「こちらはクサハの里のライタ。私の旦那様です」
「はっ?」
上忍試験を受けるために里に戻ったリンカは、同時に祝言を済ませて夫婦となった男性を伴ってこの町に帰ってきた。
「どういう事?」
「こちらは所謂幼馴染みという方で、と言っても里の者は全員、幼い頃から顔見知りになりますから、同年代だと自動的にそう言う存在になるのですけど」
しかしそれにしても、そう言った相手がいるなんて、今まで一度も聞いた事がない。
「だって恥ずかしいじゃないですか」
照れ臭そうに紹介するリンカというのも新鮮だ。
「ライタさん今度、エステロイカの王都にお店を出すんです。ああそうそう、彼は和菓子職人でして、和菓子というのは……」
こんなに自分の事を語るリンカにも驚いた。
驚いたと言えばエミーリンから聞かされた噂話。
ケイト達がエステロイカへ旅立った事を知らされなかった者と、知っていて置いて行かれた者。
二人は愚痴をこぼし合い、共感を覚え、次第に惹かれ合っていったとかで、こちらも思わぬゴールインを納めたクリフとヴィフィーダ。
ゴウとレジデンスは遠方への日帰りクエスト。
ケイト達は酒場で斡旋できる最上級の依頼を。
クリフ達には可能な限り最速でランクアップできる冒険をと。
目の回る思いをするエミーリンは至極ご満悦。
冒険者の集まる酒場は大盛況を続けた。
ケイトとマナミ、二人の冒険者のお話は取りあえずはここまで。
本当に色々な顔を見せてくれたからね。
クリフとヴィフィーダの馴れ初めとか、気にする暇もなかったわ。
まだまだこれからも色んな物語を積み重ねていくんだろうけど、私は他にも気に掛けないといけない子達がいっぱいいるから。
リンカの旦那さんの事も気になるけど、この二人のお話はもし機会があればお伝えします。




