RANK-33 『思惑通りに……?』
魔法勝負でマナミに勝てるとはゴウは考えていない。
ようは戦い方だ。
近付けさえすればリンカがいても、マナミに攻撃を届かせる事はできるはず。
「俺はケイトと闘いたいんだけどな」
タッグマッチが決まった時点で想定していたマッチングだが、リンカの機動力が想像以上に高くて、ゴウでは対応しきれない。
「ケイトもどんな体力だっての、レジデンスが反撃できないくらいのラッシュをずっと続けてるよ」
伴侶が想像以上に強い事は喜ばしい事だが、一国を預かる将来のある身として、婚約者に土を付けられる訳にはいかない。
「ジェラーム、やるぞ!!」
「了解です、ゴーヴァント様」
チーム戦ではあってもお祭りの趣旨を考え、各々の対戦相手は各々で対応する考えでいたが、向こうがそれを望んでいないのなら、先ずはその方針を変えさせないといけない。
ゴウとレジデンスは合流し、二人がかりで遠距離魔法攻撃を開始する。
「ゴウが魔法を? マナミぃ!」
魔法攻撃のターゲットはマナミ&リンカ。
上級冒険者の二人からの連続攻撃は半端ではない。
しかも進路予想も優れていて、リンカの奇抜な足捌きも、動きを封じられるように先回りされる。
「ありがとうリンちゃん、ここまででいいよ。後は撹乱だけお願い」
「分かりました、ご武運を」
リンカは煙玉で煙幕を張り、マナミから離れていく。
「おっきいのいくよぉ」
「なっ!?」
マナミの宣言通りの特大の火魔法が、ほぼ無詠唱ではないかという時短で飛来する事に、ゴウ達は混乱する。
「まだまだいくからね!」
極大の魔法を連発するマナミに、レジデンスは攻撃の手を止め、全力で魔力障壁を張って主を護る。
「リンカお願い!」
マナミの攻撃が有効であると判断したケイトは、リンカと呼吸を合わせて前に出る。
目標はレジデンス。
「あくまで俺を避ける気か」
横をすり抜けようとするケイトに、ゴウは憤然として剣を振り上げる。
「避けてる訳じゃあないんだけどね」
目標を変更してケイトは踵を返し、ゴウの剣を真正面から受け止めようと、魔剣ゲイルフェンサーを切り上げる。
リンカはそのままレジデンスへと向かっていく。
「俺の全力を受け止められるかよ」
ケイト達が魔谷渓での試練に挑んでいる間、ゴウは城の魔道士から魔術を学び、僅かな時間で詰められるだけ詰め込んだ。
一歩下がると、身体強化の白魔法と同時に重力を操作する魔術を剣にかけ、次の踏み込みで大鬼の一撃に匹敵する一振りを、全力をかけて打ち込む。
「ゴウ、ケイトを殺すつもりですか?」
「やべ!」
レジデンスの声に我に返るがもう遅い。
ゲイルフェンサーには魔法を打ち返す能力があるが、重力魔法は剣にかけたからその効力を反射はできないはず。
攻撃魔法は反射が可能であると、以前ケイトがゲイルフェンサーで教えてくれた時に、対策が必要と考えて、編み出した技だ。
「ケイト、避けろ!」
しかしゴウが剣を止められないのと同様に、ケイトももう体勢を変えられる状態ではない。
「私とゲイルフェンサーをあまく見ないでよ」
地面を掴む足に力を込め、ケイトは剣を振り切った。
「魔法剣の力も返せるのかよ!?」
ゴウは剣ごと力を弾き返されて、投げ出しはしなかったが手に残る痺れは尋常ではない。
改めて剣を振る力はない。
黒魔法はまだ苦手だが、攻撃の手を止める事はできない。
全力で魔術を絞り出す。
「おやめなさいゴーヴァント様、貴方はまだ魔術を完全に制御できていないでしょ」
使い物にならないから使わないのではない、全力でないと発動できないから危険なのだ。
ファイヤーマジックは火の玉を矢の様にしてケイトを襲う。
「やべぇ、やりすぎた!」
ケイトのあまりの強敵っぷりに、つい力が入ってしまった。
「ベル、メル、行って!」
ケイトは虚空に二本のダガーを呼び出し、それを手にすることなく火の矢にぶつけた。
「なっ!?」
ケイトが短剣に名前を付けた。つまりあのダガーには召還魔法が掛けられている。
「いきなり剣が出てきた事は理解できるが、なんでそいつらが勝手に飛んでくんだよ」
手の痺れはだいぶ治まった。
まだ第二ラウンドも可能だ。
だがケイトの手札が全部出たとも思わない。
「ねぇ、この服って」
「やっぱ気付いたか?」
動きが止まり、悩むゴウに少しだけ考える時間が与えられる。
「当たり前でしょ、ちょっとも痛みを感じないんだから」
「ここは闘技場であり、神殿でもあるからな。痛みを精神ダメージに置き換えるアストラルマジックが働いているんだよ」
ダメージが蓄積し、限界値を超えると失神してしまう。
と言う仕組みだが、それほど万能でもない。
先ほどのゴウの攻撃をケイトが受けていれば、精神ダメージが一気に押し寄せ、後遺症を残してしまうところだった。
ってことは墓の中まで、黙って持って行かないといけない。
「この魔法も万能じゃあない、お前の性格じゃあ後先考えずぶっ倒れるまで押してくるだろ? だから黙ってたんだよ」
「ふーん、そんじゃああんた達の服も?」
「もちろん、一緒のもんだ」
と言う事は元気そうなゴウも、まだまだ続けられるということ、それにずっと気になっている事もある。
「もうそろそろ本気出しなよ」
「今までも本気だったさ、ただちょっとここまでは、王族として意識しすぎだったな」
体勢を低くし、対モンスター用のスタイルになり、それはケイトが知る冒険者ゴウのいつもの姿。
今日一番のスピードで突っ込んでくるゴウを前に、ケイトはゲイルフェンサーを投げ捨てる。
「なんだ、諦めたのか?」
大怪我を負う事はない。
遠慮は無用と突き出されるゴウの大剣。
「リアン!」
ケイトの手の中に出現するショートソード。
長剣であるゲイルフェンサーでは取り回しが間に合わないと、軽い剣に持ち替えてゴウの大剣を弾き飛ばした。
「ベル、メル、お願い」
リンカの式神で自在に操れる短剣をゴウの両肩に突き刺す。
傷を負う事はないが、肩が急に重くなり、怠さで動きが鈍くなる。
「ゲイルフェンサー戻って!」
大上段の構えから一気に振り下ろす。
「……へぇ、すごいじゃない、今のを耐えられたんだね」
「ああ、無様に気を失う訳にはいかないからな。けど完全に俺の負けだ。今の一振りで本当なら完全に死んだからな」
精も根も尽きた。
ゴウは潔く負けを認めたが、決闘の勝者はケイト達ではなかった。
「護るべき主をやられたのですから、ワタシ達の勝ち、とは言えませんね」
レジデンスはマナミを降参させ、急いでゴウのフォローに回ろうとしたが間に合わず、それでもケイトに最後の一振りを当てる事には成功した。
「リンカが本気で参戦していたら、ワタシ一人では勝てなかったでしょうし」
マナミが降参した時点でリンカも両手をあげ、結果としてレジデンスはケイトを倒す事ができた。
ゴウほどのダメージを受けたわけではないケイトはもちろん失神などしなかったが、剣を捨てて、敗北を宣言。
決闘祭は幕を閉じ、ジャッジは両者引き分けと判定。
賭をしていた観客達はチケットを天高く投げ捨てた。
引き分け札を買った者は、全体のほぼ僅かだったという。
胴元であるポアラはうはうは状態。
前代未聞のチームバトルとなった決闘祭の闘技場に、嘆きの怒号と、惜しみない拍手が送られた。




