RANK-32 『これから……』
決闘祭の当日、イベントの内容の公開を受けて、観客たちはより一層の興奮を覚えた。
過去にない趣向で執り行われるのはチームバトル。
闘技場でケイトとマナミは、ゴウとレジデンスの二人と闘わなければならない。
と言ってもこれはただの儀式に過ぎず、ケイトはもちろんマナミも、エステロイカの王家に嫁ぐだけの実力はあると判断されている。
今の時期は魔力も活性化されていないので、そこまで強力な魔物の出現はなかったものの、その攻撃力と判断力、危険回避能力などは過去、稀に見ないほどの好成績であったと国王は報告を受けている。
ケイトもマナミも一人であっても試練を突破できたと聞き、更に二人の素性調査の資料に目を通すと、王はレジデンスを呼び出し、彼を王族として承認すると明言した。
「やっぱり王都ってスゴイね。私達のホームなんてここの何分の一なんだか?」
大きな闘技場の客席は超満員。
会場に入りきらなかった民衆は、広場に設置された投影魔法装置で中の映像を眺めていた。
「リンカごめんね、変な事に巻き込んじゃって」
「いえいえ、私もお二人のお役に立てて嬉しいです」
冒険者としての実力は正しく評価されたとは言え、ゴウ&レジとの実力差を鑑みて、こちらは三人チームが認められている。
決闘の下準備の時間は十分にあった。
ベールやポアラにも手伝ってもらい、必要な物は全て揃えた。
「あっ、と驚かせようね」
「うん、私達三人を相手にするなんて思い上がりだっての」
「私は本当にお二人のフォローだけでいいんでしょうか?」
「やっぱりね。これは私とケイちゃんの真剣勝負だから、向こうはイベントを盛り上げる事も大事なんだろうけど。私達が一泡吹かせないと意味がないから」
勝とうだなんて思っていない。
それでも一矢も二矢も報いてやらないと、選んでくれた二人に申し訳ない。
「私は剣しか扱えない。ゴウに魔法も絡めた攻撃をされたら、瞬殺されると思う」
「私も魔法しか能がないから、レジくん相手に近付けずに攻撃を当てないといけないの」
「あれ?」
そこまで聞いて焦るのはリンカの番。
「ゴウさんの遠距離攻撃を邪魔して、レジデンスさんのスピードを殺せって言ってます?」
「うん」
二人の声が重なる。
「私、観客席に行っていいですか?」
「まってぇ……」
またもシンクロする二人はリンカの足に抱きつく。
「無理です無理ですって」
確かに二人が言うようにリンカの役回りはフォローに違いないが、あの二人相手に一人で走り回ってどうにかできる実力は兼ね備えていない。
「はぁ……、分かりました。ケイトさん、私はマナミさんのフォローに付きますので、こちらをお使いください」
「これって“式神”だったっけ」
「はい、これを使うのは割と簡単なので、でもあまり同時に多くを使うのはおよしください」
場内アナウンスが開場の合図を流す。
遠くに地響きを感じる中、最終チェックを続ける。
ゴウとレジデンスは正規の騎士姿。
エステロイカが祀る戦いの神に誓いを立て、二人の騎士姫を呼び入れる。
お供役のリンカはゴウ達と同じ騎士服を着ていて、ケイトとマナミが祈りを捧げる間、直立で神像を見上げる。
左手に盾を持ち、右手の剣を高らかに掲げる甲冑を纏った像は、煌びやかな装飾がそこかしこに成されている。
その後はケイトとマナミの国民への紹介、二組のカップルの婚約式を済ませ、一度バックに下がる。
戦闘服はいつもの……という訳にもいかず真新しい動きやすい服装に。
「これから暴れようって言うのに純白の衣装とはね」
「ねぇ、リンちゃんみたいに黒の方が気にしなくていいのに、せめて
ケイちゃんみたいにパンツルックなら動きやすいのにな」
「かわいいじゃない。レジの趣味なのかな?」
白で誂えられた衣装はパーティーこそがふさわしい、手にする剣が、魔法の杖が似つかわしくないのは言うまでもない。
「ところでケイちゃん、昨日ゴウちゃんとエッチした?」
「なっ!?」
この決闘は婚約者に選ばれた娘が、どれほどの力を持っているかを国民にお披露目するための物。
王位を持つ物の覚悟も示さなければならないので、契りを結ぶ者同士が闘うのも古くからの慣わし。
「そうまでして紹介されるから、既成事実を作って逃げられないようにしようってことでしょ、そんな事しなくてもこっちは覚悟決めて返事したってぇの」
「それで?」
「うっ、そ、そう言うマナミだってしたんでしょ?」
「レジ君が絶対とは言わなかったからね」
婚約者に選ばれる娘は由緒ある家柄である場合が多く、嫁ぐまでは生娘のままでと言う教えを覆してまでとはならないらしい。
「そ、そんな事ゴウは言わなかったよ」
「ゴウちゃんの事だから、ケイちゃんが考えを変えないようにって思ったんじゃあない?」
「……そうかも。それじゃあマナミはまだなんだ」
「うぅうん、ちゃんとしたよ。子供扱いなんてさせないから」
レジデンスはそんな事しないと思うが、マナミは彼の優しさに甘えるのではなく対等な立場を望んでいる。
「お二人ともそう言った赤裸々なお話はそろそろ控えてください。時間のようですよ」
決闘祭イベントの司会が登場し、場内は大盛上がり、先に招き入れられたのはゴウとレジデンス。
「あ、あいつらズルイ」
二人はいつもの冒険服で登場した。
「お二人はこの国では有名人です。もちろん冒険者登録したゴウさん、レジデンスさんのお名前も浸透していますから」
リンカは待っている間にこの国の情勢を調査していた。
確かに魔物の出現頻度は高いが、資源も豊富で実りも多い。
都市だけでなく小さな集落まで城塞化されており、あの温泉のような施設でも結界で防御力を高めている。
人口も多めで王家に集まる税金も豊富。
「純度の高い黒精石が多く取れるので、生産業も盛んですね」
なんにしても、いつも通りの動きやすい格好が羨ましい。
こちらも着替えを希望しようと考えるが、そんな時間は許されない。
「動き易さも防御力の高さも私達には勿体ない代物だし、やるしかないでしょ。ケイちゃんはまだ動きやすさじゃあ、私の比じゃあないんだからね」
スカートをヒラヒラさせて、満更悪い気はしていないようだ。
場内は歓声で隣にいるチームメイトに声を掛けるのにも一苦労な状態。
舞台は整い、合図はまだかと観客同士が罵声をぶつけ合い始めている。
式次第はいよいよ宣誓と合図のドラを待つばかり。
ゴウの宣誓は歓声に完全に掻き消され、そんなことはお構いなしにドラが鳴らされる。
更に大きくなる怒号とともに両者は距離を詰める。
「おいおい、俺の相手はマナミなのか?」
ケイトは余所見もせずにレジデンスに向かってダッシュをする。
少し走ったかと思うとマナミは足を止めて火の魔法、ボムクランをゴウ目掛けて打ち放つ。
ゴウは火の玉を切り捨てて、相手に応じてマナミに肉薄する。
「って、そんな戦術でくるか!?」
マナミを背負うとリンカはまるで一人で駆け回るように闘技場全面を使って逃げ回る。
リンカの上で魔法を連発するマナミ、その攻撃はゴウのみならず、レジデンスのいる辺りにも飛んでいく。
ケイトはなんの工夫も無しに飛びかかり剣を振るう。
機動力はレジデンスの方が大幅に上回っているが、マナミの無差別とも思える攻撃が、ケイトを後押ししてくれる。
紙一重でかわすレジデンスは、大技を捨て、所々で小さく仕掛けるのだが、ケイトは意にも介さない。
「風の結界魔法か?」
どうやら護符にして認めていた物が発動してケイトを護る。
先手を取った女性チーム、オッズでは男性チームが7:3で優勢と見られているだけに、この奮迅に場内はより一層熱く盛り上がるのだった。




