RANK-3 『 くの一忍法帳_上巻 』
斡旋所で仕事を探すケイトとマナミは、壁に貼られた依頼書の中の一枚に目が止まった。
『同行していただける冒険者の方、求めます。希望、女性二人、ランクは問わず』
「条件は悪くないんじゃない?」
「だけど報酬が5000ロンガンって、べらぼうだね。それになんでポイントの欄、空いてるんだ?」
「べらほう?」
ケイトの言葉に分からないところがあるが、ポイント空欄の依頼書は珍しい物ではない。
依頼によっては冒険を終えてから内容の詳細を纏めて、書類にして提出することで、その獲得ポイントを決めることがある。
現時点では難易度は分からないけれど、しかし報酬の多い冒険に、レベルの低い内容は存在しない。
「受けようよ。私達ちゃんと希望はクリアしてるよ」
マナミはやる気まんまん。いつもはケイトが突っ走って、それで失敗することもあるのに、なぜかこっちの方が引き気味。
「エミーちゃん、この仕事お願ぁい」
「マナ!?」
「ダメなの?」
「ダメじゃあないけど」
この手の依頼で、自分達の手に負える仕事を引き当てる運を持ってないことは自覚している。
「どんな仕事でもチャレンジしないと、次はないよ」
「失敗したら一月は簡単な仕事しか出来なくなるんだよ」
「だから成功させようよ」
いつもは慎重派のマナミが、何故ここまで乗り気なのかも気になるが、ケイトは一つ深い息を吐き出し首を縦に振った。
「依頼主は貴方達と同じ女の子の冒険者よ。宿はこの地図に書いてあるから直接会って話を聞いてね。冒険の成功報告忘れないでね」
案内人エミーリンの説明を受けて、二人は依頼人の部屋を訪ねた。
「ここだね」
地図にある部屋番号をマナミは再度確認した。
ケイトが静かな廊下に乾いたノックの音を響かせる。
「はい、あぁもういらして下さったんですね。すぐ出ます」
中から若い女性の声が聞こえてきた。
他に気配はない依頼主は一人のようだ。
ノックから程なくして扉が開く。
「初めまして、私はクサハの里のリンカといいます」
中から出てきたのは小柄な女の子。
マナミよりは少し高めだけど、ケイトよりも低い身長は、童顔も助けてかなり幼く見える。
黒髪を項の辺りで一本に束ねているが、その先端は腰にまで届いている。
瞳の色も黒く、尋ねると彼女の故郷ではみんな同じ目と髪の色をしているのだそうだ。
「クサハの里?」
「はい、えーっと、ここから東に竜車で2日ほど行った当たりに港町があります。そこで船に乗って1日、ジパニアという島があります。クサハの里に最寄りのエグサという湊町から、半日ほど歩いた所です」
「それは遠くから遥々と、ところでリンカさんはお幾つ? 失礼だけど、報酬額と貴方の年齢がそぐわないように思えるんで」
見た目には14歳かそこいらと言った感じだ。
だけどマナミのように実家がお金持ちと言うこともある。
聞いたことのない国から来た少女の、素性を計ることはできそうもない。
「私ですか? 17歳になります」
「って、私らより上?」
ケイトが15歳、マナミが16歳、どう見ても幼く見える彼女が17歳とは?
「報酬の方はちゃんと用意できています。ご心配のようでしたら確認されますか? 銀行の残高」
「そうですか。……ところで変わった衣装ですね。民族の物ですか?」
「あぁ、はい! そうです。確かにこちらの国のお召し物とは違うようですね」
地味な装いで、デザイン性はまったくなし、機能性はかなり高そうだ。
「本当に変わってますね。見た感じもそうですけど、下の方はかなり涼しそうですね」
「えっ?」
「いや、それって下着ですよね。ズボンなんかは履かないんですか?」
上は少し暑くも見えるのに、下はかなり涼しげで、そのギャップもさることながら、自分達なら恥ずかしくて、そんな格好で外に出ようとは思いもしないだろう。
「きゃー!? あぁ、スミマセン。慌ててたもんで、下を履くの忘れていました。すぐ履いてきますので、少し待っててください」
「な、なんだ、あれってやっぱり下着姿だったんだ。びっくりした」
かなり食い込みも鋭く、お尻丸出しの格好だったので、最初からおかしいと気づいていながら、上の着衣の異体がひょっとしたらを思わせた。
それはケイトだけでなくマナミもそうだったようだ。
「本当にスミマセンでした。あぁ、女性の方を希望していて、本当によかったです」
「あはははは」
本当に何から何まで他の冒険者と違って見える。
と言うか、冒険者に見えない。
「さぁ、お入り下さい。早速ですがお仕事の話がしたいもので」
依頼人に招き入れられ、二人はソファーに腰を下ろした。
「……変わった座り方ですね」
「えっ? あぁ、正座と言います。私の国ではお客様を招いたときは、こうして座するんですよ」
本来は“タタミ”と言う物の上でするらしいのだけれど、この町にそんな物は存在しない。
ソファーの上では窮屈にしか見えないのだが、二人も試みてみると。
「いたたたたっ、ダメだよ。長く座ってられない」
ものの1分もしないのに、ケイトは根を上げてしまう。
マナミの方はまだまだ涼しい顔をしているようなのだが、やはりしっくりはこないらしく、ゆっくりと足を下ろした。
「それで、依頼の内容をそろそろ聞かせて欲しいんだけど」
「あぁ、そうですね。お二人にお願いしたいのは、私と一緒に行ってもらいたい所があるということなんです」
「一緒に行くところ?」
「はい、私は里の掟に於いて、行かねばならない所があるのですが、私にはその場所の見当も付きません。
一応この巻物には地図が描かれておりまして、この大陸の事が記されていましたので、取りあえずここまで来れましたが、後がもうさっぱりで……。
それにこの試練を全うするには、私一人の力ではとても足りそうにありません。幸い同行者を2名同伴する事が許されていますので」
「斡旋所に張り紙を出したのね」
「はい」
そこまで話を聞いて、二人はその巻物という物を見せてもらうことにした。
それは何かの任務書類のようにも見えたが、文字の形態が違うため、ケイトにもマナミにも内容を読むことは出来なかった。
それでもそこに描かれている地図の形には、見覚えがあった。
「これって」
「この町の裏手にある山を一つ越えたところにある森よね」
「この間の冒険で、マナミが新しい魔法を手に入れた所だよね」
「その森の少し奥に、ここに描いてある洞穴があるってことかしら」
地図はよくできており、知っている者が見れば、それがどこだか一発で分かるものだった。
「ここに洞窟があるなんて知らなかったけど、何? ここって何かの遺跡の入口とか? 高位の魔獣が住みついているとか?」
「ある物を一緒に探して欲しいんです」
探索の依頼? 報酬からしてかなりのお宝と思われる。
その守り手が強力な魔物なのか。
「それでここに書かれている内容は?」
「すみません、それはお教えすることは出来ません。一行目に極秘と書いてありますので」
「……仕事の内容を証せない依頼人の仕事は受けられないよ」
斡旋所に登録している冒険者は、モラルに反した仕事を請け負ってはならない。そう言うキマリである。
しかし斡旋所そのものは得体の知れない仕事でも依頼書は預かる。
その仕事の善悪を見抜く力も、冒険者として必要とされているからだ。
(斡旋所と冒険者との見解の不一致は、裁判で審議されることもある)
つまりその判断が出来ない内容の仕事は、極力避けるに越したことはない。
「困ります、困ります」
「なんで? 私達じゃなくても、二人組の冒険者なんて結構いるよ。探せば承知してくれる人もいるかも」
「私はお二人とお仕事がしたいんです!」
「……なんで?」
ケイトの問いかけにリンカは顔を赤らめ、モジモジし始める。
男が見れば可愛いと受け取る人も、少なくない割合でいそうだが、女からすればその仕草は、イライラするものに過ぎないと大半が思うだろう。
「だからなんなの?」
「ですから、あの……お二人に私のお友達になっていただきたいなぁ~と」
これは仕事の話だ。
真面目さの欠片も感じられない返答をされても不愉快でしかない。
「やる気がないんなら……」
「ケイちゃん、いいじゃない、受けてあげようよ」
「マナ? ……はぁ、まぁいいか。それでいつ出るの?」
仕事の善し悪しは冒険中に見極めればよい。
相棒がOKを出したことで、ケイトの頭からも毒気が抜けた。
「明後日、午後に出発とここに書いてあります」
「って、書いてある内容は教えられないんじゃないの?」
わざわざ書いてあると教える必要はどこにもない。
「あぁ、そうです!? もうこれ以上は喋れません!」
彼女の天然っぷりに、冷ややかな汗を流すケイトとマナミであった。




