RANK-29 『急展開だけど本当にいいの?』
王都にたどり着いた一行。
疲れ果てた様子のケイトとゴウ、その表情からして一言も交わしていない事が容易に想像できる。
呆れ顔のレジデンスに、苦笑いのリンカを見て、マナミは深いため息を漏らした。
「どうかされましたか? マナミ」
「えっ? ああ、うぅ~ん、なんでもないない」
無意識にレジデンスの顔を眺めていた事に気づき、慌てて首と両手を横に振る。
今は自分の事よりケイトの事である。
「ケイちゃんご機嫌斜め?」
こっそりとリンカに近づいて耳打ちをする。
「そう、ですね。最初はモジモジとしてて、最後の方は今のようになってました」
想定内の展開ではあるが、馬車を降りてもどかしさは右肩上がり、モジモジからモヤモヤで最後はイライラに転換していったのだろう。
「だぁー!?」
「ケイちゃん?」
「ゴーヴァント様?」
二人が雄叫び、同時に正面を向き合う。
「昨日のあれ! 一体何だったの?」
「とうとう切れちゃった」
ここまで想い募らせ、結果の出せなかった相手にド直球をぶつける。
「だ、だから……昨日言った通りだろぅ」
「そんなんで!」
これを目を逸らしたり小声になったりせず、大声で怒鳴り返していたら、ケイトも威勢よくやりとりを続けられたのかもしれない。
マナミは恐る恐る顔を向けて彼女の様子を窺う。
「あれ?」
彼女の意外な表情に胸がざわついた。
口をパクパクとさせて、後の言葉が出てこないケイトの顔は泡を吹く寸前、ベールの目にも同じように映っているようだ。
「あと一押しといったところでしょうか?」
一同の視線が一挙にゴウへ注がれる。
「な、な、な、……お、俺はだな」
大きく息を吐いて肩をすくめ、俯き加減で顔を赤らめるケイトと、興味津々で前のめりな面子を前にゴウは。
「お、俺と決闘しろ、ケイト!」
右指を突き出して盛大に挑戦状を送った。
普通ではない盛り上がり、王都にある闘技場エリアはもうお祭り騒ぎ。
大声で宣戦布告をしたのが午前中、出店が立ち並んだのはほんの数時間前。
王宮への呼び出しまで半時あるので、街中を見て回るが、既に賭場まで設けられている。
「ポアラ……」
「あらマナミ、ふふん♪ 任せてね。最高に盛り上げてみせるから」
わざわざ宝珠を使ってエミーリンに連絡を入れ、向こうでの二人の冒険者ランクなんかの情報を取り寄せ、それを元にオッズを作成、彼女の顔を見ればウハウハで笑いが納まらないようだ。
まだ決闘が成立したわけではないのに、既にこのはしゃぎようだ。
王宮からの使いが到着し、ゴウとレジデンス、ケイトとベールが連れて行かれ、マナミとリンカは取り残される。
仕方なく散策を続けた。
「えっ? レジデンスさんの事ですか?」
結局は馬車の中、ベールからは聞けなかった彼の事を、ズルイとは分かっていながら、リンカに聞いてみた。
「ああ、はい。レジデンスさんと言うか、ジェラームさんの事ですよね」
諜報が専門のリンカ、レジデンスの事もとっくの昔に調べは済んでいる。
「えーっと、スミマセン……」
ベールが話すのを渋ったものを、リンカから聞き出せるなんて、そんな簡単な物ではないようだ。
レジデンスとは一体何者なのか、ゴウと兄弟関係にあると言うだけでスキャンダラスなのに、それ以上の何が開示を拒ませるのか?
「ベルちゃんにも、身内になる覚悟みたいのを確認された。そんなに重要な何かあるって事? それくらいは聞いてもいいよね」
リンカは複雑な表情で微笑みとも見える雰囲気を出している。
「ふ~ん、それじゃあ別の質問するね」
ベールも言っていた、その覚悟があるなら、マナミになら彼の全てを告げてもいいと。
「スミマセン、その判断はシルベールさんの様にはいきませんがそうですね、身内の方でないと背負えない。そう言われるのは理解できます」
まさかここまで仲良くなれると思っていなかったので、出会って直ぐに調べ上げた内容を心の内にしまい込んだリンカは、後悔の念が拭い切れていない。
「マナミさんはどうして、レジデンスさんのことを気に掛けてらっしゃるのですか?」
改めて聞かれるとどうしてなのか、マナミ自身が教えて欲しい。
「ただの興味本位なんかじゃあないのは確かね。レジ君のことが気になってる」
ケイトの事があるから気持ちは抑えているけど、この感情が何を意味しているかは、じっくりと考えてみないと分からない。
まだ二人の言う覚悟があるのかどうか、それを自覚するのには時間が掛かりそうだ。
「リンちゃん、ボーっとしててもしょうがないから観光を楽しもう。夕方にはケイちゃんも戻ってくるでしょうし」
ところがこの日、二人が用意してもらった宿にケイトが戻ってくる事はなかった。
対戦の日時が決まり、7日後に開催されると公表された。
「ほんっとうにスマン」
人通りの多い馬車の停留所のある広場、そんな所で大声で宣言したので、それを訂正して回る事もできず、二人の決闘は正式な物、つまりは正妻を決める儀式とされてしまった。
「だからもういいって、本当に奥さんになるかは色々やってからなんでしょ? それに私もちゃんと考えるって約束したし」
「えっ?」
マナミとリンカの待つ宿に戻ってきたケイトの後ろにはゴウとレジデンス。
ベールの姿はないが、代わりに近衛騎士が二人、宿の入り口で待機している。
「ケイちゃん、約束って?」
最近よく見る赤みを帯びた顔をしてはいるが、パニックを起こしている様子はない。
「改めてちゃんと告白をし、きちんとプロポーズをしたのさ」
ずっと悶々ともがいていた男の姿はどこへやら、こちらも赤い顔をしてはいるが、胸を張って昨日何があったかを教えてくれる。
王と王妃、他の王子や姫の前でケイトを紹介し、今回の決闘は儀式の申し込みではない事を断った上で、まだ婚約にも至っていない事を明かすと、家族全員から叱られてしまった。
親兄弟の手前、王位継承権第一位の長男は、腹を括って思いの丈を意中の相手に伝えた。
「目の前でね、ハッキリと告白されて、こう体が温かくなったと言うか、その嬉しかったんだと思う。だから私も首を縦に振っちゃって」
「ああ、そうなんだ……」
想定範囲内の流れに、マナミも思っていたほど精神的ダメージもなく、祝福をしてあげる事もできそうだ。
「それでなにを謝っているの?」
「七日後の決闘までに三日間、ケイトは魔谷渓で過ごしてもらわないといけなくなった」
剣士としての実力を測るために、代々受け継がれる試練を受けるよう申しつけられたとか。
「同行が許されるのは二人まで」
「だったら……」
「いや、その内の一人はレジデンスに決められてしまったんだ」
議場に同席していたレジデンス、王の鶴の一声で是非もない勅命を受けた。
「俺が一緒に行ければ安心なんだが、こればっかりはどうしようもない。そこでマナミ」
「もちろんよ。もし外されるようなら、それこそ王様に直談判しに行くわ」
話の流れは理解できたが、そもそもの疑問、なぜこうなる事を解っているはずのゴウは、あんな街中で決闘の申し込みをしたのか?
「うっ、本当にスマン」
最終的に同じ事はしていただろうが、状況も考えずに錯乱したことを素直に謝る。
その後の段取りは面倒になったが、お陰でケイトにはストレートに伝わり、ゴウはいつもの調子を取り戻せた。
「出発は?」
「準備期間を踏まえて明朝にするつもりだ。こういうのは早いほうがいいって、レジもOKしてくれたし」
確かに冒険修行のためにここまで来たのだから、最低限の準備は既に整っていると言える。
即出発でも問題ないのは確か。
しかし思えば、ここまで来たのはゴウの背中を押すためではあったが、まさかこんなに早く目的を果たすとは思っていなかった。
「……うん、平気だ。ちゃんとおめでとうも言える」
「マナミ?」
後ろを向いて気持ちを確認するマナミを、ケイトが気に掛ける。
「あ、うぅ~うん。なんでもないよ」
今日はこの後は自由行動。
マナミはベールの元を訊ねることにした。




