RANK-26 『複雑な(?)人間関係』
依頼主から直接指名をされる様になるというのは、冒険者にとっては名誉な事なのだが、今回の依頼はそれこそケイト達でなければ意味はないが、求められているのは彼女達のスキルというわけではない。
今回の冒険内容は難易度低めの素材集め。
しかし依頼主が同伴となると、これだけで難易度は一気に上がり、低ランク冒険者は弾かれてしまう。
チンクアになったとは言え、まだまだその先が遠いケイト達が受理できた理由には、依頼主が強い護衛を付けている事、依頼主本人も高位の魔道士であること、なによりアドスへの寄付がそれなりに魅力的であった事があげられる。
「シルベール様、そのお召し物で同行なさるのですか?」
「ミリーナ様、畏まるのはやめましょう。ワタクシの事はベールで結構ですよ」
「では私もマナミと呼んでくださいベール」
「分かりましたわマナミさん。そしてワタクシは戦場でもない限りは、可能な限りいつも通りに過ごさせてもらいます」
山中をドレス姿で歩く様はかなりそぐわないが、思いもよらずお姫様は足腰が強く、何の問題もないことが直ぐに証明される。
「お探しの薬草はどういった場所に棲息しているんですか?」
「ケイトさんも、もっとざっくばらんとお話ください。敬語も不要です」
「いや、それはお互い様なのでは……」
マナミに対しては今更なので態度を変えたりはしないが、王族二人と冒険に出掛けるというのは、緊張の板挟みと言うか何というか。
それでもリンカは変わった様子も見せないが……。
「来ましたモンスターです」
わいわいとお喋りをしながら歩く一行は、いつの間にか危険エリアに入り込んでおり、前衛のケイトとリンカが飛び出していき、多くの魔物相手に剣を振るう。
後方支援はマナミと、魔道士でもあるベール。
護衛の二人はお姫様をガードするのが任務のため、冒険の戦闘には極力参加しない。
レベルの高いモンスターは出てきていないが、群体をなすグランアントの数が半端ではない。
「すごいですわね、ケイトさん」
「すごいでしょ、ケイちゃん」
目で追うのも一苦労なリンカの働きもあって、夥しい数の魔物の屍が増えていく。
「カッコいいですわね」
「カッコいいでしょ♪」
二人のお姫様に熱いまなざしを送られ、ケイトはそんな事とは露知らず、汗を垂らしながら剣を振るう。
わらわらと出てきて囲ってくる人間よりも大きな蟻の群れ、魔法で一網打尽にもできるはずが、後衛の援護射撃は全く飛んでくる気配もない。
「ゴウの知り合いで、お姫様で、いきなり町に来て、なんで私達を名指しで指名したんだろ?
会った時からずっとこっちのこと見てるし、なんかマナミとは随分仲良くなったみたいだけど、お姫様同士だからかな?
こんなことリンカに聞けないし、どうしよう」
半ばパニック状態のまま戦い続けるケイト、とにかくサッサと目的の植物を見つけて依頼をクリアするしか、この重い空気から抜け出す事はできない。
それは必死の斬撃だった。
「ゴーヴァント様がケイトさんをお気に入りになさるのも納得です。彼女は魅力的な方ですね」
「ベルちゃんも分かってきたわね。ケイちゃんって性別を超越してるのよ」
マナミの興奮顔に少し腰が引けるが、ベールもケイトに理想の王子様像を重ねてしまう。
「ですがケイトさんは、ゴーヴァント様の事を、ご友人以上には感じていらっしゃらないのですのよね」
「まあね。ゴウちゃんはヘタレだけど、あれで気付かないケイちゃんにも問題あると思うし、と言うか何となく判ってると私は睨んでるんだけどね」
普段のゴウの様子と町の中の噂話、先日の洞窟での出来事があって、何も感じないとしたら女の子として、徹底的な指導が必要となってくる。
「それはそれで面白いけどね」
「なにか言いまして?」
「う~うん、何でもない。それでどうですか? 今回の目的、素材の採取なんて二の次というか、どうでもいいんでしょ?」
「お見通しなんですのね。だってワタクシは、小さい頃からずっとゴーヴァント様一筋でしたから」
ゴウが国元を離れるまで、自らを磨き続けてアピールを続けてきた自分が、なぜ選ばれなかったのか?
自分は見限られたのではない、ただゴウの理想に届かなかっただけ、その思いから追いかけてきた。
しかしその答えはここにあった。
「ふぅ、ワタクシはどうひっくり返っても、ケイトさんのようにはなれませんわ」
「あら、もしかしてもう終わりなのかしら?」
「終わり? ああ、そう言うのではありませんのよ」
前衛の二人はまだ奮闘している。
時折こちらに向かってくる魔物は護衛の二人が片付ける。
この後すぐに依頼は達成されるのだが、それまでマナミ達はお喋りに専念するのであった。
「それはそれは、なにやら大変な事になりましたね」
「私としてはベルちゃんを応援したいけど、ケイちゃんの想いが一番大事だから、ゴウちゃんにはもっと強い覚悟を決めてもらいたいのよね」
結果がどうあれ、ケイトが納得するのが絶対条件のマナミは、なにやら相談すべくレジデンスの元を訪れた。
二人が一緒にいるシーンも、ある意味最近の噂の種になっていることを二人は知っているが、そんなのはどうと言う事もない。
「あんな風に物事に尻込みするあの方を見た事がありません。シルベール様の押しの強いアプローチにも、動じる事もなかったのですから」
後に国政に関わる経験としてお忍び修行に出たゴウは、20歳になる頃には帰国する予定であったが、二週間前から延長期間に入っており、その事がベールをこの場に呼び寄せたのだ。
「それじゃあゴウちゃんは本当ならもう、冒険者をやめていたって事ね」
「そうではありませんよ。我が国の王族の御方々は王位を継承しても冒険者をなさっておいでです。なにせ領内には魔谷渓がありますから、魔物討伐も大事なお役目ですので」
魔界に通じているとも呼ばれる大きな洞穴がある渓谷には、随時魔物が跋扈宇しており、人里に下りてくる事があれば、騎士や兵士を総出にして対処しなくてはならなくなる。
「そう言った事態を未然に防ぐために、冒険者の数も大陸一の我国は、王自らも冒険者の目線で国防に務めているのです」
ゴウとレジデンスは偽名を使ってアドスに登録しているがその期間は短く、ランクは最高位まで上り詰めていないが、実力はとっくに学ぶことのないほどのハイランク冒険者になっている。
「それじゃあゴウちゃんは、ケイちゃんを……」
「ええ、女性としての魅力はもちろんの事、冒険者としても惚れ込んで、伴侶にと望んだのでしょう」
ベールの献身に不満があったわけではないが、求めた理想がケイトだったゴウは、下手に想いを告げて失敗する事を恐れて尻込みしている。レジデンスはそう踏んでいるのだ。
「やっぱりゴウちゃんはゴウちゃんね」
「今だから言いますと、貴女もゴーヴァント様のお嫁さん候補だったのですよ」
「それは光栄だけど、そう言う意味ならベールも十分期待に添えるはず」
「はい、あの方が望んだのは背中を預けられる奥方。と言っても女王様を前線に引っ張り出すような事態は、万に一つもあってはならない事ですけどね」
だからゴウがケイトを欲するのは、自明の理なのだと熱弁するが、レジデンスは根本的に間違っている。
マナミは理解していた。
ゴウは本気でケイトを女性として惚れているからこそ、腰が重いのであって、冒険者として役立たずであったとしても、他には考えられないくらいに想っている事を。
「マナミ、ゴウに教えてあげてはダメなのですか?」
「それはダ~メ、ベルちゃんのためにも、なによりケイちゃんのために、ゴウちゃんは自分で乗り越えないとダメなの」
その為にどんな場面を用意してあげればいいのか、ここからはスピードが大事、遠回りをしている余裕はない。
「マナミはもういいのですか? ケイトをゴウに託す事となっても」
「前に言った通りよ。今のゴウちゃんは不合格。私はケイちゃんが選んだ相手を信じるだけ、そこに今は自分も含んでいる、それだけよ」
けっこう大胆な発言だが、何もかもがごもっともなマナミの思うままに。
となると次はどう動くのか?
「ねぇ、私達三人を貴方達の国に招いてくれない?」
「どういう事ですか?」
「その魔谷渓と言う場所を見てみたいのよ。そこに現れる魔物の群れとかね」
何かを思いついた様子のマナミは、レジデンスの不安を他所に、一人で盛り上がるのであった。




