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RANK-24 『こんなのも普段着なんですか?』



「ねぇ、本当にこのまま帰るの?」


「当然」


「もちろんです」


 マナミは予想通り、ヴィフィーダもこの数時間でケイトの事を、マナミに匹敵するぐらいに気に入って、ついさっきマブダチ宣言をされた。


「マブダチってなに?」


「心の底から気を許せるお友達の事ですわ」


 と説明していた。


 そんな二人に押し切られて、試着した一式をそのままに、なぜか高飛車お嬢様が支払いを済ませ、外に出るのかと思えば、店内の一角を借りてヴィフィーダはしっかりメイクまで施す。


「さぁ、行きますわよ」


 服にメイクの後は、バッグや小物と無駄な買い物を山ほどして、次に考えるのは節約の事や仕事の事。


 まだマナミの毒舌精神攻撃から、未だ復帰できないリンカの手を、マナミは引き摺るように引っ張って、宿に戻るのに裏通りを近道に選んだ、噴水近くの事。


「あれって、ゴウちゃんなんじゃない?」


 裏通りから見える広場の噴水脇に、確かにゴウがいつも通りの恰好で、町で見ない顔の少女と立ち話をしている。


「ゴウちゃ……」


「まっ、待った!?」


 宿に着くまで知り合いに会いたくないケイトは、今最も避けたい相手を呼ぼうとする相方の口を手で塞いだ。


「うぅ~、うう~!!!!」


 もがくマナミの呻り声に。


「うん? おお! マナミ」


 騒がしくする一角に目を向けるゴウがこちらに気付く。


「リンカも一緒か、そっちの二人は初めて見る顔だな」


 手を挙げて近付いてくるゴウを見て、ケイトはマナミを解放して立ち去ろうとするも、今度は相棒の手で拘束を受ける。


「ちょっ、マナミ?」


「って、ケイトか? へぇ、今日は化粧までして、新しいドレスか? たまには俺が買ったドレスも着てくれよ」


「あれはフォーマルウエアでしょ、ゴウちゃん」


「えっ、じゃあその黒いのは普段使いなのか?」


 ケイトは一般的な少女が好みそうなフリルや装飾柄のワンピース姿。


「今、西方の国で評判になっているゴスロリ衣装ですわ。ワタクシの見立通り、ケイトさんを凛々しくも可愛らしくドレスアップして差し上げておりますわ」


「何言ってんの、お店にあった一点物を、飾り付け人形からケイちゃんに置き換えただけじゃない。まぁ、これがこんなにケイちゃんに似合うって見抜いたのは、ちょっと見直したけど」


 主役を余所に、盛り上がる一同。


「どう、ゴウちゃん。この愛くるしいケイちゃんを前に、感想の一つもないの?」


 もう限界だった。


 ケイトはマナミの拘束を振り解き、脱兎の如く逃げ出した。






 怒りの全てを剣に乗せ、向かってくるファングボアの、自由自在に形を変える巨大な牙を持つイノシシの攻撃を華麗にかわしつつ、力の限り斬りつけた。


 この調子で既に四頭の魔物を討ったケイトは、次の獲物に飛びかかっていった。


 ゴウの視線から逃げ出し、宿に一目散に駆け込んで、自室で普段着に着替えたケイトは酒場に行って、誰に相談することなくこの依頼を受けた。


 無責任に囃し立てたマナミは罪滅ぼしに無言で同行し、それはリンカも一緒だった。


 リンカはがショックから立ち直らないうちに、ケイトのメイクも終わっており、気が付くと噴水近くまで来ていたのだが、それでもマナミの悪ふざけを止めさせるチャンスはあったのに、一緒に楽しんでいた自分を諫める思いがあった。


「けど、この依頼ってクアッテの物よね。よく私達のランクの一つ上のクエストを受けられたもんね」


 鬼気迫る勢いでカウンターに依頼書を叩きつけた勢いに圧されて、エミーリンもちゃんと確認することなく、印鑑を押してしまったようだ。


 この冒険の後にマナミが酒場で聞いたのは、実力的にはなんの問題もないはずだしと、酒場まで同行してくれたゴウが合同クエストにしてくれたお陰で、エミーリンがホッと胸を撫で下ろすことができた。なんて裏話。


 ドンドン森の奥へ奥へと進んでいくケイト。


「待って、ケイちゃん!? 勝手な行動取らないで!」


「マナミさん、私が追います」


「う~うん、バラバラにはなりたくない。私が全速力出すから」


 とは言えマナミではリンカは愚か、ケイトにも追いつけやしない。


 不意に思い出して、以前使った召喚獣は出せないのかと聞いてみたが。


「スミマセン。式神のことですよね。護符を持ってきてないんです。こんな事態を想定してませんでした」


 自分ではまだ、護符を上手く作れないリンカは頭を下げた。


「なので背中に乗ってください」


 なるほどその手が……、でも忍者とは人一人を担いで、そんなに早く走れるものなのか?


 悩んでいる暇はない。


「お願い」


 その決断が間違いであった事を、彼女の背中に乗った直後に実感する。


 リンカは確かに早かった。


 それはマナミが想像できる範疇を遙かに超えていた。


 森の中は足下も悪く、木々も茂り、マナミは可能な限り体を丸めて頭を下げるが、跳ね上がる小石、伸びる小枝で、小さな傷が増えていく。


「いました。もうこんな所まで、流石はケイトさんですね」


「リ、リンちゃんもういい、もういいから降ろして!」


 ホンの数十秒振りの地面は揺れていて、マナミはまともに立っている事すらできない。「お願い、ケイトを止めて」


 リンカは猛ダッシュで、あっという間にケイトを追い抜き、前に立ちはだかる。


「えっ、リンカ!?」


 魔物が出てきたのだとばかり、思いっきり剣を振り下ろす手を止めるには遅すぎた。


「あっぶなぁ、……ごめんリンカ」


「平気ですよ。私は」


 ケイトのゲイルフェンサーを短刀一本で受け止めたリンカは、微笑んで謝罪を受け入れるが、愛用の刀が刃の目元からバキッと折れた瞬間、彼女の心も折れた。


「ケ、ケイちゃん……、ま、待って……」


 ようやく歩けるまでに回復したマナミが追いつくと、そこには放心状態のリンカと、手を合わせて謝罪を繰り返すケイトの姿が。


「どうしたの?」


「いや、私がリンカの剣を壊しちゃって」


「まったく、ケイちゃんはそこで猛省してなさい」


 心折れたリンカは膝を付き項垂れている。


「大丈夫?」


「いえ、自分の未熟さが情けなくて……、すごいですねケイトさん」


「違うよ。ケイちゃんももちろんすごいけど……」


 マナミがケイトと出会ってしばらくの事。


 王国騎士団が町に訪れ、一人の騎馬隊員が酒場で暴れた時、その場に居合わせた冒険者も協力して動きを止めようとするが、騎士団長クラスの剣の使い手に、怪我人も続出。


「泥酔していたとしても手加減のできない騎士を倒した事で、この町でケイちゃんに妙なちょっかいを出してくる男がいなくなった事件だったわ」


 たまたまエミーリンに会いに来た二人は騒動に巻き込まれ、暴れる騎士をお店の箒で昏倒させたのがケイトなのだ。


「リンちゃんだからあれを止められたんだと思うよ」


 折られた短刀は、妹スズカに下忍就任の祝いにもらった物。


 ダメージは大きいが自分の未熟さ故にと、気持ちを切り替えて立ち上がる。


「うん、町に帰ったら修理しようね。さてケイちゃん、分かってるの?」


 ケイトが荒れる気持ちも解る。


 けれどそれとこれとは別として考えてもらわないといけない。


「怪我、じゃあ済まなくなるよ」


「……ごめん」


「分かってくれたんならそれでいいよ。第一悪いのはやっぱりゴウちゃんだと思うし」


 みんなで散々にケイトを弄った後、残されたメンバーはゴウの後ろにいた女性に対して、自己紹介を行った。


「何が許嫁よ。図々しい女、相手の事も考えないで」


「どうかした? マナミ」


「えっ、ああ、えっと……、う~うん、なんでもない」


 いずれはケイトの耳に届くだろう事だけど、いまはゴスロリの恥を忘れたい彼女に付き合って、暴れるだけ暴れられるサポートに専念するマナミだった。

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