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RANK-22 『誰が為の冒険か?』



「だから一緒に冒険をするのはたまにって、解ってくれたんじゃあなかったの?」


「いや、この依頼、本当においしいんだ。俺達だけだと条件を満たしてないからさ」


 ゴウは困り顔で両手を合わせて愛嬌を振りまく。


「……もう、しょうがないなぁ。マナミ達に相談してみる」


 毒気を抜かれて、不承不承に承諾する。それがここのところの男の手だった。


「よっしゃ!」


 ゴウ達が拠点にしているのはケイト達の部屋の隣、同じ宿屋を使っているので、冒険に出かけていなければ、毎日顔を合わせる。


 この間のキリングラビット討伐クエストの時に話し合い、今まで通り自分達だけで冒険を続けたいというケイトの思いを了解してくれたはずのゴウだったが、顔を合わせる度に、今のように合同クエストを提案してきていた。


 以前は反発していたケイトだったが、押しの強いゴウの気持ちを、ある部分では理解できたから無下には断れない。


 この遣り取りを聞かされたマナミは溜め息を一つ溢した。


「ダメ?」


「ダメじゃあないよ。ちょっと面白くないだけ」


「面白くない?」


「う~うん、なんでもない」


 告白をする勇気もないのに、積極的にアプローチをしてくる。


 まるで女の子の手口のような行動を続けるゴウに、ケイトが抱えていたのとは別の意味で、イライラが募る。


「それで今度のはどんな依頼なの?」


「なんでもクライアントの意向で、5人以上のパーティーでないと受けられないんだって」


 冒険者に依頼を申し込むクライアントが、条件を付けてくる事自体は珍しくない。


 予算を抑えるために少人数を望むとか、それこそ依頼料をケチろうと、本来よりランクを下げた内容に書き換える依頼主も少なくないが、ランクの査定はアドスが厳正に行うので、内容を書き換えることは不可能に近い。


 護衛の依頼となると、それなりに纏まった数を雇おうとする商人もいるにはいるが、そう言った場合は冒険者ではなく値段交渉のしやすい傭兵を雇うのが常套だ。


 冒険者を必要とし、そこそこ人数を揃えようとするには何かの事情があるはず。


「でも5人パーティーだったら、そんなには珍しくないでしょ、何が気になるの?」


 ケイトの言う通り、パーティーメンバーが5人というチームは別に珍しくはない。


「知ってる? 5人分の依頼料って結構な額になるから、大人数の依頼ってそんなに数がないの。だからエミーちゃんのところでも、そんな依頼書が上がったら、あっという間に決まるくらい、壮絶な取り合いになるの」


 そんな貴重な依頼を保留にできるなんて事が、もう既におかしい。


「大所帯のパーティーって、チームを分散して冒険を受ける事がほとんどなんだって、いくらゴウちゃんでも、それを返事もしないで抑えるなんて、なにか企んでるとしか思えないんだけど」


「なんなら探りを入れてみますか?」


 確かに隠密行動を得意とするリンカなら、何か情報を手に入れてくれるかも知れない。


「ああ、そんなのいいよ。私はアイツを仕事の面では全部信用する事にしたから」


 ケイトの言葉になぜか面白くないマナミだが、ここで波風を立てるのは得策ではないと気付く。


「でも今の話だと、あれ? 今まで一緒に行ってた依頼って……」


「今までも同じような手口で用意してくれてたんだろうね。だとしたら無理矢理にでも合同にしたがってたのも、当然だったって事ね」


 ケイトは無言になり唸りながら悩み込むのだった。






 いつも三人娘が贔屓にしている食堂、この町の少女達の間では噂に名高いケイトとゴウというカップル。


 二人がテーブルを挟んで座っている。


 二人いる給仕係の少女達は、ヒソヒソ話をやめられない。


「ゴウ、あんた」


 ケイトは右手でゴウの襟首を掴み、引き寄せると、自分もテーブルの上に身を乗り出して、顔を近付ける。


 それを見ていた女子ぃ~ずは、黄色い悲鳴を上げる。


 角度によれば、二人がキスをしているように見えるその体勢。


「あんた私に何かさせるつもりなんじゃあないでしょうね。恩を着せて断れないようにしてから、辱めようって言う気?」


 いきなりのドアップに焦るゴウは体を反らせて距離を置く。


 目線がケイトの胸元にいって、慌てて顔を背ける。


「真面目な話してんだから、こっち向きなさいよ」


 今度は両手で襟を掴み、再び引き寄せる。


「お、落ち着いてくれ」


 ケイトの両手を握って、押し返し、椅子に座り直して水を飲む。


 給仕の少女二人がテーブルにかじりつく距離にいることに驚き、咳払いをすると改めて注文をする。


「落ち着いて話をしよう。別に俺は逃げも隠れもしないから」


 襟を正し、呼吸を整えてケイトの顔を見る。


「あっ!」


 さっきの急接近を思い出し、突然に恥ずかしくなって目線を下げると、服の乱れたケイトの胸元が視界に入り、更に下を向く。


「なに? やっぱりやましい事があるの?」


「ねぇよ。ってか、なんなんだよいきなり、なんでそんな話になってんだ?」


 仲良くはしていても、無理にポイントの稼げる依頼を、自分達の代わりに受けてくれる理由が解らないケイトは、何か裏があると勘ぐっていることを正直に話す。


「俺を見くびるなよ。そんな事を考えるわけないだろ」


 確かにゴウがそんな姑息な事をするヤツだとは、ケイトも思っていない。


「……もしかして私の体が目当てなの?」


 マナミが自分の素性を告白してくれた時に見せた、愁いを帯びた目を真似て茶目っ気を見せるが、かなり恥ずかしいことに気付く。


「な、なぁ~んてね。って、あれ?」


 右手で顔を覆う男は真っ赤な顔をして固まっている。


「え、えーっと、あのゴウさん?」


「はっ! そ、そんな事しないって言ってるだろ!?」


 説得力は皆無、ゴウにそんな反応をさせたのは自分なのだと、更に恥ずかしさが込み上げながら、ケイトは猛省をする。


「と、とにかく俺はお前達のチームが本気マジで気に入ってるんだ。それに実力も認めている。正直な感想として、お前等は俺達のランクで冒険する方がいいと思っている」


 こんなに褒めちぎられるとくすぐったくなるが、今のセリフを真っ直ぐに目を見て言ってくれれば信用もできたのに、ゴウはずっと目線を外したまま。


「ねぇ、本気にしてもいいのよね」


 もちろんだと言いたかったゴウだったが、タイミング悪く注文した料理が運ばれてきて、給仕の少女に訳も分からず「頑張ってください」と応援を受け、疑問符を頭に浮かべたお陰で少しだけ冷静さを取り戻す事ができた。


「当然だ。当てにさせてもらうぜ、今回も」






 5人以上というオーダーだったのだが、敢えてクリフを外して5人でのパーティー。


 クライアントは遺跡調査の学者。


 トレジャーハンターが荒らした後なのだが、どれだけのチームが挑戦しても開ける事のできなかった扉の前まで来る。


「えっ、マナミって槍術も使えるの?」


「うん、魔法と一緒に練習させられてたの。けどセイルのランクなら私は後方援護で問題なかったし、リンちゃんも入ったから、私程度の槍術は必要ないと思って、今までは魔法に専念してたの」


 いつものワンドではなく、マナミ用に誂えられた刃のついたロッドを手に、今回のミッションに挑む。


「すごいすごい、ねぇリンカ」


 槍の演武を披露するマナミに拍手を送るケイトは、興奮気味にリンカと剣術について語りだす。


「ところでレジ君、聞いたよ。私の冒険を邪魔しようと圧力を掛けていた、アドスに送り込まれたお父様の息の掛かった職員を見つけ出して、逆に買収したって」


 マナミはレジデンスに近付き、情報の確認をした。


「はは、誰が調べたかは聞く必要ないですね」


 その職員から優先して大きな依頼を受け負えるよう、便宜を図らせた。


 ただし条件としてはゴウがその依頼を受ける事。


 今回もさほど遠征と言うほど遠くはなく、5人の刀剣使いがいれば、意外と簡単に攻略できるクエストらしい。


 学者がここの謎を解いて出した依頼書を、いの一番に手に入れてくれたのだ。


「いいではありませんか、こうしてご一緒していればゴーヴァント王子、ではなくゴウの機嫌がいいんです。ワタシの心労を減らすと思って、お付き合いください」


「よく言うわ」


 いつの間にかケイトはゴウ相手に剣の練習を始めている。


「ねぇ、その言葉遣いどうにかならない? 今まで通りじゃダメなの?」


「いやぁ、こちらの素性もばれましたし、もう粗野な冒険者の振りも必要ないかと」


「ようやく演技をしなくてよくなったって言いたいの? それこそ笑えない冗談ね」


 軽くため息をこぼし、マナミはロッドを構え直す。


「みんな、準備はいい?」


 扉は開き、ゴウを戦闘にパーティーは中へと入っていった。

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