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RANK-18 『 ラストダンスは君と…… 』



 できる事なら汚す事も、ましてや破る事もしたくない淡いピンクのドレス。


 しかし剣を構えるケイトに賊は容赦なく襲いかかる。


 敵の動きを見ていると、どうやら招待客にまでは手を出す気はないようだが、婚約者の彼女は放っておいてはくれないようで、ケイトはここを引くわけにはいかなかった。


「お前も冒険者か!?」


 このホール内にもそれなりに護衛の姿があったが、こうもあっさり外の警護が抜かれるとは思っていなかったので、冒険者の数もそう多くはない。


 乱戦は極めて不利だった。


 上級ランク者のゴウや、忍者の力を遺憾なく発揮しているリンカが奮闘しているが、どちらかと言えば圧され気味のこの状況、側にいた仲間の二人は足下に倒れている。


「躊躇っていられないか……」


 覚悟を決めるケイトはスカートの裾を自らの剣で切り刻んだ。


 動きやすい長さで切り落とされるドレスの中から美脚を覗かせ、襲い来る賊と渡り合う。


「こんな体験、一生に一度だけだったかもしれないのに」


 前の黄色いドレスも、このピンクのドレスも、可愛い衣装に心躍らせていたのを踏みにじられ、ケイトは怒りの矛先を向かい来る敵に全てぶつける。






 敵も賊とはいえ、訓練を受けた兵士、この町に駐留している冒険者は数は多くとも、そのほとんどが中級以下、その戦力差は一目瞭然。


 マナミの張っていた防壁が消えてから、ここまでの時間の短さを見ても明白。


 今、応戦しているのはゴウとリンカ、そしてケイトの三人だけ。


 二人は流石と呼べる腕前で、公爵の私兵如きに後れを取る事はない。


 ケイトも忍者に比べれば、その辺のゴロツキ程度にしか感じられない賊に、互角以上の戦いをしてみせる。


 なにより敵の魔法攻撃を跳ね返す能力は、兵士達の勢いを奪うのに大いに役立った。


 宴席場には敵の精鋭が雪崩れ込んできたというのに、三人の冒険者の前に、手も足も出ずに殲滅されてしまう。


「な、なんかスゲー気合い入ってんな、ケイト」

「……」


「どうした?」

「ゴウぉ~」


 突然泣きじゃくるケイト、ゴウの胸元に顔を埋め、スーツで鼻水を拭く。


「お、おま!?」


 子供のように泣き喚く女の扱いなんて、一度の経験もないゴウは胸を貸すのが関の山。


「ケイちゃん!」


 そこへマナミとレジデンスが現れ、今度はマナミに抱きつくケイト。


「おう、よしよし。何があったかは分からないけど、ドレスをダメにした事が悲しいみたいね」


 「うんうん」と首を縦に振るケイトはシャクリあげるほどに号泣する。


「ごめんね、ゴウ……、一度ならず二度までもぉ!」


 マナミに背中をポンポンとされて、少し落ち着いたケイトは頭を上げてゴウに謝罪する。


「気にしなくていいって、なによりお陰で依頼は達成できたわけだし」


「はい、先ほど公爵の身柄も確保したと報告を受けました。屋敷内の賊もどうにか全て捕獲できたようです」


 主催者側も今のはサプライズイベントだとして処理をし、来賓からは惜しみない拍手が送られた。


「ダンスパーティーも予定通りに執り行われるのですが……」

「うぅうっ……」


 流石にこの衣装で踊るわけにはいかない。


「ちょっといいか、ケイトとマナミ」


「えっ、まさか別のドレスが?」


「いや、流石に……」


 二着も用意してもらっておいて、まさかの追加要求。


 そうしてやりたいのは山々なのだが。


「ここでそのドレスが、使い物にならなくなる可能性は想定してたんだが、だから黄色いドレスを予備のつもりで用意してたんだ。そいつの修復が間に合わなかったのは、痛恨の痛手だったな」


 ピンクのドレスもちゃんと元通りにしてくれると約束してくれるが、ここでケイトに合うサイズのドレスが用意できない事には変わりない。


「それじゃあどうするの?」


「おお、それなんだがな……」


 それはケイトを青ざめさせるお願いだった。






 ホールの清掃に少しばかり時間がかかったが、無事にパーティーは再開され、宴もたけなわ、楽団が少し大きめの音色を奏でて、ダンスが開始される。


「……なんでこんな事になったんだろう」


「ふふふっ、カッコウいいわよケイちゃん、それに踊りも完璧」


 音楽に合わせて、念入りに練習した踊りを披露するケイト、パートナーのマナミが感想を述べる。


「なんでこんな黒髪のカツラまであるんだ? もしかしてあいつ最初から?」


 今のケイトは真っ白のスーツ姿で、金髪ロングのウイッグではなく、黒いカツラをする様相はまるでゴウそっくり。


「お化粧は落とさなくてもよかったのにね」


「冗談じゃあない。そんな晒し者みたいな事、死んでもイヤだかんね」


 ゴウのダンスパートナーだったケイトがドレスを使えなくなり、身長差を考えると代わりが見付からない為、踊る事は断念した。


 だがクライアントの要求を果たさないわけにはいかない。


 そこでゴウは自分の代役を、ケイトに頼んだのだ。


 ケイトとならマナミと調度バランスが取れるからと、わざわざ体格の似通ったレジデンスのスーツを借りてまで。


「だったらレジデンスに代役頼めばよかったんだよ」


「彼は今回の件の事後処理で忙しいんだもん」


 とか言いつつもなぜかここで今、ゴウとなにやら話をしているが、手には多くの書類を抱えている。


「リンちゃんにも感心したけど、ケイちゃんまで見様見真似で、リード役ができるようになってるなんて、ホントびっくり!?」


 リンカは色んな男性からの誘いを端から順番に断り続けて、こちらに向く暇もない様子だが、ケイトはリンカの足裁きを思い出しながら踊っているだけ。


 男装のケイトの滑らかな踊りを眺めるご婦人方は、老若問わずに色めいて、ひそひそ話が途絶えることなく、それを盗み聞きするマナミが苦笑する。


「ふふふっ、まさかケイちゃんが実は女の子って知ったら、あの人達どんな顔するのかな?」


「止めてよ。しっかりばれないように胸をきつく縛り付けてるんだよ。ゴウの代役はちゃんと果たしてやるよ。こうなったらヤケッぱちだよ」


 何十という組の中で一際目立つケイトとマナミ。


 その姿を楽しそうに眺めるゴウに、領主の子息が歩み寄る。


「中央で踊っておいでかと思えば、あれは誰なんですか?」


「おお、婚約おめでとうハンス」


「先ほども聞きましたよ。で、あれは?」


「ゴウの冒険仲間ですよ」


「これはこれはジェラーム殿、ではなくレジデンスくん。そうですか、彼女がいつも話している?」


 婚約者は賊の襲撃に驚きと緊張のあまり寝込んでしまい、踊る相手のいなくなった今夜の主役、ハンスと共にグラスを交わす。


「そう言えばそろそろ国元にお戻りになる頃なのでは?」


「それなんですけど、どうもゴウはまだここを離れる気はないようなのです」


「へぇ、やはり理由はあの?」


「はい、その通りです」


「こら、勝手に俺の事で盛り上がるな」


 図星をつかれ、誤魔化しようもない表情のゴウは、改めて踊る二人に目をやる。


「王女には悪いが、俺は彼女が気に入った。父上には後暫くは好きにさせてもらうと書状を送るつもりだ」


 ラストダンスの曲が流れ出す。


 今度こそはあのピンクのドレス姿のケイトと!


 ゴウはグラスのワインを一気に飲み干し、胸の内で望みを叶える事を誓った。






「ケイちゃんそっちに行った?」

「そっちってどっち?」

「ケイトさん、こっちです」


 町中に響く三人の少女の声、リンカが民家の屋根を飛び回り、目標を見失わないように指示をくれる。


「いた!」


 これで通算五回。


 依頼を達成し、三人は合流。


 迷い猫ユーユーは既に馴染みとなったマナミの腕の中で、ゴロゴロとノドを鳴らしている。


 日々小さな仕事をこなし続ける三人は、地道にポイントを稼いでいくが、ランクアップにはまだまだ。


 しかし明日はゴウ達に付いて、魔獣退治の遠征が待っている。


 二人がランクアップを果たす日は、そうは遠くないはずだ。
















 はぁ~い、冒険者の集まる酒場で斡旋業を営むエミーリンです。


 『実力と冒険者ランクが伴わない二人の奮闘記!』はこれにて完結。

 って、私の出番少なすぎでしょ。


 特に最後の方なんて名前も出なくなってたし!


 とは言え、あちらこちらで絡んできそうで、ほとんど出てこなかったお嬢様の事を思えば、まだいい方だよね。


綴り手さんもなんだか続き? みたいな事も考えているみたいだし、またの機会があればお会いできれば幸いです。


 それじゃあ、またね☆

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