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RANK-10 『 マジックファイト 』



 マナミとクリフとの魔法対決、会場は座席以上のお客さんで埋め尽くされている。


 珍しい話題に飢えている町の住人には、こういったイベントは滅多にない退屈しのぎとなる。


 エミーリンがケイトから話を聞いて、町の闘技場を貸し切り、大々的に企画された対戦イベントは、二人の主役を待つばかりとなっている。


「ケイト、これってどういう事なの?」


 対決方法は魔法にも魔道にも公正な形、尚かつ、クリフが納得いくように、ケイト、リンカ、そしてレジデンスとゴウで考えて欲しいと頼んだのはマナミだ。


 しかし彼女は、まさかこんなに大変な事になっているとは、思ってもいなかった。


 と言うか、ケイトがエミーに話を持っていくとは思っていなかったのだ。


「前売り完売、当日完売、大盛況だよ」


 そんな事はどうでもいい。


 何故ここまで事を大袈裟にしてくれたのかを聞いている。


「とにかく、決まっちゃったもんはしょうがないじゃない。今さらやりませんなんて言えないんだし」


 それはそうなのだろうけど、もとはと言えば、クリフがあの二人から逃げ出したのが原因で、その彼を説得できなかったのはレジデンスとゴウの責任だ。


 いくら最近仲良くしているからと言っても、何故マナミがここまでしてやらないといけないのか?


「なんか段々腹が立ってきた」


 やってやるわよ、えぇ、いいわよ。と突然いきり立ってマナミは会場の方へ向き直った。


 勝負は三本勝負だと言っていた。


 こんな戯れ言はさっさと終わらせるに限る。


 マナミから異様なオーラが立ち込める。






『それではこれより、マナミとクリストフ=ロングラントとの魔法対決三本勝負を行います。両者、入場!』


 風の精霊に力を借りて、エミーリンのアナウンスが場内に流れ、イベントがスタートした。


 東西に設けられたゲートが同時に開く、西側からは、ゴウとレジデンスをセコンドに従えたクリフが入場する。


 反対側の東ゲートから姿を現すケイトとリンカ、もちろんマナミもいるが、入場する6人の中、一人だけ違ったオーラを放っている。


 メインの二人は中央の舞台に上がり、四人はそれを見送った。


 壇上で待つエミーリンが二人の立ち位置を決めて、会場の方に目を向ける。


『勝敗はこれから執り行われる三つの競技によって決します。これは如何に魔法を使いこなしているかを見る物であり……』


 エミーリンの長い口上の間に、闘技場中央の舞舞台上のセットが変更されていく。


『準備が整ってきたところで、第一競技の説明に入ります』


 会場に集まった観客は一斉に舞台に注目した。


 今までざわついていた場内が静まりかえる。


『第一競技は料理対決です!』


 二人の魔法対決の第一競技のテーマが告げられ、場内は一斉に沸いた。


「料理って? なに、どういうこと!?」


 場内で事態が掴めていないのはマナミのみ、セコンドの方に目をやれば、満面の笑顔で応えるリンカと、両手を合わせるケイトの姿がある。


 二人は知っていたのだ。


 そしてケイトは知っている。マナミが料理などしたこともない。いや料理なんてできるはずがないということを。


「ちょっと、なんで料理なの?」


『えー、お答えします。料理というのは生きていく上で最も重要な作業であり、冒険者なら自ら調理が出来て当たり前! 二人ともレベルは低くとも立派な冒険者です。一体どんな食卓を演出してくれるのでしょうか!?』


 ケイトに代わってエミーリンが答える。


 今回の対決を相談された時、マナミとクリフのことを事細かく調べたエミーが、二人の実力を計って企画を立てた。


 そのひとつが料理対決なのだ。


『ルールは簡単、お互い食材、テーマは自由。ここに用意された食材を用いて調理して頂きます。但し、この場には火も水もありません。調理には必ず魔法を用いなくてはなりません。さぁ、二人は一体どんな料理を作り上げるのでしょう!』


 つまりは食材は自由だが、道具は限られると言うこと、よく見れば刃物もどこにも用意されていないようだ。


『では調理、スタートです!』


 まだ勝負内容の発表から立ち直ってないマナミを置き去りにして、競技はスタートした。


 もちろん先に動いたのはクリフ。食材を選ぶことなく呪文の詠唱が始まり、術が発動すれば魔道の力に反応した食材が宙に浮き、風が刃となり、下拵えを進める。


『さぁ、まずはクリストフ=ロングラントが風の魔術で下拵えを開始、片やマナミは……、おおーっと!?』


 なんと、ケイトが料理はからっきしと言っていたマナミも、クリフに引けを取らない手際で食材を捌いていく。


 その後も二人は見事な手際で、当初の予想とは違い、誰もが好勝負を期待する結果となった。


『さぁ、二人のテーブルのセッティングが完了しました。さて一般から公募した審査員達が席に着く間に、ここでセコンドの声を聞いてみましょう』


『いや、あいつの料理の腕は日に日に良くなっていったものの、最初の頃は酷かったさ。だが、冒険者ならこれくらいは出来て当然だからな』


 ゴウが向けられたマイクに語りかける。


『びっくりしました。彼女がここまで出来るとは実際思ってなかったし、この勝負説明の時にこっち睨んできて、ものすごく怖かったんですよ』


 と、これはケイトなんだが、全くセコンドらしさのない、選手を信じると言うことが出来ていない。


 そうこうしているうちに審査員も席に着き、ほんのちょっとの差だったが、先に出来たクリフの試食からである。


 その見た目は鮮やかで、各地の郷土料理が盛り込まれている様な、物珍しい料理が並んでいる。


 見た目だけではない。それを口にした人々は讃辞を並べた。


『かなりの好感触ですが、見ていて私も食べたくなってくる、クリストフ=ロングラント選手の料理であります。さぁ、審査員はそれぞれ得点を付け終わったでしょうか。……それでは、続いてマナミ選手の作った料理の試食に移ります』


 相手の試食の間、待たされている方は保温を考えなくてはいけない。


 これも魔法対決の一貫なのだが、これは後攻の者だけのハンデとなるため、十分保温が成されていれば、それも審査の対象となる。


 審査員はクリフの料理にかなり満足している。


 空腹感がなくなり、満たされてしまっていることも、マナミには大きなハンデとなっている。


「おおーっ!?」


 結果が恐ろしく強く目を瞑るケイトの予想に反して、審査員席からは、マナミの料理を口にした感動の声が上がった。


『これはなんと言うことでしょう。マナミ選手の料理を口にした審査員が全て涙を流しています。感動しています。これは勝負あったかぁ~!? って、なに?』


 ちょっと悪のりしているエミーリンを押しのけて、その呪文の詠唱は聞こえてきた。


「あっ、待って!?」

『デフスペル!』


 力ある魔道の声が会場中に響き渡る。


 そうすると、今までマナミの料理に舌鼓を打っていた審査員達が、一斉に我に返った。


 会場中で起こったのはどよめき、何故かマナミの料理が全て忽然と消えてしまっている。


『これは一体……』


「彼女の使った魔法はただ一つ」


 クリフだった。


「それは幻覚の魔法だ。危うく僕も騙されてしまうところだった。これだけの人達全員に、干渉できるだけの魔法力には感服するけど、彼女は勝ちを確信し、一瞬気持ちが揺らいだ。だから僕はそれを見破ることが出来たんだ」


 そう、マナミはケイトが言っていた通り、一切料理など作れなかった。


 だから会場の全てを幻覚に取り込んで、誤魔化そうとしたのだ。


「もちろんこれはズルじゃない。彼女はちゃんと魔法を使って競技していたんだから、でも最後の最後に僕に見抜かれた。そして僕も魔道で返した」


『つまり、この勝負はクリフ=ロングラント選手の勝利とします』


 やられた!? 先ずは一本、もうこれで後はない。


 三本勝負だから一敗はまぁ、しょうがない。


 だが、次は悪くても引き分けなくてはならない。


 今の勝負はどちらかというとクリフよりの競技だった。


 だがこの果たし合いは、みんなで考えて、どちらもが納得のいく様に設定されているはず。


 今度はマナミの得意競技で勝負される。


 マナミは勝手にそう解釈していた。


 だがこれは、あくまでクリフを納得させるためにやっている物で、魔法と魔道に公平ささえあれば、二人の勝負自体に平等となる要素はどこにもなかった。


『さぁ、次の競技は……』


 マナミは「ごくり」と一度大きく喉を鳴らした。


『次は掃除です!』


 これもまたゴウ達との修行生活で開花した、クリフの新しい特技だった。


 だが、そんなことマナミの知ったことではない。


 競技内容を説明しようとしていたエミーリンは、壇上のマナミに目をやり、突然舞台袖に引っ込んでしまった。


 何事かとお客さん達がざわめき合った瞬間、会場は閃光に包まれた。


 マナミの持つ最大級の呪文が炸裂し、急増された特設会場は跡形もなく吹き飛んでしまった。


 この突然の大惨事に怪我人は出たものの、幸い全員が軽傷で済んだ。


 競技はこの時点で終了し、マナミの魔法力の凄まじさを目の当たりにしたクリフは大人しく負けを認め、ゴウ達に連れていかれ、また修行のために町から出て行った。


 マナミの魔法が、軽傷とはいえ怪我人を出したのは確か。


 この日から三日間、怪我人の治療を余儀なくされたマナミは、精神力を使い切り、治療後の三日間を寝込むのであった。

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