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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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29話 不見不聞不言



此処へ来てどれ程の時間が経ったのだろうか。

視覚、聴覚を奪われた身体は体感時間が狂い始めていた────





私は黒ずくめの集団に連れられゲートを潜るとそこは薄暗い建物の中だった。


「二人に危害を加えられたくなければ着いて来い」


背後を見遣ると未だ意識を失い項垂れ、黒ずくめの集団に担がれているソレンヌとエドが目に入る。

その二人の首元にはご丁寧に鋭利な刃物があてられていた。

態々そんなに脅さなくともストレンジが使えない時点で体術だけでストレンジ持ちに適うはずもない事から、私には着いて行く選択しか残されてはいない。


「言う通りにするわ。二人に危害が加えられない限りわね」


私は前を先導する二人の男を睨める。

二人は私の言葉に含まれた意味を理解したのだろう。


「その二人は丁重に扱え。大事な人質だ」


その言葉にソレンヌとエドの首元にあてられていた刃物を引いた。

その事に微かに安堵して先導する二人の男に着いて行く。途中、ソレンヌとエドは何処か別の部屋へと連れて行かれたが、先導する男が危害を加えないように命令していたから少なくとも下っ端の者達が二人に危害を加えることはないだろう。


「……入れ」


先導していた二人と私の三人が辿り着いたのは厳かな造りをした扉の前で重々しい金属音を響かせて扉が開く。

中に入ると、鉄格子の窓と広過ぎる部屋の中心にポツンと一つだけ椅子が置かれていた。


「そこの椅子に座って下さい」


先導していた男のうちの一人。

孤児院で戦った男が着席を促す。近付いてみると一見普通の椅子のようだが。


「何の仕掛けもないただの椅子ですから安心して下さい」


警戒を読まれていたようだ。

私は大人しく椅子に座ると、着席を促した男に鎖で椅子に縛り付けられた。

仮にも子女を縄ではなく鎖で繋ぐとは何事かと憤っていると、「ルイーズ嬢にはこれくらいしないと逃げられそうですからね」と質問する前に返答があった。


「私達をどうするつもり。あなた達は何を企んでいるの」

「あんたに教える義理はない。だけど、安心しな。あんたと連れの二人は利用価値があるから生かしといてやる」

「その言い方だと私達三人だけが助かるって聞こえるんだけど」

「そう言ったのさ。街の連中はおまけ。お前達を呼び出す為の道具に過ぎない」


男は事も無げに冷酷に告げる。


「なっ。それじゃあ、街の人々をどうするつもり!?」

「そうだなぁ…ガキ共も利用価値があるからそれ以外なら返してやってもいいが…」


男は意味深に一度そこで言葉を切る。


「それ以外の連中は埋めるか」


フードの下からでも分かるほどに男はニヤついていた。

思い切り眉宇を寄せる。


「領民達の心の隙間を?」

「ポジティブだなっ?!」

「ぶふっ…」


今まで緊迫した空気感を放っていた男は突っ込み、孤児院で対戦した男が吹き出す。


「土に還すって言ってんだよ!」


まあ、知ってたけどね。

全くもって、ノリの悪い奴等だ。


「そんな事をすれば上が黙ってないわよ」

「そんな事、百も承知。それに、本当は聡い嬢ちゃんなら気付いているんじゃないのか?」


男が近付き私を見下ろす。


「上層部に裏切り者がいるってな」


その言葉に下唇を噛む。

こんな大規模な事件を隠蔽出来るほどの力を持った人物が関わっている。

それは、襲撃にあった時から考えていた事だ。


「あなた達は何者なの。何故、ストレンジ騎士団の監視下にあるはずなのにあなた達の存在が感知されない」


ストレンジ騎士団に裏切り者がいるのは確かだ。

ストレンジ持ちは政府の監視下にあるはず。それも、複数のストレンジが使えるなど私とソレンヌ以外聞いた事がない。


「聞いて何でも答えが返ってくると思うなよ」


眼前の男の冷ややかな声が部屋に響く。


「サンエン」


男が短く口にすると、頭上から三人の人影が降り立つ。


「猿共、この女の聴覚、視覚、声を奪え」

「「是」」


音もなく姿を現した三人の男達は三つ子と思う程にそっくりな顔をしていた。

だが、一人は男の指示に目を見開いて口元を凝視し、一人は目を瞑った状態で、男の指示に二人は声を発して承諾していたが、もう一人は頷くだけだった。

サンエンと呼ばれた男達が私の周りを囲み手を翳す。


「何を──」


はくはくと動く唇。声が奪われた瞬間だった。

次に目の前の景色が暗転する。目を瞑ったつもりは無い。だが、眼前に広がるのは暗闇ばかり。


「あんたは依代だ。準備が整うまでは大人しくしてもらう」


その言葉を最後に聴覚までもが奪われた。


「──はまだ──か。」


視覚と聴覚を奪われたが、人の気配だけはまだ感じる。

それに、酷く遠くノイズが耳奥に響くが微かに声が聞こえる。完全に聴覚が奪われたわけではないようだ。


「無効化──守られ───」


無効化?ヒロインであるラシェル嬢の事だろうか?

耳の中に膜が張られたような感じでよく聞こえない。

だが、ラシェル嬢の名前と聞こえた単語からソレンヌのように彼女も狙われているのではないのかと理解した。

部屋にあった複数の気配が遠ざかり扉の先に消えた。

そして、私は一人部屋に残された。






「依代は手に入れたが、無効化の娘を手に入れろとあの御方から直々にお達しだ」

「ですが、第二第三王子とストレンジ騎士団団長のご子息等その他ストレンジを保持する者が娘を護っていて手も足も出ないとの事です。」

「私が行きましょう」

「いいのか。……ヒロノブ」


報告を受けていた男が隣の人物に目を向ける。


「ええ。ルイーズ嬢も気付けなかったこの顔ならば私の存在に気付かれることはないでしょう」

「そうか。ならば、早急に無効化の娘を連れて来い」

「畏まりまして」


ヒロノブは頭を下げると報告を行っていた配下と共に瞬間移動で現場へと向かった。

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