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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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挿話 ルイスという男

第三王子のルイスや第二王子のレナルドの生い立ちが出てきます。割と暗い設定ですので興味の無い方は飛ばして次話の本編をお読み下さい。

これを読まなくても本編に支障はありません。


※胸糞表現が少しあります。


「なんで!なんで!なんでなんでなんで!!」


ヒステリックにそう叫ぶのはレリア・パストゥール。ダルシアク国国王陛下の側室に召し上げられた女で第二王子と第三王子王子の実母である。


「如何してお前達はそんな容姿で生まれてきたんだい!?」


ああ、また始まった。


僕はそう思った。

冷めた目で実の母親である彼女を見ていると目が合った。


「何だいその目は!」


母上は僕の頬を思い切り打つ。


「何でお前達の髪は茶色なのよ!それに、唯一あの人と同じ目の色だというのお前達はあの人のように澄んだ青い瞳ではなくくすんだ青色なの!!」


そう。彼女を苛立たせているのは僕とレナルドのこの容姿のせいだ。

何でも、この髪色は父上でも母上の髪色でも無い。父上は光を反射して神々しささえ窺える銀の髪色で母上は濃紺の髪色をしている。そして、僕達のこのくすんだ青い瞳は母上譲りだ。

そのせいで周りからは僕とレナルドは本当は王の子では無いのではないかと囁かれていた。

母上は父上の子だと言い張っているけど真相は分からないし、僕も分かろうとは思わない。


僕達にはレナルドの他にも兄弟がいる。

異母兄弟と言うもので上に一人と下に一人。上の兄は父上を縮めて幼くしただけのように瓜二つだ。下の弟は瞳こそはそいつの母親譲りで父上とは違えど、髪色は光を反射するような綺麗な銀髪だ。



「こんな容姿で生まれたのは僕達のせいじゃないのに!」

「ルイス…」


母上の部屋を出て思わずそう呟かずにはいられなかった。レナルドは悲しそうな顔で僕を見て直ぐに俯いた。

レナルドと共に僕達に与えられた部屋に戻っていると廊下の窓から微かな笑い声が聞こえ窓の外に目を向ける。


「ルイス?」


立ち止まった僕に不思議そうにレナルドが首を傾げ視線の先を追って窓の外に目を向ける。

そこには、銀髪の少年とアクアマリンの髪色をした少女、その奥の方には金髪に澄んだ青い瞳をした女性とその女性に寄り添うように女性の肩に手を回す父上の姿が目に入った。


ギリッ


噛み合わせた歯から音が鳴る。

僕は荒ぶる心を誤魔化すように大股で部屋へと続く廊下を歩いた。


「ルイス!待ってよ!」


後ろから慌ててついて来るレナルドの声が聞こえる。



嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。嫌い。


この世の全てが憎い。父上も母上も、兄上も父上には見放されていても母親には愛されている弟も皆嫌いだ!!

僕にはレナルドさえいればいい。レナルドだけが僕の味方だから。そして、レナルドの味方も僕だけなんだから。



なのに…



「レナルド!将来貴方の婚約者となり伴侶となるペルシエ公爵家のソレンヌちゃんよ!」



母上は上機嫌でレナルドの婚約者候補となった少女を紹介する。何故僕まで一緒にそんな話を聞かなければならないのかと思ったが、この女は息子である僕達の見分けがついていない。それにこの王宮にいる人全員僕達の見分けがついていない上に僕達はよく入れ替わって遊ぶゲームをしていた。だから、また入れ替わってレナルドの呼び出しに僕が行かないように二人一緒に呼び出したのだろう。


母上は何方がレナルドなのか分かっていないから僕達に視線を合わせようとせず笑って誤魔化しているが、紹介された少女は恥ずかしそうにしながらもチラチラとレナルドの方に視線を向けている。


驚いた。


僕とレナルドの見分けがつく奴なんて初めてだったから。しかも初対面で。

だけど、レナルドとソレンヌはそうでは無かったようで、以前王城で迷子になっているところをレナルドが助けてやったらしい。

それからは僕とレナルド、そしてソレンヌを加えた三人で遊ぶ事が多くなった。ソレンヌがレナルドの婚約者候補となってからは母上もヒステリーを起こす事は少なくなった。


そして、僕達が六歳となった時ある事件が起きた。

父上の最愛の人である王妃様が亡くなった。そして、後に続くように僕達の一つ年上の兄上までも亡くなったという。

その訃報を聞いた母上は狂ったように笑い続けていた。人が死んで笑うなど正気の沙汰ではない。だけど、僕もレナルドも誰に言うでもなく心の奥底にその情景をしまい込んだ。





「お初にお目にかかります、レナルド王子、ルイス王子。此の度ルイス王子の婚約者候補となりましたわたくし、カプレ公爵家が長女ルイーズ・カプレと申します。どうぞお見知り置き下さいませ」



ある日のお茶会にソレンヌと同じくらい目を引く少女が現れた。

彼女は前に兄上達と共にいたアクアマリンの髪色をした少女で、僕達は事前に彼女が僕の婚約者候補になった事を知らされていた。

だから、兄上を失った彼女はさぞかし喪失感や絶望的な目をしているのだろうと思ったのに彼女の瞳は死んでいなかった。僕が脅しをかけても直ぐに引き下がりつつも僕達がやり過ぎた時には口煩く注意する。最初は煩わしいだけで兄上のお下がりなんてお飾り程度にしか思っていなかったのに目が自然とアクアマリンの髪色を追っていた。

だけど、彼女は時折遠い目をする。何処か遠くに思いを馳せている目だ。

僕は直ぐに分かった。彼女はまだ死んだ兄上に心があるのだと。


兄上は父上に愛され彼の母上にも愛され、おまけに死んでも尚彼女に愛されている。その事に無性に腹が立った。


レナルドには今は僕だけじゃなくソレンヌもいる。

何れ二人は結婚するだろう。レナルドも満更でも無さそうだし。

そうなると、僕は一人だ。

その瞬間、何かに追い詰められるような感覚に陥り恐怖した。


嫌だ。僕を見ろ!僕も此処にいる!

僕を見ろよ!!!!



それからというもの婚約者候補のルイーズにも他の人にも当たり散らすようになった。

僕達は成長してもあまり変わらなかった。変わったというならば、第一王子の兄上が死んでから忙しそうにしていたレナルドがまた僕と一緒に悪戯をして遊んでくれるようになった事だろうか。

そして、その度に婚約者となったソレンヌが呼びに来るけどレナルドは煩わしそうに彼女を追い払う。

話を聞けば、最近のソレンヌは怒ってばかりなのだとか。

羽目を外したい時に羽を伸ばせないなんて窮屈でしかない。それをソレンヌもルイーズも分かってないんだ。



そんな時だった。

僕達が彼女と出会ったのは。



「本当にそんなことして楽しいですか?なんだか、無理して楽しんでいるみたい…」


初めは知ったかぶりの言葉に僕達は激怒したけど、彼女は僕達の不安や荒んだ心を分かってくれているようだった。

僕達の事を否定せずに受け入れてくれる。生まれは庶民だけど、顔も可愛いしとても優しい女の子。

僕もレナルドもそんな心優しい少女に心奪われるのにはそう時間はかからなかった。他にも彼女に想いを寄せている男は多いようだけど、王子である僕達に敵うものなんかいない。

レナルドには婚約者のソレンヌがいるし、何れ現実的に彼女を手に入れられるのは僕しかいない。

レナルドも次期国王となればラシェルを側室に迎えられるだろうけど、僕の場合は国王にはならないだろうから彼女を正妻に迎える事が出来る。

ルイーズの事もあるけど、彼女は兄上に先立たれ可哀想な身でもあるから妾にでもしてやろうと考えた。

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