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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
53/75

20話 助け ソレンヌside


「ありがとうございます」

「助かったよムニエ嬢」

「いえ、お役に立てたのなら光栄ですわ。では、わたくしはこれで失礼致します」

「ああ、セレスタンの手当てが済んだら私達もすぐに戻るよ」



マラルメ国からの留学生であるムニエ嬢は模擬戦で怪我を負ったセレスタンと彼の付き添いとしてロラン殿下の二人を保健室前の廊下に転移すると彼女は演習場へと転移して戻って行った。








「ソレンヌっ」


嫌、嫌、嫌、嫌。

そんな恐ろしい顔で恐ろしい声でわたくしの名前を呼ばないで。

今まではお姉様やエドといることで平常心を保って来た。だけど、それももう限界だ。

嫉妬に塗れわたくしの方が彼と過ごした時間が長いのに数ヶ月で愛しい婚約者をわたくしから引き離したあの女が憎い。ドロドロとした粘液が身体中に浸透し体内を巡る感覚が日に日に大きくなる。それと比例するように彼女に対する憎悪が増していくのが自分でも分かっていた。

こんな醜い感情、誰かに知られでもしたら。そう思うだけで恐ろしい。


「そんなことになればお姉様にもエドにも嫌われてしまいますわ」


そんなことには耐えられずにわたくしはレナルド様の制止を無視して出口に向かう。



「お前達ソレンヌを捕まえろっ!!」

「はいっ」


レナルド様の指示に複数の男子生徒が後を追って来るのが分かる。中にはストレンジを使おうとしている者もいて能力が発動する前に保健室の外に飛び出した。

保健室を飛び出ると同時に今まで堪えていた涙が零れる。胸の奥が軋んで上手く呼吸が出来ない。だけど、此処で捕まればまた心許無い罵声が愛しい婚約者から浴びせられるのだと思うと踏み出す足は止まらなかった。


「ソレンヌ嬢?」

「殿下お下がりをっ!…って、ソレンヌ嬢!?」



廊下に出るとすぐ近くに留学生のロラン殿下とセレスタン様が立っていて驚く。

二人も急にわたくしが飛び出して来たものだから驚愕に目を見開いており、如何してこんな所に二人がいるのかと疑問に思ったがその思考を瞬時にかき消す声が背後から聞こえる。


「ソレンヌを逃がすなっ!!」


一瞬背後を振り返ると浮遊した者や縄を自在に操れるストレンジを持つ者の縄に瞬間移動、ゲートなどを駆使した男子生徒達がすぐ真後ろに迫っていた。


捕まるっっ


そう思い咄嗟に身を屈めて目を瞑った。


「セレスタン」

「御意!」


ロラン殿下とセレスタン様の呼応が聞こえたかと思えば、


「がっ」

「ぐあっ」


と、背後から男子生徒達の呻き声が聞こえた。


何時まで経っても男子生徒達の攻撃が来ない。その事に不思議に思い瞑った目をそろりと開ける。


「ソレンヌ嬢、お怪我はありませんか?」


目の前にロラン殿下が片膝をついて此方へと片手を差し伸べていた。その姿が様になっていて王子様のようだと思った。いや、彼は正真正銘の隣国の王太子で王子様なのだが、ロマンス小説などで出てくる非の打ち所のない女性の誰もが憧れる理想的な王子様そのものだったのだ。


「は、はい。ありがとうございます」


わたくしは差し出されたロラン殿下の手を取ると戸惑うわたくしを気遣いながら立たせる。

攻撃が止まった背後を確認するとわたくしと彼らとの間に結界が張られ彼等の行く手を阻んでいた。


「セレスタンは結界のストレンジを持ってるんだ」


呆然としているとロラン殿下が説明してくれた。彼はポケットからハンカチを取り出すとわたくしに差し出す。ロラン殿下とセレスタン様の登場に涙は既に引っ込んでしまったが零れた涙の線がまだ頬を濡らしていたようで、晒してしまった醜態に恥ずかしくて頬に熱が集まる。隣国とはいえ、王太子自ら差し出されたものを拒む事など出来るはずもなく、甘んじてハンカチを受け取った。


「飛んだ醜態をお見せしてしまい誠に申し訳ございません!それと、助けて頂きありがとうございます」


わたくしは他国の留学生の目の前で起こしてしまった不祥事に謝罪し、助けられた事に対する御礼を述べ深々と頭を下げる。


「お前達、どうした

………………ロラン王子!?」


男子生徒達がセレスタン様の結界に弾かれ立ち往生しているとレナルド様も保健室から姿を現した。

後ろから聞こえるレナルド様の声に思わずビクリと肩が上がる。すると、ロラン殿下はレナルド様が先程ラシェル嬢にしたようにわたくしとレナルド様の間に立ちレナルド様からわたくしの姿を隠す。その隣には警戒した面持ちのセレスタン様が連れ添い男子生徒達を睨み付けている。


「これがどういう状況なのか説明してくれますか?レナルド王子」


疑問符で尋ねているのだが、ロラン殿下の声から有無を言わせぬ気迫が感じ取れる。

ロラン殿下とセレスタン様の陰に隠れてレナルド様達の姿が見えないがレナルド様のたじろいだような声が聞こえた。


「これは…我が国の問題でロラン王子には関係の無いことです」

「一人の女生徒を複数の男子生徒達が目を血走らせて追い掛けるのがダルシアク国の問題解決方法ということですか」

「いや、それは……」

「この案件はとても見過ごせるものでは無い。が、状況を把握していない我々が口出し出来ないのも事実。だから、彼女を複数の男子生徒で取り押さえる必要が本当にあったのか話を聞かせて貰えるだろうか」


ロラン殿下は年上ということもあり貫禄のある笑みを浮かべてレナルド様に尋ねる。その笑みはやはり有無を言わせぬ効力があった。

隣国の王太子の登場ということで場は一瞬にして緊迫した空気へと変わった。



話し合いは保健室の中に入ってからと言うことで再び保健室の中に戻ることになった。


「ソレンヌ嬢、大丈夫かい?」


ロラン殿下が心配そうに尋ねる。


「悪いね。本当は彼等から君を離した方が良いんだろうけど、どちらか一方の話を聞くのは良くないと思ってね。何かあれば私とセレスタンが君を守るから一緒に話し合いに参加してくれるかな」


なんて誠実的な人だろうか。

端麗な彼の眉宇が申し訳なさげに歪む。

ロラン殿下がわたくしを助ける為にこの話し合いを持ち掛けたのだと分かっている。放置することだって出来たはずなのに、ロラン殿下の懐の深さに感謝した。


「ありがとうございます。わたくしは大丈夫です」


本当は彼等と面と向かい合うのは怖い。

だけど、ロラン殿下がここまでしてくれているのだ。当事者のわたくしが逃げるなど出来ようはずもない。わたくし達はレナルド様達の後に続いて保健室の中に入った。




「えっ。ロラン様にセレスタン様!?如何して此処に!?あ、もしかして私のお見舞いに来てくれたんですかあ?」


保健室に入った途端にベッドの上に座るラシェル嬢がロラン殿下達の姿を見るなり目を輝かせて声をかける。

彼女はまた、何という無礼を。

すぐに謝罪しようとするもロラン殿下から手で動きを制される。


「君は確かセレスタンやソレンヌ嬢と同じクラスの子だったかな?此処へ来たのは別件なんだ。」


ロラン殿下は人好きのする柔らかい笑顔をラシェル嬢に向ける。


「あれ、まだ自己紹介してませんでしたっけえ?私、ラシェルって言います。ラシェルって呼んで下さい!!」


彼女は甘ったるい猫撫で声で自己紹介をするが、その前にボソリと呟いた言葉をわたくしは見逃さなかった。

「ルイーズが邪魔ばかりしてロラン様達には近付けなかったのよね」そう忌々しげに呟いた事にわたくしは面食らっていたが、他の人達は気付いた様子はなかった。


「君は私達が留学して来た初日に注意した事をもう忘れてしまっているんだね…。」

「え?初日?」


今まで誰もが見蕩れるような甘い笑顔を浮かべていたロラン殿下は一変し、表情から笑顔が消え冷たいものへと変わる。

国際問題になりかねない状況にわたくしは一人内心であたふたとするも、お付のセレスタン様は冷静そのもので取り敢えず場を見守ることにした。


「レナルド王子、やはり場所を変えよう。此処では休んでる彼女の邪魔にもなってしまう」

「っ、分かりました。では、別の部屋を御用意致します」


ロラン殿下の提案にレナルド様は返事をして他の部屋へと案内する為立ち上がる。


「待って下さい!!」

「ラシェル?」

「よく分からないけど、まだ此処にいてください!私とお話しませんか?私、保健室で一人で寂しくて寂しくて」


ラシェル嬢は双眸に涙を浮かばせる。


「なら、話し合いはレナルド王子だけでも構わない。残りの生徒達は彼女の傍に残ってやったらいい」

「え!?いや、あのっ」


ロラン殿下は今まで見たことのない程に冷め切った声でそう言うとラシェル嬢は慌て出す。それにしても、先程まで零れ落ちそうだった涙はすっかり乾いており彼女の演技力には感嘆する程だ。


「私、ロラン様たちとお話してみたいんです!」

「愚か過ぎるのも考えものだな。君は、君自身の振る舞いで周りが迷惑している事など考えた事がないのか」


一つ溜息を零して呟く言葉は重々しく自然と室内には沈黙が制する。


「え、あの。ロラン様?何か怒ってます?」


ラシェル嬢は漸くロラン殿下の様子に気付いたのか首を傾げて尋ねるが、未だ何を言われているのかは理解出来ていないようだ。


「えーと、迷惑ってソレンヌ様が言ったんですか?」


鳩が豆鉄砲を喰らった顔とはこの事だろうか。彼女の斜め上を行く発言に驚かずにはいられない。

此処で何故わたくしの名前が出て来るのかと甚だ理解できないが、隣でセレスタン様が「うわー」っとヤバいものでも見るような目で彼女を見ていたから驚いたのはわたくしだけではないようだ。


「何故そこでソレンヌ嬢の名前が出て来るのか分からないけど君は一度自分の行いを顧みた方が良さそうだ」

「ソレンヌ様じゃないならルイーズ様ですか?ロラン様、駄目ですよ!彼女達の言うことを信じちゃ!!ソレンヌ様もルイーズ様も私の事が嫌いだから酷いことしか言わないんですから!」



そう言ってラシェル嬢は泣き出した。

本人を目の前にして嘘を付けるとはもう何と言ったら良いのでしょうか…。

こんな人に愛しい婚約者を取られたのかと思うと不快でならない。だが、ラシェル嬢の愛らしい姿は男性の庇護欲を唆るのだろう。今も取り巻きの男子生徒達がラシェル嬢を宥めている。


「話にならないな。不敬罪で今ここで彼女の身柄を捕らえても良いのだが─────」

「ロラン王子!ま、待って下さい!!非礼は私が詫びます。ラシェルは下町出身なので貴族社会の事をよく知らないだけなのです」


ロラン殿下の呟きにレナルド様が反応して謝罪する。ラシェル嬢を庇う姿にまだ少し胸が痛むが徐々にわたくしの中で何かが変わって来ているような感覚があった。以前までなら、レナルド様の他の女の為に頭を下げる姿など見れなかっただろうが、今は少しの胸の痛みだけが残る程度だ。


「……………良いでしょう。今回も見逃しますが次は無いので彼女と私達が接触しないようにした方が良いかもしれないね」


ロラン殿下があっさりとレナルド様の謝罪を受け入れた事に瞠目する。了承する前に何か呟いた気がしたがよく聞き取れなかったけど、これほど無礼な態度を取られていても許容するとは本当に懐が深い御方である。

度量の深さに感嘆していると保健室の扉が数度叩かれた後、開かれる。


「失礼します。先生はいらっしゃいますか?」


姿を現したのは一人の女生徒だった。

次回はロラン殿下sideの予定です。

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