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3話 新しいお友達



目的地に着き馬車が止まる。

御者が扉を開き初めにサビーヌが馬車から降りる。次いで転ばないように私の手を引いて降ろしていると目の前にある大きな邸の扉が勢い良く開いた。



「ルゥお姉様ぁ、お待ちしておりましたわあっ」

「ルゥ姐さん久し振りですーーっ」



馬車から降りきると妖精が二つほど飛び出て突っ込んで来た。

ぐっふぉ。子供は容赦が無い。

さり気なく後ろでサビーヌが支えてくれなければ勢いに押され後ろに倒れていただろう。

二人の幼女が私にぐりぐりと頭を押し付けぎゅうぎゅうと抱き締める。



「お久し振りですわね。ソレンヌ様、エド様」



抱き着く二人の頭を撫でてやると見えないはずの耳と尻尾の幻覚が見える。

私は、側室レリア様のお茶会の一件からソレンヌ嬢と友達と呼べるほどに仲良くなった。

度々、ソレンヌ嬢と私の家を行き来して遊んでいるうちにソレンヌ嬢の幼馴染として紹介してもらった少女がいる。

その方こそ今私にソレンヌ嬢と一緒に抱き着いている少女エドウィージュ・ミュレーズ。紫の髪に髪と同色の瞳は目尻が少し釣り上がり、ソレンヌ嬢が可愛い系代表だとすると、エド嬢は綺麗系の代表といったところだろうか。


彼女は西の辺境伯の令嬢でソレンヌ嬢の従姉妹である。

彼女とはソレンヌ嬢の邸に遊びに行った時にそれとなくエド嬢の話を引き出し合わせてもらってお友達となった。因みに彼女も悪役令嬢仲間である。




「何をやってる。ちゃんと挨拶をしろといつも教えているだろうがっ」


「いでっ。兄さん痛い!!」



エド嬢が引き剥がされたかと思えばエド嬢とそっくりな男の人が立っていた。彼はエド嬢の首根っこを掴むと空いた手で拳骨を落とす。その時の音が容赦無くてとても痛そうだったが、本人も口では痛いと言いつつもそこまで痛がってはいなさそうだ。



「アドルフ様、お初にお目にかかります。わたくしカプレ公爵家が長女ルイーズと申します。お兄様の御友人だとお聞きしております。今後とも兄妹共々よろしくお願い致しますわ」


「グエンから話は聞いていたが本当によく出来た妹だな。俺はアドルフ・ミュレーズどうぞよろしく」



実は彼、グエン兄様のご学友でもあるのだ。10歳になるとストレンジ持ちの子供は国が運営する学園へと平民貴族関係なく一箇所に集められる。学園は全寮制だが、長期休暇や休日に学園に申請を出せば実家に帰れるようになっている。


今は夏休み期間ということもあり、アドルフ様もご自宅にいたというわけだ。因みに、私の兄様達はお母様監視の元自宅で留守番だ。行きは途中の街までグエン兄様のテレポートで送ってもらい17時にはミュレーズ邸まで迎えに来てもらう予定となっている。



「兄さん、いい加減離してよっ。大体、兄さんだってルゥ姐さんが来るの楽しみにしてたじゃん!!」



未だ仔猫よろしく捕まっているエド嬢はじたばたと暴れて抗議する。

その抗議の発言に私は理解が及ばず何故初対面であるはずのアドルフ様が私に会うのを楽しみにしていたのかと首を傾げると私の側にいたソレンヌ嬢がこっそりと耳打ちして教えてくれた。



「実は、以前ルゥお姉様とエドが模擬戦を行った事がありますわよね?その時、完敗したエドがアドルフ様にもそれはそれは大興奮でお姉様のお話をしたようでして一度お会いしたいと仰っていたそうです。それに、ルゥお姉様のお兄様方に直接言ったところお断りされてたようでより一層今日を楽しみにされていたんだと思いますわ」



なるほど。

私は確かに以前、ソレンヌ嬢の邸に遊びに来たエド嬢と模擬戦を行った。ミュレーズ家というと同盟国で友好関係は良好であるが、隣国のマラルメ国との国境を守る地方長官を務めている。マラルメ国とは友好的とはいえ定期的に合同訓練を行う事もあるらしくミュレーズ家は家族全員戦闘族である。その為、私は護身術を身につける為に日々鍛錬しているという話からエド嬢の話に結びつけて紹介してもらった。


エド嬢は初対面の時から好戦的で出会ったその日に模擬戦を行う事となったのだが、どうやら私は戦闘力などステータス全てをゲームで獲得した値を引き継いでいるようで本当は鍛錬などしていなかったのだが、エド嬢に圧勝した。

それ以来、エド嬢が懐いてくれて今回この辺境の地まで招待して貰えることとなったのだ。



「でも、本日は戦いに来たのではなく遊びに来たのだと言っても……聞き入れてはくれないのでしょうねぇ」


「……そうですわねぇ」



私は兄妹喧嘩を繰り広げるミュレーズ兄妹を眺めながら遠い目をすると従姉妹としてよくこの兄妹の事を分かっているソレンヌ嬢にまで苦笑で肯定されては諦めるしか無かった。

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