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救済の闇  作者: ケイ


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響いた、少女の声。

それに、ダリオンは視線を向ける。剣を下ろし、声の響いた方向へと。

果たしてそのダリオンの視線の先に立っていたのは、少女。痩せこけ、煤で黒ずんだ布を纏った一人の少女だった。


己が斬られ、蹴落とされた崖の淵。

そこに、少女は佇んでいた。


己の身。それを抱きしめ、少女は震える。

生気を無くした双眸。そこに虚光を宿しながら。


その少女に、ダリオンは短く声を投げかけた。

優しい声音で。語りかけるようにして。


「ミリ、ア?」


染み渡る声

それに、少女はダリオンを見据えた。

同時にミリアの瞳に涙が溢れ、零れ落ちる。

その涙はミリアの頬を濡らし、足元に滴っていく。


「生きて、いたのか?」


「……っ」


「き、君は。あ、アシェンに斬られ」


「きられた。でも、でも」


「ヤミ。あ、温かな、ヤミが、この手を包んで」


小さな手のひら。

そこに残る温かな救済ヤミの感触。


温かなヤミ。

その言葉に、ダリオンはアレンへと意識を向けた。

敬意と畏れ。二つの感情が入り混じった眼差し。それをアレンへと。


【救済】


【怨嗟と憎悪。それに彩られた滅びの遡行から】


アレンによって行使されたその救済。

しかし、アレンは表情を変えることはない。


静かにミリアを仰ぎ見、アレンは前へと向き直る。吹き抜ける風。それに揺れる漆黒のローブ。


そして、アレンは鐘のほうへと歩み寄っていく。


怨嗟と憎悪。

それに侵され、呪いの音を響かせてきた鐘。


滅びの遡行。自らたちが苛まれた滅びの連鎖。

それを、この街を救いにきたモノたちに聴かせ続けていた闇の代物。


鐘楼の眼前。

そこで足を止め、アレンは己の救済ヤミに包まれた鐘に触れる。そっと。まるで、思いに寄り添うように。


【救済】


【囚われたモノたちの魂を】


刹那。


この地を訪れ、滅びに囚われた者たちの魂。

それがアレンの闇に取り込まれていく。


鐘の中。そこから溢れ出る、白く儚いカタチをした魂たち。

まるで救いを求めるかのように、彼等はアレンの救済ヤミに縋り消えていく。


その様を見つめ、ダリオンは重ねる。

かつて世界を救ったとある勇者の姿。それを、アレンに。


救済ヤミの」


「勇者」


ミリアと共に。闇を纏うアレンの姿を見つめながら、ダリオンの言葉は呟かれた。

そしてその言葉もまた闇に溶け、アレンの救済の中に消えていったのであった。


※※※


目が覚めると、目の前には見知った顔があった。


琥珀色の髪に、琥珀色の瞳。

しかし、その表情はどこか哀しげだった。


「アシェン」


名を呼ぶ声。

その声に、男は瞬きをもって応えた。

そしてその男の視界の端には、一人の少女の姿があった。

顔は怯え、しかし、その幼き眼差しには男に対する怨嗟や憎悪はこもってはいない。


滅びの遡行。

それに取り込まれ。苛まれ、絶望しーー少女を斬った己の所業。


男はその瞳を潤ませ、少女を見つめた。

謝罪。それをしたところで赦されるはずはない。


だが、少女はしゃがみ男の頬に触れた。

そして、男と同じように涙をこぼす。


「すま、ない。すまない」


「……っ」


謝り続ける男と、涙を流し続けるミリア。

その二人の姿に、ダリオンは呟いた。


「救済の勇者様」


「この世界も……貴方の救済ヤミになら包まれてもいいかもな」


そう思いを押し殺すように呟いたのであった。


※※※


白に包まれ、日の光に包まれた渓谷の街。


その地に救済に与え、アレンは歩みを進める。

後ろを振り返ることなく。淡々と。前だけを見据えながら。


そして、アレンは感じる。


己の救済の闇。

それが更にその胎動を増し、力を増しているということを。


だが、アレンは未だ知らない。


【救済の闇】


それが内包する本当の力の意味。

それを未だ、知らないのであった。


※※※




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