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その日。王城の謁見の間は、異様な緊張で張り詰めていた。
そして、絢爛豪華な装飾の中に声が響く。
「勇者たちよ、汝らに命ず」
片膝つく、三人の者たち。
滲むオーラ。それが、彼らの存在感を際立たせる。
先頭に片膝をつくのは、銀の髪を靡かせた青年――その瞳には、戦場を幾度も駆け抜けた冷徹さが宿っていた。背中には漆黒の剣が鞘に収まっている。
左につくのは、黒髪の若き女ーー漆塗りの鎧をまとい、微かに揺れるマントの下には無数の傷跡が隠れている。戦の臭いを嗅ぎ分けるように周囲を見渡すその視線は、恐怖と敬意の両方を引き出していた。
右にをつくのは、長身の魔導士ーー杖の先端から青白い光が漏れ、無言の威圧を放つ。彼の瞳には、人知を超えた力への渇望が映っていた。
王座に座る老王は、震える声で更に続ける。
「世界を脅かす者。エマとジークを亡き者にせし闇を討て。汝らの力を結集し、闇を打ち払うのだ」
しかし、その者たちの間に沈黙が流れる。互いに無言で目を合わせ、微かな疑念が胸をよぎる。
本当に、これが“正義”なのか。
王の声が再び空間を震わせる。
「勇者たちよ、行け。世界の命運は汝らの手に」
立ち上がり、一礼の後、身体を翻す三人。
石畳の冷たさが足の裏に伝わる。鎧の重みが肩を締めつける。
彼等はそれぞれに剣を握り、杖を掲げ、静かに一歩を踏み出した。
そして、闇に立ち向かう運命の道を歩み始める――光と闇が交錯する、終わりなき戦いの序章として。
石畳を抜け、王都の門をくぐった三人の者たちは、馬車の中で互いに視線を交わす。静かな緊張が、言葉の端々に現れる。
アランが口を開く。
「君たち、本当に闇を討てると思っているのか? 相手はあのエマとジークを亡き者にしたヤミだと聞いた」
エリシアがアランに目を向け、軽く鼻を鳴らす。
その瞳にはどこか自信に満ちている。
「そんなこと、私たちが思っても仕方ないでしょ。王命だもの。でも、確かに。これまでの闇とは異質。エマとジーク。あの二人が飲み込まれるほどの闇だもの」
エリシアの言葉。
それにブラードはくすりと笑う。
そして、青白い光を指先で纏わせながら、言葉を続けた。
「君の言葉は正しい。私も感じている。此度のヤミ。それは尋常ではないということを」
「尋常じゃない闇か。なら、尚更。無駄死にしたくないな。せっかく天に勇者に選ばれたんだ。少しは楽しみたい。君たちはどう考えている?」
エリシアは馬車の揺れに合わせ、二人の言葉に眉をひそめる。
「私は――王が命じた以上。戦うわ。でもね、誰も傷つけずに済む方法があればそれを選ぶけど」
ブラードが肩越しに二人を見やる。
そして、嘲るようにつぶやいた。
「理想論か。だが、現実は違う。光と闇が交わる時、どちらかが倒れるのは避けられない」
「そうかもしれないな。でも俺たちは、ただの駒になるつもりはない。倒れるときは、あの偉そうな王様も道連れにしてやるさ」
アランの声。
それに淡い微笑を浮かべる、エリシア。
「駒、ね。まあ、誰だって王の言葉だけで動くわけじゃないものね。でも、私たちは今、同じ目的のために歩いてる。世界に光を灯すという目的ーーそれだけは忘れないで」
ブラードの瞳。
それが、一瞬鋭く光る。
「同じ目的か。面白い。ならば、この道の果てに、誰が最後に立つか、見届けようじゃないか」
馬車が王都を抜け、灰色の大地に伸びる一本道を進む。三人の者たちは、互いに警戒しながらも、心の奥で微かに疑念と期待を抱えていた。
そして、まだ見ぬ“闇”――アレンの姿を思い、静かに瞼を閉じたのであった。
※※※
【救済】
【闇の爪痕から】
廃墟と化した、村。
そこに戻ったアレンは、救済を与える。
元のカタチを取り戻し、闇に蹂躙される前の姿に戻っていく村の光景。
救済を成し遂げれば、成し遂げるほど。
闇は更にその力を増す。アレンはそれを、己の内より感じていた。
力を増す。
それはーー
瞼を閉じ、アレンは行使する。
【救済】
【死。という結果から】
村人の亡骸。
それが闇に包まれ、ぴくりと動き。しかし、瞬時に止まる。まだ力が足りないと言わんばかりに。
その光景。
それを草むらから身を潜めて見つめ、息を飲む一人の琥珀色の髪の男。少女を背に隠し、男は小さく呟く。
「せ、世界が終わっちまうぞ。あ、あんな闇が現れちまったら」
そう震え声で呟いたのであった。
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