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救済の闇  作者: ケイ


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破壊ヤミが収束せし、空間。森の奥に広がる、拓けた場所。そこに彼女は佇んでいた。

転がる瓦礫。散らばった廃墟の破片。

白銀の髪。それが、降り注ぐ月光を受け反射する。

彼女の瞳の奥。そこには、宿るーー破壊の渇望が。触れたものすべてを無に帰したいという思いが。


「また」


「会えた」


「また」


救済あなたに」


彼女の声は冷たく、しかしどこか哀愁を帯びている。


アレンは沈黙のまま、一歩ずつ距離を詰める。

手には武器はない。ただ、アレンの身体を包むは闇。救済という名のヤミのみ。


彼女は手を振る。


【破壊】


という意を表明して。


刹那。周囲の岩が砕け、砂塵が渦を巻く。

破壊の意思が地面を裂き、空気を裂く。そして、砂塵は竜のカタチをとり、歩むアレンへとその牙を向ける。


だがアレンは微動だにせず、手のひらをかざし、闇でその砂塵を受け止めた。


【救済】


救済ヤミに触れた瞬間、砂塵の竜は音もなく消え去る。まるで、そのカタチをとることから救われたかのように。


ぱらぱらと降り注ぐ、砂粒。

それは月光を反射し、アレンの足元へと積もっていく。その中にあって、しかし、アレンを包む闇はその黒を霞ませることはない。


「ふふ」


「変わらない」


「なにも変わってはいないのね」


「わたしは、これで"何回目"なのかしら?」


声に宿る微かな愉悦。

だがその愉悦はどこか、歪。


アレンは言葉を発さず、ただ一歩また一歩と前へ進む。


彼女は低く笑う。呼応し、銀色の髪が風に揺れる。


【破壊】


【救済】


闇と闇がぶつかる瞬間、空気が震え、景色が歪む。


"「ハカイのヤミ」"


"「貴方たちが望んだからでしょ?」"


救済の闇。

それを通じ、アレンは彼女の情景を見る。


"「わたしはあり続けるの」"


"「勇者。その存在が現れ続ける限り」"


"「ただ。勇者あなたたちに」"


"「敗れ続ける為だけに」"


そして静寂。


ただ二人の存在だけが、月光の下で向き合う。白銀の髪と黒い闇、破壊と救済。言葉はない。ただ、力のぶつかり合いが、互いの本質を映し出していた。


白銀の髪が月光に溶けるように揺れる。

漆黒の闇を纏った彼女は、静かに微笑んでいた。

その瞳にはかつての愉悦はなく、ただ深い孤独が宿っている。彼女を取り巻く闇は、あらゆるものをハカイする力を持ちながら、今は【救済】に怯えるように震えていた。


アレンの表情は変わらない。それに、彼女はただ微かに息をついた。


そしてーー


【破壊】


【救済に抗う思いを】


彼女の胸の奥で何かが裂ける音する。長い年月、力と恐怖にまみれて存在し続けた自分の全てが、今、目の前の静寂に溶けていく。


闇の中で、彼女の手がかすかに揺れる。

破壊ヤミの奔流が、最後の標として形を成す。


しかし、アレンは動じず、瞳に宿る冷たい光だけが、確実にその存在を削ぎ落としていく。


【救済】


【破壊の闇。それがこの世界に存在することから】


救済ヤミの」


「ゆうしゃ」


彼女の口から声が漏れる。

彼女は世界に生み出された破壊の力に目を落とす。ただその力も、今や自分の心の空虚を埋めることはできなかった。


消失する瞬間、銀髪が風に舞う。

彼女は初めて、自分が恐怖を撒き散らす存在ではなく、ただ孤独で自分という存在を壊したいだけの哀れな存在だったことを知る。


最後の力で微笑みを浮かべ、彼女はその身を闇ごと消した。残されたのは、月光に揺れる髪の一筋と、戦場に漂う静かな風だけ。


かつてすべてを恐れさせたハカイは、ただのアレンの記憶として、その心に淡く残ったのであった。


※※※


「おい、大丈夫か?」


アレンが森の奥に向かった後、一人の男が地にへたり込んだ少女に問いを投げかけた。

髪は琥珀。瞳も琥珀。引き締まった身に鎧に包み、その表情はどこか野生味を感じさせる。


「おーい」


「って、泣いてんのか?」


涙をぽろぽろと流す、少女。

その姿に戸惑い、男はその場にしゃがむ。

そして少女の頭を撫でながら、周囲の村の惨状を見渡し、声を漏らした。


「こりゃ……"人為的な闇"の仕業だ。文献で読んだ【破壊の闇】とは違うみてぇだ」


そう。

瞳に光を灯しながら、つぶやいたのであった。


※※※


「救済の、勇者? あ、アレンが?」


「そ、そんなの嘘よ」


王城に連れられ、牢屋の中で事実を告げられたゴウメイとマリア。そして、更に、険しい顔の従者に事実が告げられる。


「もし、その救済の勇者様が闇に堕ちた時」


「世界はーー闇に落ちる。村どころの騒ぎでは済まないぞ」


それを聞き、二人は己の所業を思い出し、顔を青ざめさせることしかできないのであった。


※※※

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