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自らの闇の忌避。その気配を感じ、佇む彼女は閉じていた瞼を開ける。真紅の双眸に、白銀の髪。そしてその身を包むは、闇色の靄。
降り注ぐ月光。白く眩い光。それに身を照らし、彼女は嗤う。口元を歪め、嗤う。
そして、言葉を紡ぐ。
「救済の香りがする」
「むかし、むかし。私を殺した救済の香り」
「それが匂ってくるわ」
声音に宿るは淡い敵意と、羨望。
女の身。その周囲に滲む、闇。
それは月の光さえも喰らい、空間を黒へと侵食していく。
女の双眸に宿った闇。
それが、揺れる。
かつて、己を屠った救済。
それが今ーー現れたようとしている。
ふつふつと湧き上がる高揚感。それに身を震わせ、女は嗤いを響かせる。
「ガレア様」
「ここはわたくしたちが」
反響する二つの声。
呼応し、ガレアの左右の闇の中から二つは現れる。
まるで闇がカタチを為したかのように。
声は男と女。だがその容貌は闇に包まれ、姿は判然としない。
その二つの闇に、ガレアは応えた。
前に視線を置いたまま、問いかける。
「できるの?」
「あなたたちに?」
と。
まるで、諭すかのように。
それに二つは応えた。
自らの闇の身。
それを僅かに震わせーー
言葉を発することなく、その身を再び闇に崩し、ガレアの視線の先に広がる森へと消えていく。
その様を見送り、ガレアは空を見上げる。
そして、闇に染まった両手を広げ、一人、嗤い続ける。
【救済】
その己に脅威を与える、存在。
それが間近に迫っているという現実に、嗤いを響かせ続けるのであった。
※※※
月の光を遮る木々の葉。
時折、葉は風に揺れ、微かな月光を地へと降り注がせる。そんな淡い光と闇に彩られた森の中を、アレンは進んでいた。
人の手が届かぬ森。その中を、淡々と。
【救済】
【森が行手を遮ることから】
その力により、森の木々と生い茂る草々はアレンの行手を阻むことはない。闇に包まれ、アレンの進む先の森は自然とその身を空けていく。
アレンの身体。そこに触れぬように。
まるで、自ら道を開けるように。
アレンが進む度、アレンの身に触れる闇の気配は濃くなっていく。【救済】ではなく、【破壊】の意思が宿る闇。
その深淵が更に増していくのを、アレンは鮮明に感じていた。
しかし、アレンの歩みは止まることはない。
ただ、前に見据えーー
だが、そこに。
「救済の」
「勇者」
抑揚のない二つの声が響く。
足を止める、アレン。
声は更に染み渡る。
「だが、その闇」
「かつての光に満ちた救済。ではないわね」
「なにモノだ」
「救済の臭いが混じった闇ーー"光から堕ちたモノ"かしら?」
アレンは答えない。
しかし、静かに意思を表明した。
【救済】
【声の主。その姿が見えぬことから】
救済は、アレンに応える。
そして、二つは現れた。
アレンの視線の先に。まるで、影のように。
男と女。
闇のシルエットのみのその存在の二つ。
それを見据え、アレンは更に意思を表明した。
【救済】
【目障りな二つのモノの干渉から】
無機質な表情。
それをもって、一切の躊躇いもなく。




