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救済の闇  作者: ケイ


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ダークウルフの畏れの意味。

それを通じ見えた、村。

加えて、その奥に広がる森の中の廃墟。


そこへと続く道。

アレンはその道を迷いなく進む。

月は雲に隠れ、光源は無い。

しかし、アレンの闇は確かに、アレンをソレへと導いていた。アレンの意思。それに応えるようにして。


※※※


「夜がくる。夜が、くる」


その村は、夜を恐れる。

それは、闇が現れるから。

あの日以来。毎夜、毎夜。


そして、無情にも日は落ちる。

そして、夜の帳が村を覆う。


空気は異様に重く、冷たく淀んだ匂いが鼻腔を突いた。遠くの森の木々がざわめき、風はないのに葉がざわつく。

人々は家の戸を固く閉ざし、子どもたちは母親の胸にぎゅっと抱きつく。だが、その小さな恐怖は、まだ序章に過ぎなかった。


闇は、静かに、しかし確実に村を蝕んでいく。

道端の小屋の窓に影が差し込む。形の定まらぬ黒い影が、木造の壁を這い回る。

戸を叩く音もなく、ただ空気がねっとりと重く揺れるのみ。

家畜の鳴き声が一斉に止み、犬や猫は恐怖に身を震わせながら小屋の隅に伏せた。


しかし、その夜はそれでは終わらなかった。


闇は次第に形を帯び、人の目に見える存在となった。黒い触手のようなものが、農具小屋を破り、中の稲穂や木箱を引き裂く。

叫び声が夜に溶けるが、誰も助けに行けない。恐怖に凍りついた人々は、息を潜めるしかなかった。


そしてついに、闇は村人の家々へと侵入する。


戸を打ち破る音、ガラスが砕け散る音、赤い血の匂いが風に混ざる。

家の中で倒れる人々の手足が、暗闇の中で影のように揺れる。逃げ惑う者は路地で闇に絡め取られ、地面に倒れたまま意識を失う。夜風に混じるのは、もはや風ではなく、絶望そのものの匂い。


村全体が恐怖で凍りつく中、闇はまるで生き物のように脈打つ。

屋根を揺らし、石畳を抉り、広場の井戸から黒い煙のようなものが立ち上る。月明かりは一切届かず、闇は村を完全に覆い尽くす。

声も、光も、温もりも――すべてが喰われ、ただひたすらに生気を奪われていく。


残ったのは、冷たい静寂と、地面に散らばった微かに揺れる血の赤。


その中に、一人立ち尽くす少女が居た。


目は虚。

その身は震え、もはや声を出すことさえできない。


闇は、その少女に意識を向ける。

闇に意識などない。しかし、闇はナニカの意思に従うように少女を喰らおうとする。

腹を空かせた獣。それを思わせるような挙動をもって。


「たす、けて」


少女は涙をこぼしぎゅっと瞼を閉じ、そう心の中で思いを紡ぐ。

しかし、それを嘲笑うように、闇は少女へとその身を伸ばさんとした。


大きく闇を広げーー


だが、そこに。


※※※


【救済】


【少女の前に存在しないことから】


少女の前。

そこに、アレンが現れた。


吹き抜ける冷たい風。

それに少女は目を開けた。


黒のローブに、黒髪。

その身にもまた、闇が纏わりつく。


しかしその闇は違っていた。

村を蹂躙した闇。それとは、どこか違っていた。

どこか哀しげで儚い。そんな、闇。

喰らうことを目的とした闇。それとは、違っていた。


「ーーッ」


闇はうめきをあげ、空間を歪める。

まるで邪魔をするな。と言わんばかりに。


【救済】


【闇の侵食から】


刹那。


闇は、退く。

まるで、抗えぬ意思に命じられたかのように。

同じ闇。にも関わらず、忌避すべき存在だと言わんばかりに。


一歩、アレンは前に踏み出す。

合わせ、闇は更にその身を退かせる。


【救済】


【この空間に救済ヤミ以外の闇があることから】


行使された、アレンの力。

呼応し、闇はその場から消失。


倣い、空から月が顔を覗かせる。


二人は月に照らされ、そこに佇む。

白光の中、アレンは少女を仰ぎ見、しかし、すぐに前に向き直った。


己の視線の先に広がる森。

そこより滲む闇の気配。

それに意識を向け、アレンはその歩みを進める。


淡々と。一切の畏れを抱くこともなく、ただ無機質に前へ前へとーー。

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