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救済の闇  作者: ケイ


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14/39

屋敷の影が徐々に遠ざかる。


アレンの足音。それだけが夜の静寂に吸い込まれていく。

冷たい風が吹き抜け、樹々の葉はざわめく。

その葉が揺れる様。それはまるで、アレンの纏う闇を畏れ深緑の身を揺らす小さき者のよう。


「ーー」


耳の奥に響く主なき声。

その声は、アレンにのみ聞こえる声。


救済の勇者。

その存在に救いを求める姿無きモノたち声の反響。


「たす、けて」


呼応し、アレン胸の奥で胎動する闇。


響く声。

それは、ただの声ではない。

見捨てられた者たちの叫び。踏みにじられた者たちの声。そして救われることを望み、それを叶えられなかった魂すべてが形となったモノ。


街灯のひとつもない小道を歩くたび、闇はアレンの肩に寄り添い、時に指先にまとわりつく。

まるで自らたちも、アレンに救済を求めるように。


月が雲に隠れる。

呼応し、風が消える。

声も、消える。


しかし、アレンの双眸に蠢く闇は、光を取り戻すことはない。


家々の明かりがぽつりぽつりとアレンの視界を照らす。

だがその光は、アレンの目には蝋燭の灯火にしか見えない。そう、ただの蝋燭の灯火にしか。


どれほど、歩みを進めただろう。

アレンは静寂の街並みを抜け、波のうちつける波止場に佇んでいた。


黒々と広がる夜の海。

風に撫でられ、うねるその黒々とした海面。

それはなにか巨大な漆黒の獣のようで、言いようもない恐れを心に植え付ける。


月は三度、その顔を雲の隙から覗かせた。


そして海に浮かぶ一条の光。


アレンはそれを見つめ、【声】に意識を向ける。

闇がアレンを包み、アレンに声を聞かせた。


深く息を吸う、アレン。


声は応えた。


「救済」


「"我"を」


響く声に力はない。

しかしその声に込められた混じり気のない意思。

それは、人ならざるモノの意思そのもの。


だが、アレンは畏れない。


手のひらをかざしーー


瞬間。


アレンの纏う闇。

それが、異様な広がりを見せる。

だがそれはすぐに収まり、アレンはかざした手のひらを握りしめた。無機質に。まるで、遥か高みから見下ろす存在のように。


救済の勇者。

彼のその闇は蝕んでいく。

じわりじわりと。世界を、その揺らぎない救済ヤミの意思によってーー。


〜〜〜


同時刻。


「知らない。わ、わたしはなにも知りません。た、ただ。あの日の夜に彼と一夜を共にしただけではありませんか。それは……こ、この村の風習です」


「あ、アレンは確かに俺の子だ。だ、だが。アレンが今、どこで何をしているか? なんてこと。わ、わからねぇに決まっている」


ゼラスの屋敷。

その応接室にアレンの幼馴染マリアとアレンのゴウメイは、連れ出されていた。


騎士たちの手によって。

半ば強引に。


二人はその場になぜか正座させられている。

硬い床の上。そこに、まるで罪人のように。


そして、その二人の眼前にはゼラスと従者の姿が佇んでいた。

二人の表情は対照的で、ゼラスは血の気が失せ、従者は怒りを押し殺しているかのよう。


口火を切ったのは、従者だった。


「貴様ら二人を城に連行する。そして、この村の処遇。それは王と聖女様に委ねることとする」


「いく数人の村人共も連行していけ」


目を見開く、二人。

しかし従者は反論を許さない。


「反論があるなら、王の眼前で聞こう」


「連れていけ」


吐き捨てる、従者。

それに応え、騎士たちは喚く二人の身を拘束し、屋敷の外へと立ち去っていく。


それを確認し、従者はゼラスの耳元で囁く。


「覚悟はしておくことだ。もし勇者アレン殿が、この件をもって闇に心を堕とすようなことがあればーー子々孫々。罪は消えることはないぞ」


そう冷酷に告げたのであった。


〜〜〜

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