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「ジュリア様。此度の勇者……その中に、【救済の勇者】はおられるのでしょうか?」
白の空間。
大聖堂の祈りの間。
そこに、中性的で透き通った問いかけが響く。
そしてその問いかけは、視線の先の彼女に向けられていた。
両膝をつき手を組んだ、祈りの姿勢。
純白のローブ。それに身を包み、姿勢をとるジュリア。
そして、姿勢を崩さずジュリアは言葉を紡ぐ。
眼前に聳える神を模した偶像。そんな色褪せた石像を見上げながらーー
「えぇ。居ますとも。神様がそう仰ったのですから」
そう、熱っぽい声を響かせた。
金系のような金髪。青く澄んだ瞳。雪のように白い肌。そんな神秘的な美しさを醸す、ジュリアの姿。それはまさしく聖女そのもの。
「そして。勇者様は必ずこの世界を救ってくれる。わたくしはそう信じております。きっと、きっと」
言葉を紡ぐ、ジュリア。その表情には滲み出ていた。
【救済の勇者】に対する恍惚とした想い。それが、仄かに赤らむ頬と共に。
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「勇者殿はどこに?」
「あ、アレンですか?」
深くフードを被った、従者の言葉。
それに、白髪混じりの村長は額に汗を滲ませる。
「名はアレン。それが、聖女様がお告げで聞いた名でございます。時間がありません。はやくアレン殿を出していただきたい……村長殿」
口調は丁寧。
だが、その眼差しに宿るのは微かな怒気。
そして従者の側に佇む騎士たちもまた、苛立ちを隠さない。
「これは聖女様の御意思だ。この村の意思。それが介入する余地等、無いと心得よ」
「し、しかし。今は夜半。せ、せめて日がのぼってからでも遅くはありませぬか?」
ゼラスは作り笑いを浮かべる。
「そ、それに。ちょうど今、アレンは出払っております」
「……」
「ぃ、いつ帰ってくるのか。わたくしめにも」
わかりかねます。
響かんとした、ゼラスの詭弁。
だがそれを、淡々とした従者の声が遮った。
「ゼラス殿」
瞳に瞬く、冷たい光。
「なにか隠していることはありませぬか? 貴殿のその目。わたくしには、偽りをおっしゃっている。としか思えませぬ」
同時に、従者は騎士たちに目配せをする。
それに応え、騎士たちはゼラスの屋敷へと押し入っていく。
一切の躊躇いもなく、王からの書簡をその大義名分として。
「お待ちください!!」
焦燥する、ゼラス。
「い、いくら王からの書簡があったとしてもこのようなこと!! アレンはただのーーッ」
瞬間。
騎士の1人は剣を抜き、ゼラスへと突きつける。
そして、吐き捨てた。
「弁えろ。この村の価値。それは、勇者殿の故郷……その価値しかないということを」
「それに。わかっているな?」
ゼラスを睨み、騎士は更に続ける。
「勇者殿を侮辱すること。それは、王。加えて聖女様を侮辱することと同義。この村ごと殲滅してもなお、許されることのない大罪だと知れ」
へたり込む、ゼラス。
それを鼻で笑い、騎士たちは従者の命で村の調査を開始したのであった。
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屋敷を後にした、アレン。
月に照らされ、白く浮かび上がる屋敷。
それを背に、アレンは歩みを進める。
闇と共に。その顔に無機質を張り付けて。
胎動する闇。瞳に蠢く救済の力。
その姿。
それはまさしく、救済の勇者そのものだった。




