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永遠に終わらぬ救済。
それに晒され、ゴーダはうめきをあげ続ける。しかしその声は誰にも届くことはない。
本来なら、屋敷の者がこの場に駆けつけるはず。
だが、アレンの力により、屋敷の者はこの場に来ることはなかった。
【救済】
【屋敷の者全てがこの異常を認識することから】
その力の影響によって。
身を翻す、アレン。
しかし、ソフィはその場に座ったまま動こうとはしなかった。
アレンは少女を仰ぎ見る。
声をかけることなく。じっと、アレンはソフィの小さな背を見据える。
そんなアレンの視線。
それに気づき、ソフィはぎこちなく顔を後ろへと向けた。
そして。
にこりと笑う、ソフィ。
痣だらけの顔。そして、その笑みはどこか儚げでどこか哀しげだった。
「あり。がとう」
「"わたしたちの思い"を」
「すくって。くれて」
染み渡る、ソフィの掠れ震えた声。
「あなた、は」
「わたしたちにとっての」
「ゆうしゃ。さま」
「ばい、ばい。ゆうしゃ、さま」
「すくってくれて。ほんとに、ありがとう」
ソフィは枯れ木のような手を振る。
その瞳からつたうのは、ソフィが生まれてはじめて流したであろう温かな涙。
それに、アレンは悟った。
救われたソフィ。
その存在との別れだと。
前に向き直り、歩みを進めるアレン。
闇に濁った双眸。そこに、救済と微かな光を宿しながら。
ソフィは、アレンの背を見つめる。
潤んだ己の瞳。そこに、救済という名の闇を宿しながら。
よみがえる、記憶の中の思い出。
"「ソフィ。いつかきっとゆうしゃさまがわたしたちをすくってくれる」"
"「う、うん。だから」"
"「みんなでかんばろうね」"
手を取りあい、みんなで励まし合った。
ゴーダの拷問と暴力に耐えながら、みんなで。
「すくってくれた。すくってくれたよ、みんな」
響く、幼く思いの込められたソフィの声。
その声にアレンは最期に残した。
【救済】
【ソフィをこれ以上の不幸から】
そんな救済をソフィに施したのであった。
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その頃。
アレンの去った村に、王都からの使者が訪れていた。
王城の紋章。それが刺繍されたローブに身を纏い、数人の甲冑姿の騎士を引き連れて。
「王からの書簡」
なる物。
それを携え、夜半、使者は村長の屋敷に。
そして、その書簡にはこう書かれていた。
"聖女様。その御言葉により、この村に現れたであろう勇者殿を王城へと。きたる闇との戦。その為に"
"各地の勇者。既に数人は招集に応じ、王都へと"
その内容に、村長の顔から血の気が失せる。
そしてそれは、自らたちがアレンに犯した所業が誤りだと知るはじまりの序幕に過ぎなかった。
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