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救済の闇  作者: ケイ


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軋む空間。

アレンの拳。それは、大気を震わせ振動させる。

沈む、クリスの身。

顔は原型を留めず、もはや人であったことさえわからない。


【救済】


【二体の亡骸を見ることから】


拳から血を滴らせながら、アレンは力を行使。

呼応し、レオナとクリスの亡骸がソコから消失する。

音も無く闇に包まれ、最初からソコにはなにもなかったかのように。


身を翻し、アレンはその場から離れる。

表情は無機質。瞳には揺らぎない闇。

そんなアレンに縋り、少女は共に歩む。

ふらつき。アレンを唯一の心の拠り所にして。


"「わたし。あした。村をはなれることになったの」"


"「でも。だいじょうぶ。こうえき?のまちだから。たのしいこと。たくさん」"


縋る少女の姿。

それに、アレンは記憶の片隅に残る名も知らぬ少女を重ねる。

朧げな記憶。幼き日の温かな思い出。


そして、二度と。

少女は村には帰ってはこなかった。


双眸にゆらめく闇。


【救済】


【クリスとレオナ。その二人をアレンに差し向けた相手。それを知らぬことから】


救済の闇は、アレンに応える。


アレンの脳内。

そこに浮かぶ、豪奢な屋敷と一人の男の姿。

名は、ゴーダ。


歩む、アレンと少女。


その二人を照らす、月の光。

それは純白。しかし、二人の瞳に揺らぐ闇は黒く。途方もない漆黒に彩られていた。


〜〜〜


時は既に経っている。

だが、吉報はゴーダの元には届かない。


「くそっ。遅いッ、遅すぎる!! 何をやっているんだッ、あの二人は!!」


怒りを露わにし、ドンッと窓を叩くゴーダ。


「あんな奴隷ゴミを殺すことなど容易いはずだッ、それなのになぜッ、俺の元に報せが届かない!!」


既に雨はあがり、月が街を照らしている。

窓の外に広がる静かな街並み。白く月光に照らされたその景色はどこか神秘的な美しさ。


だがそれとは対照的に、ゴーダの心中は穏やかではない。


あれから数時間。時が経った。


ゴーダが下した命。

それは、元奴隷を始末すること。

あのクリスとレオナの力があれば、赤子の手をひねるほどに簡単な命令のはず。

それなのに、なぜ。


ゴーダは、唇を噛み締める。


こうなれば、更に傭兵を雇い……いや。その金があれば、新しい奴隷をまた、"あの村"からーー


歯軋りをし、更に思考を重ねようとしたゴーダ。


だが、そこに。


ゆっくりと扉が開かれる音が響く。

その音に、ゴーダは忌々しく声を発する。

振り返らず、窓を見つめたままの格好で。


「遅いぞ、クリスにレオナ」


「当然。あの元奴隷ゴミは始末してきたんだろうな?」


声は返ってこない。

それにゴーダは、更に声を響かせた。


「まさかとは思うが……始末はできなかった。と答えるつもりか?」


「ふんっ。もし、そんなことを言ってみろ。お前らとの契約は全て破棄だ。もちろん。これまでに支払った金品もすべて返してーー」


もらうぞ。


しかし、ゴーダの声はそれ以上、響くことはなかった。


【救済】


【肺が呼吸をすることから】


刹那。

ゴーダは胸を抑え、目を見開く。

その目は血走り、まるで陸に打ち上げられた魚のよう。


口をぱくぱくさせ、振り返るゴーダ。

そんなゴーダの視線の先。


そこには、漆黒の闇に包まれた二人ーーアレンと少女が佇んでいた。

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