東方修練7
大変遅れてしまい、、、3000字あるので許してくだせぇ
「[血業]アルズフィート」
黒髪の男の手に血の大剣が象られる。所々が赤い液体に変化し剣先から滴る。またある部分は黒いモヤとなり宙に消えていく。
まがまがしいとしか形容できないその大剣で、男は自身に迫るフィアーの根へと振り下ろす。
(治りが遅い。断面から血が侵食しているのか)
大剣は、黒髪の男の魔術式によって創られたもの。であれば大剣は吸血鬼の特性を持っていて然るべき。
半オートで回復できるからあまり気にしなくても良いものの、下手に深部まで侵食されれば乗っ取られる。
この大剣でさっさとラッツェルディーンに止めを刺さなかったこと、加えて大剣でフィアーの攻撃を全て捌ききり、血の鞭でラッツェルディーンを間合いに近寄らせていないという現状。
これらからして先ほどまでは、
「随分と遊んだみたいだな」
「肩慣らしにな。魔術はまだ得意ではない」
はっきりと不得意と答える奴のその得意でないものに二人がかりであしらわれている。それがフィアーには癪にさわった。
「『硬質化』『表皮堅固』」
自身の体を可能な限り堅くする。栄養を常時地面から吸収し、回復し続けられるフィアーと違い、黒髪の男の種族は人間。疲労が蓄積する。大剣の切れ味がどの程度のものかはフィアーには分かりようがないが、それでも柔らかいものより硬いものを切り続ける方が負担になることに違いはない。
男に不快なことをされたのだ。自分もやり返してやるのが通りだろう。そんなフィアーの嫌がらせだった。
そうしていくばくかの後、異変が起こる。
「ん?っ!!まさかやられやがりましたか!?」
ラッツェルディーンの体がポリゴンとなり端から消滅しだしたのだ。ちょうどそれは、レブナントに追い詰められたフーリンが喉に杖を突き刺したのと同時刻だった。
「20秒で戻りま─────
ポリゴンとなって消えたラッツェルディーン。これで、ラッツェルディーンが戻るまでフィアーただ1人で黒髪の男と対峙しなければならないこととなった。
「[流血]ヤハール」
黒髪の男がぶれ、周囲の枝全てを切り裂く。切れ味の上がった大剣を前にしては、かなり強化したとはいえフィアーの枝や根では硬度が足りなかった。
ならば、斬られない程度まで硬度を上げればいい。
「『紅葉』」
フィアーの髪が赤く色づく。
「『紅葉。それは秋の訪れ。紅葉。これは寒さへの備え。さあ、いざ舞わん』『落葉』」
突風が起こり、迫る黒髪の男の足を止める。フィアーの主要な幹や根を残し、残りの枝葉や根が突風に乗って黒髪の男へと吹きすさぶ。
「輩どもには枯れ木などと揶揄される。不快故にあまり使いたい技ではないのだが、、、背に腹はかえられない、か」
ティアーを見やれば、頭上は落ちた葉の代わりに枯れ枝が覆い、幹も何処か先ほどまでのみずみずしさなどは感じられなくなっていた。
「βの際の樹皇人は使わなかった技だな」
先ほどまでの枝とくらべ、妙に遅く迫ってくるティアーの枝や根を大剣で弾きつつ、男は問う。
「あれは雌株だろう?女どもは滅多に落葉は使わない。例え死に際だとしてもな。プライドの為に死ぬなど馬鹿馬鹿しい。ファッションとして紅葉までなら行う奴もいるのだからなおさらだ」
例外の尊敬する上司を思い浮かべつつ、ティアーは会話を続ける。例え硬度が跳ね上がる落葉を使っていたとしても、一対一では不利なのだから。少しでも時間を稼ぎたい。
「『血変』ダブラ」
ラッツェルディーンの跳び蹴りを、黒髪の男は体を血液に変えて回避した。
「遅くなりました」
「3秒の遅刻だ」
再び、二対一となる。血の大剣をティアーが防ぎ、隙をついてラッツェルディーンが男へと拳を叩き込む。
「4つ、でしょうか?その術式、制限がありますね」
ラッツェルディーンは、戦闘の中で黒髪の男の魔術式がどのようなものなのかを考察していた。本人が言ったように、魔術の練習も兼ねているからか、黒髪の男は戦闘中かなりの種類の魔術を使用していた。
血蔦、従躁、霧化、血楔、血業、?、血変。
通常、魔術師が使用する魔術は多くて三種類だ。基本は一種類。いざというときにと二種類の者もいる。三種類で変人か情弱扱いとなる。
何事もそうだが、幅広い程極めにくく、狭い程極め安い。
魔術は、それが強さに直結する。可能な範囲が大きい程極め難く威力が弱い。簡単なもの程極め安く威力が高い。
『奇跡を起こす』魔術と、『火の玉を出す』魔術。どちらがよりより簡単で威力があがるかだなんて誰の目にも明らかだろう。
そんな常識があるなかで、黒髪の男はこの戦闘中にすでに7種類も使っている。当然やることが多く、練度もばらつきが生まれるか、総じて低くなる。
『吸血鬼の特性』という一つの魔術として体系化していたとしても同様。漠然としすぎていて熟練するのは難しく、そも名前をつけて分けている時点で個別の魔術を複数使用するのと変わらない。
無茶であり、無謀である。だが、それをある程度使える様にする方法がある。制約だ。
同時に○○個までしか使えない。○○では使えない。○○には使えない。○○をしてはならない。
様々な種類があるが、共通するのは制約を科すだけで魔術の威力があがることである。
血蔦、従躁、血業、もう一つ。ラッツェルディーンは確認していないが、ティアーの姿が変わっていることと、大剣の様子からしてもう一つか二つは術式が使われていないとおかしい。
それが、血変の段階で血蔦(おそらく従躁も)が解除され、大剣だけで戦っている。制約の個数は、四つか五つだと考えられる。威力からしてラッツェルディーンは四つだとみた。
(だとしてもその程度の制約で私の無頼乾坤に打ち勝ったのは癪ですが)
「そうだな。今は4つだ」
そんなブラフも込めたラッツェルディーンの問いかけに、黒髪の男はあっさりと答えた。
だが、それとは別の驚きをラッツェルディーンは感じていた。
(今はって、これ以上増やす気ですか。そこまで多様かして何でもアリな魔術師になろうでもしてるんですか?)
不快感を覚えつつも、応戦し続ける。
三人の均衡を破ったのは、祟る弑すのギルマスの声だった。
「だったら早く退散しないといけないな。エルバス」
呼び掛けられた黒髪の男、エルバスの大剣が、伸びた。
「[爆血]ファハン」
突き刺さったティアーの枝ごと、ラッツェルディーンが大剣の爆発に呑まれた。
「あと10秒で終わらせる」
淡々と答えたエルバスの腕には、新たな大剣が握られている。
振り下ろされ、先ほどまでと同様に受け止めようとしたティアーの枝ごと、幹が大剣によって引き裂かれる。
(!? 膂力が上がっている!!)
ドンッッ!!!
エルバスは、そのまま強引にティアーの心臓部へと大剣を突き刺した。
「[爆血]ファハン」
ドォォォォン!!!!!!!
ティアーの上半身が文字通り木っ端微塵となって吹き飛んだ。
崩れ落ちるティアーの姿には目もくれず、新たに手に生まれた大剣でラッツェルディーンを切り裂く。
逃げられようと関係がない。エルバスの大剣は剣身が伸びる。
防がれようと関係がない。圧倒的膂力で無理矢理にでも引き裂く。
(この膂力。髪色。間違いない。この男の出身は、、、!!だとすれば、今までの私との戦闘は戦闘と認識していなかったということですか!?)
「[爆血]ファハン」
ドォォン!!!
死ぬまでに猶予があるように、下半身だけを吹き飛ばす。死んでしまえば、従魔である以上何らかの方法で万全の状態で復活する可能性があるからだ。
「終わった」
「相変わらず無茶苦茶だわぁ。たった3秒で終わらせるだなんてねぇ?」
「流石エルバスだ。ラフィーの準備はできている」
祟る弑すのギルドマスターが後ろに立つ少女に視線を向ける。向けられた少女は顔を赤らめてこくこくと頷く。
「さぁ、帰ろう」
ギルドマスターのかけ声に、祟る弑すのメンバー全員がラフィーと呼ばれた少女の元へ集まる。
「『転移─────
因子『ユニコーン』
「『聖域結界』」
ラフィーの発動するはずだった魔法は、とある少女の見た目をしたナニカによって遮られた。
「正義は遅れてやってくる。赤塚もそう言っていた。とはいえ多少遅刻した感は否めない」
森からがさごそと出てきた、ユニコーンの角を生やしたナニカ。それは紛れもなく先代の勇者であり、それは紛れもなく異物と直感できる異質さをもっていた。
(先代)勇者ニコラ・ステラ
可愛い吸血鬼な女の子。流行ものが大好き。年齢は乙女の秘密。とはいえ出会えばファープルが「ナニコレ知らない」となるので600歳よりは下。
まな板の右側に聖痕が刻まれており、その聖痕の力を解放する『聖痕解放』から発動される能力『ゲノム』は恐ろしく危険。
『ゲノム』
今までに救った種族の因子を自身に出現させる。




