09 星屑の光
森の出口へ歩きながら、魔法使いはアラン親子に事情を説明してくれた。
「それじゃあ、僕たちが森を助けることができるかな?」
「少し時間はかかるけれど、精霊たちの許しをもらえれば、森への出入りも今よりもずっと楽になるはずよ」
魔法使いの言葉を聞いてアランの父親も「それなら大助かりだな」と口をはさむ。
「ここ何年か、森に入ると慣れた道を歩いているのに迷ったり、ケガをする村人が増えていたんだ。誰かに嫌がらせされているみたいにな……」
まさか嫌がらせをしてきた相手が精霊とは思わなかったらしい。
「答えと結果を急がないこと、ね」
「また、さっきみたいにお話しするの?」
不安げな少年に魔法使いは頷く。正直平和的な話し合いには見えなかった。
「何度でもむこうへ出向いていかないと。交渉の扉はつねに開け放しておかなきゃならないの」
「わかった。俺たちもできるだけのことは協力しよう。今日は助けてもらって本当に感謝する」
父親の真摯な態度に、アランも慌てて居住まいを正す。
「僕も、助けてもらってありがとう! それから……魔法使い、またあなたの家に遊びに行ってもいい?」
もじもじした少年の態度に、魔法使いは肩を竦めて溜息をついた。
「アラン。さっきの私の話を聞いていなかったの?」
「え?」
なにか彼女の不興を買ってしまっただろうか、とアランは困惑する。
「私の名前はポーシャ。村長さんにも言ったんだけど、村のみんなにもそう伝えておいてちょうだい」
「う、うん! わかった……!」
「ちゃんとお家の人に許可をもらってから遊びにきなさい。でないと、そのコに頼んで送り返すことになるから!」
そのコというのは、やはりアランのそばで飛びまわっている精霊のことである。
「子供扱いしないで! 私の名前はウィンディよ!」
「ウィンディ?」
早速友達ができてよかったな、なんて父親はアランの肩をポンポンとたたいた。
返事に困っているアランの目が、小さな淡い光を捉えた。
「あの光は?」
森の小径を出口に向かって歩いていくと、光は数を増していく。地面に広がる無数の光にアランは息を飲んだ。
淡い光は黄金色とはまったくちがうものだった。
真っ白い月のような、小さな星屑が点す夜空の彼方に見える星ようような。
「これが星屑草の開花だ。おまえ、見たことがなかっただろ?」
圧倒されているアランの背後で父親が声をかける。小さな花弁が月光を反射して花そのものが光っているように見えるらしい。
夜に花を咲かせる性質のため、アランは星屑草の開花光景を見たことがなかった。
「すごい……こんなに綺麗だとは思わなかった!」
――あれ、でもこの花の色……
「この花、ポーシャの髪と同じ色だね」
隣に立つ魔法使いを見上げる。彼女の長い髪が、地面で咲く花の色に似ているのだ。
「私もはじめて見た……星屑草の花は。本当に母が話してくれたとおりだったのね」
「お母さん? ポーシャのお母さんは星屑草を見たことがあったの?」
「どうだったかしら……さて、と」
ポーシャは群生する星屑草からアラン親子へ視線を戻した。
「今夜は私が村まで送り届けましょう。ウィンディばかりあてにしては可哀そうだものね」
「うん」
精霊も自分の名前を呼んでもらえたことが嬉しいようで弾むように飛びまわる。
――これから楽しくなりそうだな。
アランは、魔法使いが村に新しい風を運んできてくれた気がした。
これからカタルの村で、そして星屑の森でなにが起きるのだろう?
夏の風が小さく木々の葉を揺らす。
村への道を辿る三つの影を、月が優しく照らし続けていた。




