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星屑の森の魔法使い  作者: 灯野あかり
第2章 星屑の森の魔法使いとくせ毛のアヒル
32/48

23 解呪(4)※挿絵あり

 ――火狼の目的はなんだろう。


 姿を消した狼が、星屑の森に留まっていると魔法使いは確信している。

 外はすでに日が暮れかけていた。


「なぁ、そろそろ家に戻らないか?」


 寒さに身を縮めたディランの提案に、やっと気持ちを切り替えた。彼が剣を鞘へおさめる姿を見て、やはり剣士なのだと感心する。

 なぜ彼は上半身だけ裸なのかは疑問だが。


「あなた、どうして服を着てないの?」

「慌てて肩にひっかけたからな。途中で落ちたんだろうさ」


 ディランはいい加減な答えしかよこさない。人間に戻ってからも困った人だと呆れたが、彼の左腕にあるあざを見てポーシャは愕然とした。


挿絵(By みてみん)


「ディラン、その腕の痣は?」

「ああ、これか。昔からあるんだ」


 そう言いながらディランが指さしたのは左の上腕にある菱形の痣だ。さらに輪郭を細い線で縁取られている。

 一見刺青とまちがえそうなものだ。


 ポーシャの記憶が、以前見たことのあるものだと訴えている。


 ――この痣、たしか……!


「あれ? この痣、色が薄くなったような……まえはもっと濃かったんだが」


 ディランは腕を捩り不自然な姿勢で腕に痣を観察した。


「この痣がどうかしたのか?」

「いいえ。肩が少し腫れてるようだけど、どこかにぶつけたの?」


 ポーシャが指摘したのは痣の左側の肩が打ちつけたように赤くなっていた箇所だ。


「それは玄関の扉を――」


 言いかけて、ディランは言葉を飲んだ。答えるとまずいと思ったのか。


「玄関……?」


 その言葉をオウム返しにしたポーシャは、ようやく違和感の正体に気づいた。


「あなた、玄関をどうやって出てきたの? あそこには魔法をかけて――って、扉! 玄関の扉を壊したわね!」

「あの扉が強情なんだよ、扉の把手とってを捻っても開かないし……急いでたんだって!」


 屋敷全体が外敵からの侵入を防ぐために防御の魔法をかけてある。屋内に結界を張り巡らせる要領だ。

 案の定、屋敷へ戻ると玄関の扉は見事に内側から壊されていた。扉に体当たりを繰り返したらしく衝撃で蝶番ちょうつがいが壊れている。そばには犯人の上着が落ちていた。

 屋敷内に冷気が吹き込むのは困るので、止むを得ず蝶番に再生の魔法を使い応急処置を施した。


「ポーシャ! ディラン!」


 ふたりの心配していたアランが大喜びでポーシャに飛びついた。


「ふたりとも大丈夫? あの狼は?」


 居間の暖炉には火が点されていた。自分が火をつけたのだとアランは誇らしげに答える。

 少年が点した暖炉の炎をまえでポーシャはアランが理解できるように言葉をかみ砕き説明した。


「狼は……今日のところは帰っていったわ。でも、また現れるかもしれない」

「そうなんだ。あの狼、帰る家があるの?」


 子供にとっては素朴な疑問だったのだろう。大人たちは顔を見合わせ返事に困った。

 狼のねぐらがどこにあるのかもわからないのだから。ねぐら自体ないのかもしれない。


「私にはわからない」

「そうなんだ……今度会ったときに聞いておかなきゃね」


 アランの言葉に、魔法使いは「そうね」と言って苦笑した。


「な、なぁ、ポーシャ。あれはなんだ?」


 ディランが恐る恐るフランス窓の外に見える小さな光を指さした。即座に反応したのはアラン少年だ。


「ウィンディー、会いたかったよ! 今日はどうしたの? 全然顔を出さないから遠出してると思ったよ!」


 アランがフランス窓をわずかに開けると、隙間から風の精霊が飛び込んできた。


「私もアランに会いたかったけど、新顔の狼がギラギラして怖いもんだから、森中の精霊が隠れて様子を見ていたの!」


 風の精霊ウィンディーは、森に散策にきたアランと出会って以来なにかと行動を共にしている。


「あの狼、ウィンディーたちにも嫌なことするの?」

「そうじゃないけど、急に森の西から入ってきてうろつくようになったの。火狼ってみんなはじめて見たからびっくりしちゃってるの」


 ウィンディーとアランが話しているあいだ、ディランは石のように固まっていた。


「あれは、なんなんだ?」

「風の精霊よ。魔法が解けたら、あなたも見えるようになったのね」


 魔法使いの言葉に、ディランは「えっ」と声をあげる。星屑の森へきてからの記憶を遡ったようで、ようやく当初からの疑問が解けたらしい。


「アランの独り言って、アレが原因だったのか?」

「そうよ。子供のころには目に見えないものが見えてしまうことがあるの。潜在的に魔力を秘めている場合もあるけど……ああ、いけない! 夕飯の支度をしなきゃ――」


 ポーシャは慌てて台所へ向かう。日も暮れて実際にみんなが空腹だったのもあるが、本当はディランからの追及をかわす口実なのだ。


 ――魔法が解けたとたん、急に精霊が見えるようになるなんて。


 現段階では納得のいく説明がつかなかった。

 見る「力」がなければ大人が精霊を目にするのは稀なことだ。


 ――あの痣は、やはり……


 ポーシャは、ディランの魔法不干渉体質と腕の痣の因果関係にひとつの可能性を見出していた。


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