02 深まる秋(2)
サディアスがほのめかしたのは、わが子の産みの親を突き止めたいという意図だ。
「人の血脈を遡る魔法がないとは言いわないけれど、どこの誰と特定できるものではないんです」
ポーシャは表情を変えることなく、サディアスの質問に添う答えを聞かせる。本人の髪を使った術でも、先祖が大陸のどの民族に分類されるかがわかるくらいだと。
「それに、アランは何も知らないのでしょう?」
ポーシャの言葉にサディアスはぎこちなく頷いた。
「ならば、答えを急ぐことはありません。アランが事実を知ったうえで、産みの親について知りたいと望むなら、そのときは私も力になります」
「そうか……そうだな、うん。そのほうがいいな。アイツに選ばせてやるべきだ、な」
サディアスは何度も頷いた。まるで自分自身を説き伏せるように。
家を離れるまえに気がかりなことは片づけておきたかったのだろう。身近に魔法使いがいる影響かもしれない。
「あんたに相談できてよかったよ。なんでも魔法に頼るのはまずいな」
どこか吹っ切れたように、サディアスは自嘲気味に笑う。
「春まで……俺が村に戻ってくるまで、どうか家族を頼む。アランはこの森が好きだし、あんたに懐いている。見守ってやっていてほしいんだ」
なぜサディアスが自分に家族のことを頼むのかポーシャはわからなかった。魔法使いというだけでそこまで信頼を寄せるものだろうか。
しかし、自分を信頼して森の手入れにも協力してくれた彼には感謝している。頼みに応えてやるのもおかしなことではないはずだ。
「わかりました。干渉が過ぎない程度に見守ることにします」
「……ありがとう」
ポーシャの言葉に安堵したのか、緊張の解れたサディアスは肩から力が抜けてしまったようだ。
それから数日して、彼は家族に見送られて王都へ出発した。
妻と可愛い子供たちを養うために。
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働き手の男たちが出稼ぎに行くと、残されたカタルの村の者たちは冬支度に専念する。
若き魔法使いポーシャも例外ではない。
お偉方から田舎の森に行けと言われても苦ではなかった。魔法使いといっても、ポーシャは本来、薬草学の研究を主としている。
薬草学の第一人者であった母親の仕事を継いで魔法と並行して薬草について学んできた。併用すれば多くの人を癒すことができる。
かねてから星屑の森には、そこでしか採れない薬草の固有種があると聞いていたので、長老たちから辞令を受けたポーシャは胸が躍った。
人の手が加えられていない森ならば薬草の採取も研究も自由にできる。
しかし、研究以前に派遣先で迎えるはじめての冬には万全の備えで臨みたい。
だからこそ、目のまえの薪わりが今現在悩みの種になっている。暖炉にくべる最低限の薪を確保しておかなければ……。
「体で覚えていくしかないわね!」
数をこなして、効率のいい方法を自分で見つけていくしかないだろう。
いったん斧を梼に立てかけて、長い髪を結び直す。気を取り直して、再度斧に手を伸ばしかけたときだった。
「ポーシャ!」
小径から歩いてきたアランが元気よく手を振っている。父親が不在で最初は寂しがっていたが、いつもの明るさを取り戻したようだ。
はしゃぐアランの背後に小さな荷車を引く男の姿を認め違和感を覚えた。
男性は村の者ではない。
「お客さんを連れてきたよ!」
――お客……?
アランの陽気な声に、魔法使いは首を傾げる。星屑の森へ移り住んだ三か月のあいだ、村人以外に魔法使いのところへ相談にやってきた者は誰一人としていなかった。
「この人が助けてほしいんだって」
少年の言葉に再度客と思しき男性に視線を戻す。
長身の男は、近づくにつれてなかなかの美丈夫であることがわかった。だがポーシャとは一面識もない相手であることに変わりはない。
「この森に住んでいる魔女というのはあなたのことはですか?」
はじめて対面した「客」は、柔和な笑みを浮かべて魔法使いにそう尋ねた。




