01 深まる秋(1)
男たちが王都へ出稼ぎにいくなか、村は冬支度の準備に突入。
森に住むポーシャも例外ではなく薪わりに大苦戦しているところに……
斧を持った両手に鈍い衝撃が伝わる。
――失敗だわ
斧の切っ先は薪を真っ二つに割ることができなかった。刃が途中で止まり、「刺さったまま」の状態だ。
ここ三ヶ月で森の自活に順応できたポーシャだが、薪わりだけは苦戦を強いられている。
薪わりが順調に進めば時間をもっと短縮できるだろうに、と溜息まじりで再度挑戦する。
その気になれば魔法で木材など木っ端みじんにできるし、薪の太さも自由自在に切りわけられる。だが、むやみに魔法を使わないよう心がけている魔法使いは薪わりごときで力を持ち出したりはしなかった。
星屑の森の守護および監視する命を受けた魔法使いポーシャは、根気強く精霊に人間との共生を呼びかけている。
その甲斐あってか、夏の終わりに条件つきで村人たち森に入ってもいいと精霊たちの許しが出た。
日中のみ、子供を連れた者だけ森への出入りを許すという風変りな注文だ。
村の子供たちは大半が学校へ通う年齢に達している。体裁を気にして学校を休ませてまで森へ収穫に出かける者はいない。
ほとんどの村人は学校が休みの日だけ、子供や孫を連れて森に入ることになった。
限定された時間では森からの収穫も採り過ぎることがないのだろう。今のところ精霊からの苦情は出ていない。
むしろ、村では前年まで期待できなかったきのこ類の収穫ができて祭りのような喜びようだ。
「秋にこれだけ森で収穫できるなら、協力できることは何でもするよ」
女性と子供はきのこや木の実を摘むあいだ、男たちは立ち枯れ寸前の木や、日光を妨げる木の伐採を率先して行うようになった。
村長の許可もあったし、アランの父・サディアスが音頭をとったことも村人たちが協力してくれた理由のひとつだろう。
アランの父親は村の人々からの人望が厚いようだ。
そんな彼も紅葉がいよいよ鮮やかになってきたころ、出稼ぎのため王都へ出かけて行った。
+ + + + + +
「アランは俺の、実の子じゃないんだ」
旅立つ数日前に、サディアスが家族とともにポーシャの家を訪ねてきたことがあった。
サディアスが、妻と子供たちが庭先で遊ぶ合間を見てポーシャに聞かせた言葉だ。
アランの母親は夫と息子を助けてもらったことに礼を言ってくれたうえ、たくさんの品物を差し入れてくれた。手作りの焼き菓子から保存のきく調味料、とにかく実用的なものばかりを選んである。さすが家族を支える母親だ。
「女房が若いときに体をこわしてな、医者からは子供が産めないだろうって言われてたんだ」
過去をふり返るような遠い目でサディアスは説明してくれた。
「だから、俺たちは王都の孤児院から子供を引き取って育てることに決めたんだ」
子供を育てることで精神的に強くなった妻は徐々に体力を回復していったそうだ。女性として子供を産まない選択ができるのはまだ救いがある。もっともつらいのは産みたくても産めない、育てられない……選択肢さえない場合だ。
「それじゃあ、アランやほかの三人のお子さんも?」
「いや、四人だ。王都で小間使いをしている娘がいる。アランを入れて五人さ」
「!」
アランの話から姉や兄がいることを知っていたが、五人兄弟とは予想外だった。
「施設によれば上の四人は親が大体わかってる。だが、アランは……俺が直接王都で拾ってきた。身元のわかる手がかりもまったくない」
まだアランはその事実を知らないのだろう。ポーシャに兄弟のことを話している無邪気な表情を見ると容易に想像がつく。
「魔法使いは、失せもの探しもできると聞いたことがあるが、人間も同じように探せないのか?」
真剣なまなざしを向けられた魔法使いは、彼らの、おもにサディアスの訪問の目的を悟る。
そして、彼が直接口に出して言えない要件を確認することにした。彼女の深緑色の瞳が細められる。
「それは、アランの血脈を探りたいという依頼と受け取っていいのでしょうか?」




