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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第三章 椛(高二秋編)
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第七十四話 顔合わせ

「六人ね、えっとぉ」


「…………」


「…………」


 職員室の中で、俺たち六人は廣瀬先生にグループの申請をしていた。

 俺と夕はどちらももじもじしながら互いに隣に立って沈黙を貫いている。

 何だろうか。夕の隣にいる背の高い女子がすごい睨んで来ている気がする。


「そんなに硬くならなくてもいいんだぞ」


 夜西さんが気を使ってそんなことを言ってくれた。


「いや、大丈夫です

 人見知りなだけで…………」


「ならいいが」


 夜西さんの優しさを無下にしているようで気分が悪いが、しょうがない。

 夕がいることがもう十二分に気まずいのだ。

 文化祭ぶりに会ったが、あの時は二人っきりだったし、お互い特に聞きもしなかった。

 二人とも昔の関係を演じるだけでよかった。

 でも今は人がいる。

 しかも互いの知り合いが。

 前みたいにはいかない。


「はい、登録しておきましたぁ

 修学旅行の周るところなど、ちゃんと話し合って決めてくださいねぇ」


 廣瀬先生は優愛さん?という女子に一枚紙を渡した。

 俺たちの名前と『計画……』みたいな文字が見えた。

 おそらくこういう混合グループに渡すものなのだろう。


「分かりました!ありがとうございます!」


 その女子は勢いよくお辞儀をした後、葉菜の手を真っ先に引いた。


「しつれーしましたー」


 舌打ちメイドが不機嫌そうにそう言いつつ俺たちは職員室から出た。


ーーーーー


「と、いうわけで

 自己紹介タ~~イム!!」


 五組に招集された俺たちが円状に座ると、葉菜の膝に座ったゾッコンさんがそう言って手をたたいた。

 なぜだろう空気がめちゃ乾燥している気がする。


「自己紹介っつっても、私たちがまったく顔知らねえの一人しかいないだろ」


 俺のことだろう。


「それ前見えるの?」


 俺のことだろう。


「ずっとうつむいてんじゃんね」


 葉菜…………!

 お前だけはフォローの余地あったろ!!


「この人は満月影

 訳あって知り合いになった」


「満月…………ってあの家のか!?」


 その場にいた中で唯一動揺して立ち上がってしまった舌打ちは、そのあと少し沈黙が流れた後静かに腰を下ろした。


 …………静寂。

 誰か喋れよと思うが今一番喋らなければいけないのは俺だろう。

 ああ、神よ。救いを求めてはいけないか?


「あの、えっと…………」


 そう言って顔を上げた時に気づいた。

 窓の向こうに何かホワイトボードが見える。

 あれは…………


 目を凝らすとそこには木に登ってこちらにホワイトボードを見せてくれている()がいた。

 なぜそんなとこにいるのか。そんなツッコミは今はどうでもいい。

 とりあえずよくやった!!


「えー、満月影、です

 クラスは夜西さんと同じく二組で、最近図書部に入りました…………

 事情があって一時期学校に来ていませんでしたが、最近復帰しました

 えーと、よろしくお願いします」


 ホワイトボードに書いてあったことを言い終えた俺は肩を縮ませた。

 人前でこうやってしゃべるのなんていつぶりだろう。

 明は向こうで親指を立ててグッドポーズをしている。

 どのようにこの会話を聞いていたのか、少しツッコんでもよろしいか?


「満月家っていうことは、私の家のライバル企業じゃん」


 うちのライバル企業…………確かにいくつかある。

 この見るからに陽キャな人、確か四栁さんだったか。

 確かに聞いたことのある名前だな。

 あ盆の日。うちの集まりに来ていた。

 もしかしてこの人、あの時の隣に座ってた…………


 …………ん?それ向こうが覚えてたら面倒なことにならんか?


「あれ?よく見たらどかで見たような…………」


「いや、気のせいです!!こんな髪伸ばしてる人だったらもう少し印象的じゃないですか?」


 俺はそのあとに続きそうな言葉を全力で阻止するために少し立ち上がった。


「まあ、確かに

 っていうか自分で言うんだね、髪のこと」


「う…………!」


 俺はまたぎゅっと縮みながら座った。

 最近自虐セリフが多い気がする。

 結局俺が傷負ってるし。

 でもよかった。あの時この人俺に一ミリの興味も持っていなかったから一つも記憶に残っていなかったらしい。

 …………これも自虐か?


「満月君って、前の体育祭でアンカーやってたよね?」


「え、ああはい」


「あ!二位の人か~~」


 葉菜は今回はフォローに周ってくれたらしい。

 俺も体から少し力を抜いて、ただの猫背になった。


「…………悪ぃ奴じゃなさそうだな」


 さっきまで睨めつけてきていた女子も、目をそらして足を組んだ。

 夕が何かささやいていたがよく聞こえなかった。


「はい!!

 一応私たちは影君のことも夜西さんのことも知ってるけど、向こうは知らないんだから自己紹介しないと!!」


 そう言って葉菜の隣の女子は立ち上がって手を上げた。


「私は四栁優愛!十七歳!

 部活は入ってなくてぇ、趣味は葉菜ちゃんと話すこと!!

 優愛って呼んでね

 よろしくおねがいします!」


 そのまま深くお辞儀をして座った。

 「はい次、葉菜ちゃん!」と言われた葉菜は、しぶしぶ立ち上がった。


「波島葉菜です

 部活は同じく入ってなくて、特技は記憶、で

 どうやって呼んでくれてもいいけど、まあ葉菜でいいかな

 お願いします」


 葉菜はそう言って座った。

 隣に目線を移すと舌打ちがいた。


「私は水尾凛

 部活は吹奏楽に入ってる

 呼び方は…………」


「凛たん…………」


「以外なら何でもいい

 以上だ」


 四栁さんがこっそり言った言葉に付け加えて、自己紹介を終えた。

 みんなの目線が隣に移った。

 夕はおびえるように目をそらしていた。

 なんだか…………見ていられない。


 そう思っていると、水尾さんが夕の頭の上に手を置いた。


「こいつは青羽夕、私のパシリだ

 以上」


 もう一度夕を見るともう震えてはいなかった。

 水尾さんのおかげだろうか?

 舌打ちメイドだと思って来たが、認識を改めた方がいいかもしれない。


「…………私の番か」


 夜西さんはそう言って背筋を伸ばした。

 それだけで、さらさらとした髪がふわっと浮かぶ。


「私は夜西凪

 部活は吹奏楽部と図書部を兼部している

 何かと迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む」


 淡々とそう言った夜西さんは、どこか清廉でめんどくさがっているようにも取れる、そんな独特な雰囲気があって、もとから立っている顔はまた一層黒く光った。

 誰もが見とれていた。

 なるほど、これがこの人の余所行きか。

 だからあんなあだ名がつくわけだ。


「じゃ!みんな自己紹介も終わったところだしお開きにしようか!

 グループライン作ったからみんな入ってね」

 

「「は~い」」

「え」


 そんな四栁さんの言葉にみんなスマホを取り出したのだが、俺だけその場に固まっていた。

 …………ライン。

 持っていないわけじゃないが、こういう時に使うアカウントじゃない…………


「ち、ちなみにこの中でライン持ってない人いる?」


 ナイス!葉菜!

 よしここで手を上げれば…………!


「そんな人いるの()()()()


「うっ…………」


 せっかくの助け舟が泥舟と化した瞬間であった。

 偏見だ。とてつもなく偏った偏見である。

 決して今の高校生でスマホの普及率は百パーセントではないだろう。

 だが、それも確かに高いということは表しているはずだ。

 決してその「今どき」という言葉は無下にはできないでも…………!

 俺みたいな奴もいるんやて…………

 

「ああ、満月君は持っていないのでな

 何かあれば私が伝えよう」


「あ、そうなんだ!

 ごめんね?」


「いや、大丈夫です…………ほんと」


 なんか今日だけで三日分くらいのメンタルが削れた気がする。

 これ、ネットより現実のほうが精神すり減るな…………



 そんなこんなで俺たちは解散した。

 なんだか偏ったメンツだったな。

 また夕とのことも考えないといけない。

 

 何はともあれ、今は夜西さんのことを気にしなきゃいけない。()()()()あるっぽいし。


帰っている途中で葉っぱまみれの明にあったが、少しばかし恐怖を覚えていた俺は無視した。


「なんで無視するんですかぁ!!」

 

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