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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第三章 椛(高二秋編)
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第六十八話 体育祭 バレー

「ここかな…………」


 体育祭が始まって少しして、俺はスマホ片手に、一階の講義室前まで来た。

 もちろん、夜西さんに呼び出されたのである。

 クラスからは気づいたらいなくなっていた。

 どこからどこまでつかめない人だ。


「来てくれたな」


 すると夜西さんが階段を下りてきた。

 どうやらヘッドホンはつけていないらしい。

 確かにボールがあるところでは危険か。


「待ち合わせって、クラスじゃ駄目だったんですか?」


「君を守ったつもりだ

 これでもモテるのでね」


「…………感謝します」


 夜西さん(学校一の美少女)と二人で教室を出る?

 控えめに言って殺されるだろう。

 お気遣いありがたい。


「さあ行こう

 バレーは午前の部だ」


 夜西さんは後ろ髪をたなびかせて通り過ぎた。

 そうして俺たちは体育館のほうに歩き出した。


ーー凛視点ーー


 午前十時半。

 バレーの試合が始まる直前に、私は優愛と一緒に体育館に向かっていた。

 葉菜はもうすでにメンバーたちとアップでもしている頃だろう。


「今年四組強そうじゃない~~?」


「そうなのか?

 たしか一回目の対戦相手だったような」


「そう!

 だから大丈夫かなってえ

 葉菜ちゃん力は強いけど運動神経はそこまでだし…………」


「まあ、その点ゴリラだからな」


「葉菜ちゃん怒るよ~~~?」


 優愛は後ろに手を組んで、目をつむって少し顎を上げて歩きながらそう言った。


「あ」


 優愛が目を開けると、そう言って立ち止まった。


「どうしたんだ?」


 私も止まって優愛にそう聞いた。


「あれ、夜西さんかな」


「ああ、凪か

 確かにそうだな」


 見ると、高身長の男と一緒に歩いている凪がいた。

 よく部活でしゃべるので結構仲がいい奴だ。

 多分修学旅行のグループに誘って受けてくれる唯一の部員だろう。


「男子と二人でいるとか珍しいね」


「彼氏だったりしてな」


「だとしたら面白いけど」


 波もたたない美少女に波が立つわけだ。

 こりゃ学校中の噂もんだな。


「でも、あの男子

 引くほど前髪長くね?」


「確かに

 あれ前見えてるのかな?」


 そう言っているうちに二人は廊下を曲がって姿が見えなくなった。


「あっち体育館だよね

 バレー見るのかな」


「かもな」


 私たちもあの二人の後をつけるように廊下を歩いて行った。


 凪は意外と表情…………というか感情の起伏があるやつだ。

 恋愛の一つぐらいしててもいいが、相手がすごいな。

 凪も返事だとは言っても、特殊では?


ーーーーー


 すぐ、私たちは体育館に着いた。

 一応体育館の二階に観戦席があるが、いっつも混むし、前じゃないとまともに見えないので、下で見るやつも多い。

 私たちも一階の隅で観戦することにした。


「結構人いるね~~」


「な」


 とはいっても、体育館の中には観客が結構いた。

 分散されていると思うが、それでも多い。


「あれ、夜西さんいないね」


「こっちじゃねえんじゃねえの?」


 私たちはそう言いながら、壁によしかかって葉菜を見つけた。


「は~ナ~ちあ~~~ん!!!!!」


「うおっ、うるせ」


 優愛が突然叫ぶものだから、一瞬こちらにいくつかの目線が集まって気まずい。

 一瞬周りの騒音の声量が十数デシベル下がったところで、チーム万バーと話していた葉菜は優愛に気が付きこちらに手を振ってくれた。


「はぁ…………!!」


 優愛は両手を振り回しながら、ぴょんぴょんはねて、まるで打ち上げられた熱帯魚みたいになっていた。


「ん?」


 少し向こうを見ると、おそらく監視だろうか?

 廣瀬先生がいる。


 すると、高橋先生がポケットに手を突っ込んでコート側を見ながら廣瀬先生側に歩いて行った。


「おい優愛

 あれ」


「ん?

 あ、二人だ」


 優愛を肘でつついた後もう一度二人のほうに再度向いた。

 やっと前を見た高橋先生は廣瀬先生に気が付いて、驚いたのか立ち止まった。

 …………と思ったが、右足と左足をそろえるとき足が絡み、そのまま顔面からばたんと、まるで支えを失った木の板のように倒れこんだ。


「…………大丈夫かな」


「大丈夫だろ」


 廣瀬先生はすぐに高橋先生に駆け寄って心配そうな顔をしていた。


「あの二人、お似合いだと思うけどさ…………」


「ああ、わかるよ

 なんか二人とも」


「「ざんねんな感じ」」

 

 そうして試合のホイッスルは鳴ろうとしていた。


ーー影視点ーー


「…………私に気が付いてくれるだろうか」


 体育館の中にて、バスケットゴールの下で狭いながらも二人で並んでいると、夜西さんは不安を吐露した。


「大丈夫ですよ」


 この言葉はほんとだ。

 目についた瞬間、明の脳内はお花畑だろう。


「…………以外にも優しい言葉をかけるんだな」


「意外なんですか…………」


「あまり人に干渉しない方だと思っていた」


「あってますよそれで」


 人に干渉しすぎていいことはなかなかない。

 そも、人にされて嫌なことをこちらからやるのは愚かだ。

 小学生でも知っている。


「そういう、純粋な言葉を言える奴は意外と少ない

 その点、君は根が優しいらしい」


「そういう口説きが、明にもできるといいですね」


「…………やはり意地は悪いようだ」


 夜西さんは顔を明のほうに向けた。

 少し照れたらしい。


ピ――――


 すると、開始のホイッスルが鳴った。

 明はまだ順番ではないらしく、コートの横で待機している。


「……………………」


「…………どうしたんだ?

 さっきからきょろきょろと」


 夜西さんからそう言われて、俺はやっと目線が何かを探していることに気が付いた。


「あ、いえ…………」


 俺がそう言って明のほうを再度見ると、明はこちらを向いていた。

 向こうが俺に気が付くと少しだけ頭を下げた。

 …………いけない。この角度だと俺が夜西さんのことを隠している。


 俺は体を壁に沿わせた。


「夜西さん

 ちょっと前に出てください」


「なぜ…………」


「いいですから」


 そう言うと、夜西さんはしぶしぶ体を前に倒した。

 すると、明は夜西さんに気づいたらしく目を見開いた。

 夜西さんも明のほうに視線を送ると、ほんの一瞬目が合った後二人ともすぐにそらしてしまった。


「…………青春かよ」


 青春である。


 明は一回肩を上げて落として息を吐いてから、上着の袖を正した。

 何かっこつけてんだ?


「…………満月君」


「はい?」


「波島さんを探しているのだろう?」


 さっき、俺の目線がうろうろしていたことだろうか。


「いや別にそういうわけじゃ」


「ここにはいないぞ

 あのクラスは第二体育館のほうだからな」


「…………」


 だからさっきから、葉菜がいなかったのか。

 …………さっきからってなんだ?


「応援に行きたいなら行けばいい」


「いや、それだと夜西さんが」


「もう十分だよ

 ほんと君たち二人はお似合いだな」


「そういう関係じゃないですって」


 俺はそう言って、体の力を抜いて下を見た。


「…………」


 夜西さんは少し考えるそぶりをしてから言った。


「ああ、なんだか狭いなここ

 一人どこかに行ってくれればいいのだが…………

 いやしかし、私は人にものを頼むのが…………」


「わかりました、分かりましたから

 行きます」


 そう言って俺は体を起こして一歩踏み出した。


「ああ、行く前に

 夜西さんと明もこの上ないくらいお似合いですよ」


「…………あまり人をからかうものじゃない」


 俺はそのまま体育館を出て、第二体育館の入り口に立った。

 見ると手前のコートで、葉菜は絶賛試合中のようだ。

 なんか一人、とんでもない声量で叫んでいる奴がいるが、まあいいや。


「…………おお」


 葉菜は、高くジャンプしたと思えばすごい音とともにスパイクを打った。

 ボールは誰もいない床に着き、そのまま高く跳ね上がった。


「…………怪力すぎるだろ」


 葉菜はそのあと仲間とハイタッチしてからまた構えに入った。


 そういや俺リレー走るんだった。

 今になってめっちゃ緊張するな。

 というかリレーが今日のオオトリの競技だ。

 今更だが、なぜ俺になったんだったか。


「…………ん?」


 少し視線を感じて横を見ると、十数メートル先の女子がこっちを見ていた。

 確か文化祭の時見た、水尾凛だったか。

 彼女は俺がその視線に気づいたことを知ると、すぐ視線をコートに移した。


 なんだったんだろうか。


ーーーーー


 そうして、午前の部は終わりを告げ、午後の部へと時間は移っていった。

備考

夜西さんはどうも、恥ずかしくなったりするとうっすら耳たぶが淡く赤くなるらしい。

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