第六十七話 嫉妬
週末を超えて月曜日の放課後。
閉館して誰もいない図書館に、わたしたち三人は集まっていた。
第二回恋事情会議スタート。
「私はすでに少し聞いたが
満月君
明さんと話してどうだった?」
夜西さんは影にそう聞いた。
もうすでに聞いた、とはわたしが何も知らない前提でのことだろう。
実際は夜西さんの知らないことまで聞いたんだけど。
「えーーと…………
明は夜西さんのことを知っていました
なぜかはわかりませんけど」
なぜかはわかっている。
影が嘘までつくなんて、かなり焦っているのかもしれない。
いつもなら嘘は言わずに真実だけ隠すのに。
「競技は?
夜西さんと一緒に見るんでしょ?」
「それは私も聞いていないな」
「それは確か、バレーと借り人と玉入れの三つだったはずです」
うちの高校では最低一つという条件以外競技数について決まりがない。
クラスごとに人数が違ったりするのが主な理由だ。でも。
「三つは結構多いね」
「…………」
夜西さんの顔を見ると、影の顔を見ているようで目線はどこかに飛んで、ポワポワと少し浮かれている様子だ。
…………かわいい。
「まあ、大丈夫なんでしょうね
あの人筋肉と運動神経がすごいので」
「…………そうなのか」
夜西さんはやっぱり表情が柔らかくなっている。
「じゃあ明後日二人とも頑張ってね」
わたしはそう言って立ち上がった。
「…………君は来ないのか?」
「友達といないとだし
バレーはわたしも出るから」
男バレと女バレは同じ時間に行われる。
クラス対抗なので、実際はがっつりかぶってはいないと思うが。
「影もリレーの時は夜西さんと一緒に居れないんだし、少しくらい明さんにアタックしてみたら?」
「そ、それができたら困っていない」
「その背中を押すためにわたしたちがいるんだから」
そう言ってわたしは影の肩にポンと手を置いた。
「リレーリレーってあんまり言わないでくださいよ…………
もう死にそうなくらい死にそうなんですから…………」
リレーのアンカーというだけでかなりの重圧なのに、それが影のような立場となるとなおさらだろう。
「そうだ
満月君、念のため連絡先が欲しいのだが、ラインとかは…………」
「しておりません」
「じゃあ、メールアドレスでいいな」
「はい」
「…………」
二人は、スマホを取り出して連絡先を交換した。
影が「スマホをかざすとできるんですよ」というと夜西さんが「そうなのか、進歩しているな」と言っていたのはどこかデジャブを感じるが、かなり自然な会話だ。
この二人が互いに友人というくくりで相手を見ていないことに、少し違和感がある。
二人とももう少し打ち解けてもいいのに。
「じゃ、わたしもう帰るから」
「はい、さよなら」
「さよなら」
「じゃ」
わたしはそのまま図書館を出て行った。
影はそのまま図書館にいるらしい。
なんだが、うらやましい。嫉妬だろうか。
もしこの学校生活が続けば、影は放課後に家にいなくなる。
最近わたしが放課後影の家に行けていない理由の一つはそこだ。
家に親がいるわけでもないが、どうしてもあの家は音がうるさい。
その点、やっぱり影の家は快適だ。
音もないし、影以外人もいない。
そんな暮らしができなくなることに、不満を抱いているんだろうな。
「あれ、じゃあ誰に嫉妬してるんだろ?」
これじゃ、嫉妬じゃなくて、残念では?
「まいいや」
わたしは階段を駆け下りていった。
ーーーーー
「体育祭だ~~~~~!!!!!」
水曜日。
体育祭前の全校集会も終わって、わたしたちは観戦と試合に行けるようになったところに、優愛はそう叫び出した。
「そんなに楽しみだったのか?」
「いや?べつに?」
「何なんだよ…………」
優愛は「へにゃ?」と言わんばかりに呆けた顔で返した。
凛は言いつつ腕に日焼け止めを塗っている。
「優愛って体育祭とか好きだったイメージあるけど…………」
「好きだけどぉ~
今別に葉菜ちゃんとクラス違うわけじゃないしぃ」
「もしかして、体育祭のこと他クラスとの交流会かなんかと思ってる?」
「似たようなもんじゃない?」
「違うだろ」
確かに観戦とかの都合上クラスという区別が薄くなるが、そこにそこまでこだわるか?
「あ、凛たん日焼け止め貸ぁして」
優愛は、凜が塗り終わったのを見ると両の手のひらを出してそう言った。
「たん付もうしねえか?」
「うん!しないから!ほら」
優愛はまた手を強調した。
「あっさりだな…………
まあいいけど、ほい」
凛はあっさり日焼け止めを渡した。
「ありがと!!凛たん!!」
「おまえ!!」
こうして今回の体育祭は、優愛と凛の追いかけっこから始まるのであった。




