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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第三章 椛(高二秋編)
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第六十一話 高橋 誠一

 こんにちは!

 廣瀬 由喜、28歳、独身。

 職業は、高校理科の教師です。


 本日。

 私がいつの間にか恋に落ちていた方。

 高橋 誠一さんについてお話ししましょう。


 高橋 誠一さんは私と同じ高校の数学教師です。

 年は25で、私の後輩です。

 背は私なんかより全く高くて、少し心配になるくらい痩せています。

 本人曰く、筋肉はあるから大丈夫。らしいですが本当でしょうか?


 そう思っていたら、今日も職員室にその方がやってきました。


「おはようございま~す」


 高橋さんはそう言いながら私の隣のデスクに座りました。

 同じく担任をしていらっしゃって、隣のクラスなんです。


「ふう、おはようございます廣瀬先生」


「ああ、ええ、おはようございますぅ、高橋先生ぃ」


 こうやって笑いながら答えられているのも、なんだかんだ、隣の席になって少ししてからでした。

 それまではずっと緊張のあまりあたふたしていて、周りの方々からよく不審がられていました。


 ええ、一目惚れでした。

 新任として大学卒業と同時にやって来た彼の、その実直さや素直さにすぐに魅力を感じてしまったのです。



 少し経つと、いつもの朝の会議が始まりました。


「それでは、今日もよろしくお願いします」


「はい!」


 最後、いつも仕切りの先生の口上には皆頭を下げるだけなのですが、高橋さんは欠かさず返事をしてからお辞儀をします。


ーーーーー


 一時間目が終わり、廊下を歩いて次のクラスに向かっていると、向こうに高橋さんがいました。

 どうやら、女子生徒が落としてしまったハンカチを拾ってあげているようです。

 ああいう優しさは、どこから拾い上げてくるのでしょうか。

 尊敬の念がたえません。

 もちろん私も、落とし物を届けるくらいのことはしますが。


 高橋さんは女子生徒にハンカチを渡してから、こちらに向かって歩いてきました。

 いつの間にか歩みを止めていた私は、少し恥ずかしくなって、前を向き、すれ違いを試みます。


「こんにちは、廣瀬先生」


「こ、こんにちはぁ」


 私は顔を下に向けて隠しながら、挨拶をしました。


「う、うおおっ…………!」


 すれ違ってほっと胸をなでおろすと、後ろからそんな声が聞こえてきました。

 後ろを振り返ると、先生がこう___/\_という感じでぶっ倒れていました。


「大丈夫ですか!?」


 私がそう言って駆け寄ると、高橋さんは手などを使ったかは知りませんが、そのまま飛び起きて着地しました。

 なぜか手に持っているものは何一つ散らばっていません。


「大丈夫です!

 ご心配どうもありがとうございます」


 そう言って、先生は向こうに走っていきました。

 よく考えたらもうチャイムが鳴りそうです。

 急がなければ。


ーーーーー


 昼休み。

 二階の廊下を歩いていると、グラウンドにいる先生を窓越しに見つけました。

 どうも、生徒とドッジボールをしているようです。

 若いっていいですね。


「あ…………」


 先生の顔にすごい勢いでボールが当たりました。

 はじけるように、ボールが顔から離れると、先生はそのまま膝をついて倒れてしまいました。

 すると、またいきなり飛び起きて、今度こそ、と飛んできた外野からのボールをキャッチし、生徒に振りかざしました。

 かなり無理やり。


 大人げないですが、そういうところも素敵です。


ーーーーー


 放課後。

 高橋先生は教室の清掃に生徒と一緒に取り組んでいました。

 もちろん私も自分のクラスを手伝っています。

 ただいかんせん声が大きいので壁越しに聞こえてくるんです。


「ああ、先生がバケツひっくり返した~~」


 …………向こうは楽しそうですね。


「あ!

 先生、そこ埃集めてて」


「何!!」


 …………大丈夫でしょうか。


 少しすると、バケツの水を捨てに行っていた生徒が帰ってきました。


「なんか、高橋先生が水道で頭洗ってました

 何でもチョーク受けの粉全部被ったとかで…………」


 …………本当に大丈夫でしょうか!?


ーーーーー


 生徒たちも部活を終えて帰る時間。

 もう空は夕焼けが深いです。


 私は顧問をやっていないので、いつもは職員室にいます。

 高橋先生はバレー部の副顧問をしているので、このくらいの時間に帰ってくるんです。


「こんばんは」


 高橋先生は私にそう言いながら椅子に座りました。


「こんばんは、高橋先生」


 私は先生にできる限り自然に、笑顔で返事をしました。


 こういうところなのでしょうね。

 私は今までずっと恋人という人がいたことがありません。

 男性の友人がいなかったわけではありませんが、恋心があるかないかは大きな違いです。

 こういう時に何か気の利いた一言でも言って、仲を深めることでも出来たらいいのでしょう。


 ですが私にそんな勇気はありません。

 嫌われるとかは思っていません。きっとこの方にとって人を嫌うというのは最も遠い感情だと思いますので。

 これはひとえに、私の不甲斐なさと、ある種の人見知りによるものです。

 この片思いを。私は本当に叶えようとしているのでしょうか。

 …………いえ、そこに嘘はつけません。

 きっといつかその日を待ちわびているはずです。


「自分先に上がります

 お疲れさまでした」


「はい、お疲れさまでした」


 高橋さんはそう言って立ち上がり、職員室の扉まで歩いて行きました。


「あっ…………」


 すると、プリンターを使っていた先生が紙を落としてしまい、高橋さんの足元に滑っていきました。


「うわっ…………!!」


 高橋さんはやはり転びました。

 途中で机につかまろうとすると、そこにあったコーヒーが高橋先生の頭の上に飛んでいきました。

 手を差し伸べた先生の手を取ろうとすると、なぜか先生野面が取れて、慌てて取ろうとすると高橋さんの服が…………以下略。



「あはは…………」


 …………恋は、盲目かもしれません。

 盲目なうちは、恋をしているわけですが。



高橋 誠一(25)

 誕生日五月五日

 身長は高めで髪はツーブロック。

 顔もたっていて、見た目で動かずしゃべらずならイケメン。

 しゃべると結構マシンガントーク。

 動けばドジと不幸を呼ぶ化け物。

 授業も上手だし、生徒からの人気もそれなりに高い(学校一のいじられキャラ)。

 数学の教師だが、超鈍感でおバカ。

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