第五十九話 恋の享受
「で、なんでここにいるの?」
わたしと影は、図書室の机の椅子に向き合うように座った。
わたしは腕を組んで影を見下し、影は膝の上に手を置いて顎を引いている。
夜西さんはカウンターで読書中だ。
「…………ちょっと読書に興味がありまして」
「それで、図書室のカウンターで読書を?」
「…………はい」
「はい、じゃないでしょ」
普通におかしい。図書部でもないのにカウンターに入ることはないだろう。
「ていうかなんでこんな時間にいるの?」
「私が誘った」
気が付くと、机の真横に胸の前で両手で本を抱き水色のヘッドホンを首にかけている夜西さんがいた。
東さんに慣れたからだろうか驚きはしない。
そのまま夜西さんは影の隣に座り込んだ。
「誘ったていうのは?」
「席が隣同士でな
いいカモ……ではなく人だと思い、来てもいいぞと言ったのだ」
「いま、自分のことカモって言いました?」
「言っていない」
「あはは…………」
わたしは少し苦笑した。
どこか、漫才を見せられている気分だ。
夜西さんは表情以外からの感情
「それじゃあなんでカウンターの中に?」
「本を借りるには学生証がいるのだが、どうもなくしたらしいのだ
部員になったら自由に見れると提案したところ、快く…………」
「甘んじて」
「引き受けてくれたのだ」
影は少ししかめっ面になって訂正した。
部員ならまあ、カウンターにいても別におかしくない…………のか?
というか影が部活…………学校生活エンジョイしてんじゃん。
「なるほどねぇ」
わたしは腕を崩して頬杖をついて夜西さんを見た。
「…………私からも質問をしていいか?」
「ん?いいけど」
すると夜西さんは、一度影のほうにも視線を飛ばしてから言った。
「二人とも仲のいい『恋人』と見える
どうか私に恋というものを教えてほしい」
「…………はい?」
私よりも先に、疑問を呈したのは影だった。
ーー廣瀬視点ーー
「で、なんすか
いきなり呼び出して」
「そうですよ、私たち帰ろうとしてたんですけど」
放課後。私、廣瀬由喜は二人の女子生徒、凛さんと優愛さんを理科室の準備室に呼び出しました。
「ごめんなさいぃ
実はお願い事がいくつかあってねぇ…………?」
私はそう言って、プリントを挟んでいるバインダーで口元を隠します。
「その、夏休みで言ってたこととかあ秘密にしてほしいなぁ、てぇ」
「…………おお」
私が少し口ごもりながら上目づかいでそう言うと、凜さんから感嘆が出てきました。
「…………先生かわいいんですね」
「先生だって28の立派な女子です…………!!」
なんだか生徒にからかわれている気がするんですけど…………気のせいですかね。
「別に私たちはいいですけど、葉菜には言わなくてよかったんすか?」
「まあ、あの子は大丈夫かな~ってぇ」
「葉菜ちゃんに限って言いふらすみたいあことはないと思いますけど…………なんか…………」
なんだか二人とも反応が悪いです。
…………今の言い方だと、二人は言いふらしそうと思われるでしょうか?
「ふ、二人のことを信用してないってわけじゃないよぉ?
いつも三人でいるから見つけたら言おうと思ってて、でも今日二人でいたから…………」
「別に気にしてないっすよ」
「あ、そう…………」
何が原因だったのでしょう。
「それより、お願い事他にもあるんですか?」
「あ、そう、そうなのぉ!
もう一つだけお願いがあってぇ」
私はバインダーを膝の上に置いて下を向き、両の人差し指の先をつんつんしながら言いました。
「そのあの…………け、いやえっとね…………?」
「「早く」」
二人にそうせかされて私は顔が熱くなりながらも叫びます。
「結婚のために!恋を教えてほしいのぉ!」
「「はい?」」
この、はい?、は承諾…………ではないですよね。




