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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第二章 蓮(高二夏編)
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第五十話 夏祭り⑨ 星が輝いた日

 小学校に入学して初めての夏休み。

 私、寒水(そうず)星は、両親と一緒に車で移動していた。

 寒水家は満月家と関係があり、私はその時、したたかさと冷静さを求められた。

 それ故、子どもながらに白のワンピースと大きめの白い帽子を着ている。

 

「どこに向かっているのですか?」


 私は目の前にいる仕立ててもらった服と白い帽子を被った母に聞いた。


「ある方のお葬式です」


 母がそう答えると父が補足した。


「当主様と次期当主様もおみえになる

 失礼のないように」


「わかりました、お父様」


 私はそう言って会話を終えた。

 窓の外に目線を下すと、車は草葉の生えた道路を走っていた。


ーーーーー


 車が止まり、私は両親に言われて車を降り、葬式の会場に歩いていた。

 道は石で舗装されていて、向こうには大きな池、川、そこにかかる橋が見える。

 夏真っ盛りだというのに、大きな木がたくさん生えているおかげで、そこまで暑さは苦しくなかった。


「…………?」


 向こうに大きな白い建物が見えてきた時、同時に8人ほどの団体が見えた。

 その先頭には和服を着た大柄の人が立っている。


「当主様だ」


 父はそう言って足を早め、当主様に近づいた。

 私もそのあとを追おうとした。


「…………」


 その時、私と同い年くらいの男の子がいることに気がついた。

 その男の子は前髪が長くて顔が見えておらず、綺麗な母親の袖をつかんでいる。


「…………?」


 私がほぼ立ち止まって見ていると、男の子がそれに気づき首をかしげてきた。

 私は少し恥ずかしくなって、すぐに目線をそらした。


「行きますよ」


「はい、お母様」


 後ろから寄ってきた母に言われ、私は少し下を見ながら歩き出した。


 その後、確かにその男の子は葬式にいたが誰とも話さず、母親と一緒か、独りで過ごしているご様子だった。



ーーーーー



 小二の最後、春に早めの桜が咲いてた時。

 私、大月(おおつき)星は親の用事でその男の子の別荘まで来ていた。

 大月家は満月家の旧分家の一つでかかわりが深い。なんの用事があるかは知らないけど、何か大切なことだろう。


「では早速この件ですが…………」


 お父さんはそう言って向こうの父親と話し出した。

 私と両親はダイニングテーブルの一辺に一列に並び、向こうは両親が並んで座り、例の男の子は、向こうのソファに座ってうつむいている。


「星、向こうで遊んでもらってきなさいな」


「分かった、お母さん」


 母は少し小さな声で私に言った。

 私は椅子から降りて、その男の子のほうに向かった。


「こんにちは!」


 私はソファの上で体育座りをしてうつむいているその子の隣に座り、そう話しかけた。


「…………こん、にちは…………」


 しばらくの静寂の後、かすかにその声が聞こえた。


「私は 大月星!あなたは?」


「…………満月影」


 満月君はまだ顔を伏せたままそう答えてくれた。


「別に緊張しなくていいよ

 私たち同い年じゃん」


 私はそう言って、満月君の肩に手を置いた。

 すると、満月君は若干顔を上げてくれた。


「そういうんじゃないですよ」


 そう言って満月君は私が置いた手を拒んだ。


「ん!

 イジワル~~!!」


 そう言ってそこから数時間。私は満月君を追いかけまわした。


ーーーーー


「はあ、はあ…………どこまで来る気ですかほんと」


 なぜか満月君は疲れている。


「だって遊んでくれないんだもん」


 もう外が暗くなって、私は二階のピアノの部屋に隠れていた満月君を見つけた。

 もうすでにこれが遊びみたいなところもあり楽しかった。


「星さん、人には苦手というものがあるんですよ」


「私のことは苦手なんだ~」


「かなり

 まあそれだけじゃないですけど」


「…………?

 それだけじゃないって?」


「自分の立場的にいろいろ面倒な人間関係なもので」


「難しい言葉使わないでよっ…………と!」


 私はそう言って、ピアノの椅子に上がった。


「もしもあなたになんの考えがなくても、大人は信用ならないということです」


「お父さんとお母さんのこと?」


「そうです」


 私は今まで頑張って満月君に目を合わせようとしていたのをやめて、ピアノの鍵盤を見た。


「大丈夫だよ、どうせすぐに()()()んだし」


 少し声のトーンを下げて言った。


「…………」


 すると満月君は私の隣に座って来た。

 相変わらず顔はこっちを向かない。


「慣れたらだめですよ」


「酷いこと言うな〜」


 私はそう言って鍵盤を一つ押し込んだ。


「ずいぶん仲良くなったみたいだね」


 突然、がちゃんとドアが開き、満月君のお母さんが入ってきた。


「仲良くは…………」


「なったもんね!」


 私はそう言って満月君の腕を掴んだ。


「う…………はい」


 なんか気圧されたのか、満月君は頷いてくれた。


 それから、私は満月君とピアノで遊んだ。

 なんだかんだこの時初めて満月君の目線がわたしを向いた。

 満月君のお母さんも一緒に遊んでくれたけど、


「あれ、右手ってどっちだっけ」


 とか、なかなかポンコツだった。

 時々満月君がかなり呆れていた。


 しばらくして、私は親に連れられて帰った。


ーーーーー


 小三のゴールデンウィーク。

 あたし、日生(ひなせ)星は再び、満月君の家に向かっていた。家といっても、なぜか別荘なのだが。

 両親は大手企業社長夫婦で、今日は商談の日なんだとか。

 なぜオフィスで行わないのかは不思議だけど。


「影は二階にいるよ」


 車から降りて家に向かう途中で迎えに来てくれた満月君のお母さんがそう話しかけてきた。


「!!」


 私はママに目くばせをした。


「いいよ、行ってきな」


 私はママにそう言われて、家に上がるや否や満月君のお母さんに連れられて満月君の部屋に入った。


「久しぶりっ!

 満月君!!」


 私は、ドアを開けてそう言った。


「…………ああ、星さん

 お久しぶりです」


 ベッドに座っている満月君はギター片手にそう言った。


「それギター?」


 私はドアを閉めながら言い、そのあと満月君のとこに歩いてった。


「そうですよ、クラシックギターです」


 そう言って満月君はギターをベッドに置いた。

 ベッドの上にはほかにもいろいろあった。

 奥には、最近うちの妹が…………なんちゃらみたいな漫画があった。


「弾いてくれないの?」


 私は満月君の隣に座った。


「下に大人がいるのでしょう?

 この部屋は特に防音も何もないので控えておきます」


「ちぇーっ」


 私は少しむすっとして頬を膨らませた。


「この前と違って逃げないんだね

 顔も合わせてくれるし」


「あれだけ追い掛け回されたらさすがにあなたという人に慣れるしかないでしょう」


 そう言って満月君は一回ギターを撫でた。


「何か遊びに来たんでしょう?

 何するんですか?」


「ん~~~~~~」


 私はうなって考えた。


「家の中は、大人がいるし~~~

 …………外!!!」


「危ないですよ」


「いいじゃん!そんな遠くに行くわけでもないんだし!」


 そうして、私たちは大人に内緒で裏口から外に出た。

 満月君からの反発がもうちょいあると思ったが、かなりすんなりと承諾してくれた。


 それから私たちは、外で()()に遊び続けた。


ーーーーー


 夕方が終わりに近づいたとき、わたしと満月君は倒木に座り込んでいた。


「なんか疲れちゃったぁ!!!」


「その、声を聴く限り、その、かなり…………はあ、元気そうですね…………ふう」


 満月君は息も絶え絶えになっていた。


「楽しいもん!!

 こんな時間初めて!」


 外で人目を気にせず自由な遊びというのは、思えば初めてであったことにその時気が付いた。


「そろそろ帰りますか?」


「え~~~やだ~~」


 私はそう言って、伸びをした。


「…………じゃあ、最後におすすめの場所にでも行きましょうか」


「え~~行く行く!!!」


 そう言って私たちは歩き出した。


ーーーーー


「ここです」


 私たちは茂みを分け入って、開けた場所に出た。


「うわ~~~!!」


 そこには、一面に花が咲いたきれいな場所だった。


「あれは?」


 私はその原の中心にある倒れた木を指さした。


「ここにはもともと大きな木があったんですが、台風で倒れてしまったんです

 それがあれです」


 そう言って満月君はその大木に向かって歩き出した。

 私もそのあとを追った。


「よいしょ」


 満月君は倒木の上に上って周りを見渡した。

 私も同じように木に上がって、周囲を見晴らした。


「もっと明るいときに来たかったなあ」


 私はもう暗くなってしまったせいで見えずらい花に文句を吐露した。


「今回の目的は花じゃないんですよ」


 そう言って影君は気に座った。

 私も座る。


「下を見るのもいいですけど、上もいいですよ」


 そう言って満月君は仰向けになって空を見た。

 私もゆっくり木に背中をつけた。


「…………!」


 真上の夜空にはきれいな満天の星が広がっていた。


「すごい…………」


「綺麗でしょう?」


 しばらく、幾千の輝く星々の鑑賞が続いた。


「あなたは生みの親を憎んでますか?」


「…………え?」


「ちょっと聞き方がひどいですね

 えー、あなたは生みの親が好きですか?」


「…………いや、好きじゃない」


 私の口は勝手にそう言った。


「売られたからですか?」


「うん、そう」


「そうですか」


 しばらく、満月君は黙った。


「僕はあなたがうらやましいです」


「…………なんで?」


「僕の名前は影、かげですよ

 頑張ったって好きになれない」 


「…………?」


 私はその言葉の意味が分からない。


「でも、あなたは自分の名前、いわゆるキラキラネームですが嫌いにはなれないでしょう?」


 そう言って、満月君は空に手を伸ばした。

 

「星。

 その名前が、この夜空を見ても、嫌いなんて誰が言えるでしょう」


「…………」


 私はその手の先にある一等星を見つめた。


「嫌いな人につけてもらった名前が、こんなにきれいで

 僕の場合、母たちにつけてもらった名前が嫌いです

 おかしいですね」


「…………何が言いたいの?」


「名前と親の好き嫌いは関係ありません

 そんなふうに、あなたが大人が嫌いなことと自分の評価をごっちゃにしないでくださいね

 大人につけられた価値が、自分の価値すべてだなんて思っちゃだめです」


「…………」


 私はまた空全体に焦点を合わせた。


「…………あれ」


 すると、星が点ではなく少しにじんで見えた。


「おっかしいな…………はは」


 私は起き上がって、下を向いた。

 

「なんで…………」


 私はそのまま落ちてくるそれを、手で受けた。


「…………」


 すると満月君はわたしの肩に手をまわして、体をくっつけた。


「自分を見失わないでくださいね」


 私はそう言われて、体から力を抜いた。


 しばらくして落ち着くと、私は笑った。


「…………★★」


「…………?」


 私はいきなり木から勢いよく降りた。

 そしてくるっと回って、後ろに手を組んで


「これからもよろしくね?影兄❢❢❤❤★★」


 と言った。


「自分兄じゃないんですけど」


「私のほうが数か月年下★★❢❢」


 そうしてあたしにとって、影兄は特別な人になった。


 そのあと、満月君のお母さんが迎えに来て、あたしたちは連れ帰られた。

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