第四十九話 夏祭り⑧ 打ち明け
「関係を切る?」
「そう、できる?」
できる?とは、なかなか引っ掛かりのある言い方をしてくるものだ。
まるで子供に言い聞かせる親みたいに。
わたしは影の部屋と自分の部屋以外で私が出てこない。
私を出す貴重な場所を失っては、わたしとしても支障が出る。
ここは徹底抗戦と行こうか。
「できないかもね」
「なんで?」
星ちゃんは少し食い気味に聞いてきた。
「影の家は居心地がいいからね、ご飯もあるし」
「葉菜ちの家は貧乏だもんね」
わざと、そういう言葉を選んでいるのだろう。
「星ちゃんやっぱり色々調べてたでしょ」
「うん。調べたよ、たくさん
家、学歴、友人、バイト、影との関係、そのほかもたくさん」
「影との関係?」
「調べたけど。あんまりわからなかったことの一つ
ある時期から葉菜ちがある防犯カメラに映ってたから、そこから影の家にいるのかなって思ったくらい
前の盗聴で色々わかるかなって思ってたけど、怪しい会話だけでなんもわかんなかったし」
あの盗聴の目的はそんなところにあったのか。
「怪しい会話って?」
「いつもの感じじゃない的なこと言ってたから」
「あー」
そこは聞こえていたのか。
「でね、葉菜ち
私だって無策で関係を断ち切ろうなんて思ってないの
だからここに来たんだから、人がめったにいないここに」
そう言って星ちゃんはわたしの手を離した。
「葉菜ちは影のことについて驚くほど何も知らなかった
とりわけ影のお母さんには
だからちょっと教えてあげる」
「いや、知りたくは――――」
そう言いかけると、星ちゃんはわたしの口に人差し指を立ててきた。
「影のお母さんはね、病死
発覚するのが多くて、入院してから数週間でなくなっちゃった
ここまでが、事実」
そう言って星ちゃんは人差し指を下ろした。
「で、ここからが憶測
影は何も言わないけど、私は気づいてる
あの人の死に方は疑問が多い
まず末期がんだったこと
入院中面会ができなかったこと
満月家から追放されていたはずが家の連中が出しゃばってきたこと
多分影も思ってる、きっとあの人は殺されたって」
「…………そ」
わたしはぶっきらぼうにそう言った。
「そ、って、驚かないの?」
「だって憶測でしょ?
もともと知りたいわけでもないし」
「でも、この憶測が正しかったら、影の周りにいるのは危険だよ!
ましてや、一家の黒いところを知ってたら…………」
「んー、確かにそうだったらやばいね
邪魔だって消されちゃったりして
でもさ、星ちゃんの身には今なにも起きてないでしょ?」
「それは…………」
「しかも、その話を信じるには確証がなさすぎるよ
自分で憶測って言ってたじゃん」
「うぐ…………」
わたし的には普通にあの家に行けえなくなるのは嫌なので徹底的に抵抗させていただこう。
「じゃ…………じゃあどうしたら!影から離れてくれるの!?
影を私の物だけにさせてくれるのさ!!」
星ちゃんは顔色を変えて怒りのような、お願いのような声色で荒々しくそう言った。
「星ちゃんはそんなに影のこと好きなの?」
「当たり前だよ!
影がいるから私は今もこうやって幸せに生きれてるんだもん!」
「それは依存じゃなくて?」
「そんなんじゃない!!」
そう言って星ちゃんは肩を押してわたしを押し倒した。
「…………よけてくれる?」
「…………」
星ちゃんと見つめ合ったのちにわたしはそう言ってよけてもらった。
「…………依存なんかじゃないもん
あの日に、確かに影に恋をしたんだし、今のこの気持ちは絶対恋心だから」
「あの日って?」
「…………」
そうして星ちゃんは徐に海に目線を向けた。
「私は葉菜に一つ嘘をついてる」
「うそ?」
「影と初めて出会ったのは、小二のころじゃない
もっと前に、話してはないけど見たことがあったの」
そうして、星ちゃんは目を少し潤わせながら話し始めた。
その、星ちゃんの片思いの話を。
ーー影視点ーー
俺は星が行きそうな場所を探して、昔よく来た旧神社近くまで来ていた。
なぜ葉菜じゃなく星が行きそうな場所を探しているかというと、星に連絡がつかないので、おそらく葉菜といざこざをしていると想像がついたからだ。
「ん…………?」
すると、茂みの奥の、もともと本堂があったところから少し声が聞こえてきた。
「あれは、星と葉菜…………」
俺はその姿を見てから、少し耳を立てた。
そしてその内容を少し聞いてから、近くの木の裏に座り込んで身を隠した。




