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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第二章 蓮(高二夏編)
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第四十七話 夏祭り⑥ 先生の闇

「星ちゃん?」


「うん❢こんばんわ❢」


 星ちゃんは、気持ち距離を取ったような返事で返してくれた。


「影兄は一緒じゃないの?★」


「ああ、影はさっきまで一緒だったんだけど、今はトイレに行っちゃった」


 わたしがそう言うと星ちゃんは「へー★」と言いながらわたしに一歩近づいた。


「ちょっと一緒に周らない?★★」


「いいけど、影は?」


「いいからいいから❢★★」


 そう言って、星ちゃんはわたしの手を握ってきた。


「あちょっと」


 有無を言わさず、星ちゃんはわたしの手を引いて道まで走っていった。

 こういうところがなかなかどっかの友人と重なるものである。


ーーーーー


「なんかちょっとずつ人増えてきてる気がしない?★★」


 星ちゃんは公園の道を歩きながら屋台のほうを見てそう言った。


「もうそろそろ花火だからじゃない?」


 もう夜は大分深まり、夏の暑さもだいぶましになっている。

 時間的にもそろそろ花火の時間だ。


「にしても星ちゃん…………」


 わたしはそう言って、立ち止まり星ちゃんを観察した。


「何?★★」


 そう言って星ちゃんも立ち止まりこっちを向いた。


 星ちゃんは例のごとく浴衣を着ていた。

 星ちゃんの浴衣は黒地で、黄色の模様が入っている。

 優愛の淡い黄色よりかは濃い色で、黒地のせいで少し明るめに見える。

 帯は黒みがかった紫色で観世水の模様が入っている。

 髪もいつもと違ってまとめていて、星をモチーフにした簪がついている。

 星のイヤリングよりもいつもより見えやすい。


「やっぱり浴衣似合ってるね…………」


「ありがと❢

 葉菜ちもかわいいね★★」


「ん…………ありがとう」


 わたしは星ちゃんの笑顔と突然の褒めに若干たじろいでしまった。


 そうして私たちはまた隣に並んで歩きだした。


「影のこと置いてきてよかったの?」


「あとで合流するからダイジョブ★★」


 そうじゃなくて、影と花火を見なくていいのか、と言いたかったんだけど。

 それをストレートに聞いていいのかどうか。


「影と一緒に来たわけじゃないの?」


「一緒に来たよ★★途中までは★」


「途中までは?」


「なんかねえ、気づいたら影兄が隣からいなくなってて★★

 なんか小さい女の子の泣き声が聞こえて★★

 そこに影兄が向かってて、優しいな~って思ってたら、謎のオタクたちにのまれた★★」


「ああ…………ね」


 みんなもれなくあのオタクたちに呑まれているわけだ。

 ちなみに、いまだに何か歓声が続いているので、あのアイドルたちのライブは続いているのだろう。


「あ、先生」


 少し向こうのベンチを見ると、われらが担任、ふわふわ先生こと廣瀬先生が座っていた。


「先生?★」


「うん、あそこのベンチに独りで座ってる、スマホを見てる人」


「ああ、あれかあ★★」


 なぜここにいるのだろう。

 わたしは少し駆け足で近づいて先生の前に立った。


「先生?」


「ん?ああ!!波島さん…………!」


 廣瀬先生はわたしに気づくとすぐにスマホの電源を切ってベンチに伏せて、何かポッケから取り出そうとしていたのをやめて、深く座っていた姿勢を少しこっちに寄せた。


「波島さん、どうしてここにぃ?」


「友人と一緒に来てたんですよ」


 わたしがそう言うと、隣に来た星ちゃんが少し頭を下げて挨拶をした。


「そうですか

 その浴衣いいですねえ」


「ありがとうございます

 先生はなんでここに?」


「えっとお…………

 学校の中でも少数派の独身の自分の身が悲しくなって、それを埋めるために夏祭りの会場の隅で黄昏て、さらに寂しさが深くなっちゃって、ここから帰って一人家で泣くか、ここに残って花火見ながら泣くか迷ってたとか、そんなのじゃないよう?」


 そう言って先生は表情を変えずに糸目の先生の目だけ少し暗くなった。


「あ、独身、気にしてるんですね…………」


「やだなもう~~、そんなわけないじゃないですかぁ…………

 はは」


 すごく乾いた笑い声が聞こえた。


「波島さんも、私の想像みたいな人にならないように気を付けてくださいねぇ?」


「ええと…………はい…………」


 わたしはそう言ってやんわりと先生のもとから歩き出した。


「なんか…………闇深くない?★★あの先生★★」


 ついてきた星ちゃんがそう言った。


「わたしもあんな風になってる先生初めて見た…………」


 いつもふわふわしていて、笑顔で、何を考えているかわからない先生ではあったでど。

 ふわふわ…………は一応してたか。

 笑顔…………でもあったな。暗かったけど。

 何を考えているかわか…………らなかったな、あの人。

 一応普段と変わらなかったといえばそうだけども、こう…………ある意味裏の顔に出会ってしまった。


「そう言えば、星ちゃん

 これどこに向かってるんだっけ」


 なんだかんだ聞いていなかった。

 今どこに向かっているのだろう。


「ん~★★」


 そう言って星ちゃんは走り出した。


「ここ❢❢」


 そう言って星ちゃんはある茂みの奥に続く細い獣道を指さした。


「ここ通るの?」


 わたしも走ってそこに行き、星ちゃんに尋ねた。


「いっつも影兄の家に来てるんだったら別に変わんないでしょ?★★」


 確かにそうだ。

 この時期は蚊がうざったらしいのだが、最近羽の音も刺されたかゆみもなんか慣れてきてしまった。一つ強くなった気がする。おい、わたしのことゴリラって思ってないよな?


「まあそうだね」


「じゃ、行こ★★」


 そう言って私たちは茂みの中に入っていった。



ーー影視点ーー



「はあ?」


 トイレから戻ってくると、そこにはもう――誰もいなかった。

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